見出し画像

アトランティス奇譚 最果ての星の物語 第十一話

ひとつ前の話はこちら


♢地上の重力♢

その長い歴史の中で多くの星を開拓してきたシリウスだったが、今回の誤算はこの星の重力の影響を見誤ったことで生じたものだった。

シリウスに保管されている膨大な調査資料の中には、他の太陽系の磁場についてのデータも幾つか存在していたが、特筆して注意すべき情報は見当たらなかったのだ。

しかしながらまだ若く勢いのある僻地の太陽と第三惑星の磁場が連動して生み出す地上の重力が、彼らの細胞にこんなにも大きく影響するということは、シリウスの科学者ですら誰も予測ができなかった。

そして、この星の重力エネルギーの凄まじさは海王星にとっても大きな驚きだった。

我が愛しい太陽と、この美しい第三惑星との磁力の相関から生まれる地上の重力が、他の星系からの訪問者にこんなにも甚大な影響を及ぼすとは。

海王星は、内心でほくそ笑む。

この星に降りたものたちは、地上の重力に絡め取られて二度と帰れなくなるのだ。なんと愉快な、そして、なんという不愉快なことだろう!

しかも、その重力の法則によって今回この星に取り残された犠牲者たちは、なんと、シリウスの最重要機密である分御霊なのだ。

それらの情報は海王星にしてみれば、思いもよらず飛び込んできた大きな幸運だった。

この千載一遇のチャンスにどう立ち回ろうか。

海王星の脳裏には幾つものシナリオが浮かびあがってゆく。



重く沈黙するシリウスの分神(わかつかみ)たちには、この困難を打開するための手段が何一つ見つからない。情報が少なすぎるのだ。

彼らの思いとしての「分御霊全員をなんとしても連れて帰る」という弁に嘘はなかったが、試運転を繰り返した帰還船のエネルギーは、もはや全員を乗せて帰るためには足りなくなっていた。

なにより、大気圏を越えられないとわかっているキメラたちを連れ帰るにはどうすればいいのか。

何一つ策はない。
そして、残り時間はわずかだった。

沈黙を破ったのは金の髪に青い瞳、物静かな雰囲気を持つトトだった。

「海王星、と仰られましたか」

柔らかな声音と凪いだ瞳で真っ直ぐに見つめてくる。

「貴方はもしや、分御霊たちを救うための策をお持ちなのではないでしょうか?」

問われて海王星は自身の記憶を振り返る。

トトと呼ばれる分神と同じ姿を持つ分御霊は、地上では見かけたことがなかった。
なんとも気弱そうな優しげな様子に見えて、突然船に乗り込んできた正体不明の異星人を前に怯みもせず、新しい可能性を探そうとしている。

海王星は内心感嘆する。

なるほど、能無しばかりの船ではなかったようだ。
そして胸の奥で、再びほくそ笑む。
その度胸がどの程度のものなのか、少し試してみるとしよう。



海王星は戸惑ったふりをする。

「なぜそのように思われますか」

トトは目を逸らすことなく答える。

「分御霊たちの無意識領域に侵入して彼らを鎮めたのが貴方であるのなら、きっと我等には成しえない形で彼らを救ってくださる術をお持ちなのではないか、と考えました」

海王星は、トトの予想以上の分析力の高さに、今度ははっきりと感嘆する。

「素晴らしい分析力ですね。確かに私には案があります。しかしながらそれは、まあ、救いと言えば救いなのですが」

ここで一旦言葉を切って、海王星はトトの目をまっすぐに見返す。

「あなた方にとってすれば、それは全く救いとは思えないでしょう」

海王星の言葉にトトは軽く目を見開くと、思案するように視線を揺らす。

僅かののち、トトは答えた。

「貴方にとっての救いがどんな形であれ、私たちに選択肢はないのです。もう猶予はありません。話を伺いましょう」


つづきはこちら


********************
ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。
「アトランティス奇譚」は2020年にnoteに発表した「アトランティス崩壊前夜」という物語を大幅に加筆・修正したうえで、2026年note創作大賞に応募しております。

前後の物語はすべてマガジンにまとめてあります。
応援いただけたらとても嬉しいです。

いいなと思ったら応援しよう!