アトランティス奇譚 最果ての星の物語 第四話
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♢雫と隼♢
天狼星の指示を受け、水の神殿の主である雫(しずく)と、風の神官・隼(はやぶさ)は、島の南西にある小さな船着き場へと向かっていた。
遠い昔、星の船が行き来したというその場所は、今は専らイルカたちのための遊び場と化していた。はしゃぐイルカたちの声がかすかに届く。夏の午後の日差しが強く降り注ぎ、二人を明るく照らしていた。
アトランティスは、明日の正午、跡形もなく海に沈んでしまう。
あまりの衝撃に言葉もなく、俯きがちに進む雫に、隼が小さく問うた。
「雫さま、新しい陸地は見つかるでしょうか?」
不意の問いかけに、雫は顔をあげる。
「イルカ達は『知っている』と言っています。きっと見つかります。ただ……」
そこまで言葉にして、雫は眉を曇らせる。
「私たちは、この島しか知りません。たとえ陸地が見つかったとして、この島以外で生きていくことなど、果たして可能なのでしょうか」
隼も返す言葉を見つけられず、二人は再び沈黙のまま歩みを進める。
明日の昼には、この島は沈むのだ。
残された時間の少なさに絶望しながら、それでも今するべきことを進めるしかない。
船着き場へ着いた二人はすぐにイルカたちを呼ぶと、外へ抜ける細い水路を越え、海へと向かった。
よく晴れた夏の空は見通しもよく、浮き沈みするイルカたちの背を眼下に、鳥になった隼は高く空を進む。
島を出て半刻も経った頃、思いのほか早く陸地の影を見つけ、隼は少しだけ安堵した。
陸地の存在を伝えるため、隼は高度を下げ、イルカたちに近づいた。
「雫さま、東の方角に陸地が見えます。イルカたちが言うのはあの地でしょうか」
念を送ると、雫は隼を振り仰いだ。
「そのようです。イルカたちは安全と言いますが、もう少し岸に寄れば、浜の生き物たちにも話を聞けます。貴方も空から様子を見てください」
雫の念に対し、隼は了解の印に大きく旋回すると、未知の陸地へ向かい羽ばたいていった。
隼は青い空をぐんぐん進む。頬を打つ風が心地よい。青い空はどこまでも広く、海は光の強さできらきらと色を変える。
「ああ……美しいな」
隼はポツリと呟いた。
あの街だけではない。
この星は本当に美しいのだ。
遠く陸地に緑が見え始める。草が生えている。あの地も、生きている。隼は胸にかすかな希望が沸き上がるのを感じていた。
少し岸から離れた場所に小高い森を確認すると、隼はもと来た道を戻る。なだらかな浜辺を見つけ、隼はゆるやかに降下した。イルカたちと雫も、浜辺近くまで届いていた。
隼の姿を見て、雫は笑顔を浮かべる。
「浜辺の生き物たちも皆優しいです。この地は安全だと言っています。行く当てがないと話したら、歓迎すると言ってくれました」
雫の笑顔に、隼は心から安堵した。
「そうですか、それは心強い。きっと主上たちもお喜びになります。早く戻って知らせましょう」
夕暮れの迫るなか、二人は再び海に出る。太陽が沈むまでに、街に戻らねば。陸地を背に、もと来た道を戻るだけだ。二人は希望を胸に帰路に着いた。
そして、半刻が過ぎ――隼は焦っていた。
間もなく陽も落ちる。
戻らねばならぬのに、道が見つからない。
どんなに高く飛ぼうとも、青いドームの影すら見当たらないのだ。
雫もまた焦りを感じていた。
どんなに泳いでも、同じ場所をぐるぐると廻ってしまう。海の様子がいつもと違う。
イルカたちも怯えている。
「島の匂いを辿れない。甘い嫌な匂いがして目が回る、方向がわからない」というのだ。
隼の羽根も限界が近い。しかし、陽が落ちればもう飛べない。イルカたちも疲弊している。もはやあの陸地に戻り、岸辺で朝を待つしかないのか。
隼は必死で羽を打つ。焦りで胸が痛い。軋む体を駆り立て、ひたすらに青い島を探す。
そして隼は声にせず祈る。
(星読みさま、風の主……どうぞご無事で)
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