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【ウェビナー開催レポート】TNFD/サステナ開示、AIでリスク最小化と機会最大化 ~反ESG時代のサステナ部門の役割とは~

国際社会経済研究所(IISE)の篠崎です。2025年10月6日(月)にIISEが主催したウェビナー「TNFD/サステナ開示、AIでリスク最小化と機会最大化 ~反ESG時代のサステナ部門の役割とは~」の開催レポートをお届けします。

本ウェビナーでは、NECでTNFDレポート第3版の作成をリードされたサプライチェーンサステナビリティ経営統括部の蟹江静香氏をお招きし、AIを活用したサステナビリティ開示の先進的な取り組みについて、その舞台裏を語っていただきました。

「開示のための開示」からの脱却という挑戦

企業のサステナビリティ部門にとって、TNFD、CSRD、SSBJ、CDPなど、多岐にわたる情報開示要請*への対応は、今や待ったなしの課題です。しかし、その膨大な作業量から、多くの企業が「開示のための開示」に追われ、本来注力すべき本質的な活動に時間を割けていないのが実情ではないでしょうか。

世界では「反ESG」の潮流も指摘され、サステナビリティ活動は、より一層ビジネスと直結した「実利」が問われる時代になっています。一方で、気候変動リスクが深刻化する中、私たちはどうすればこのジレンマを乗り越え、リスクを最小化し、機会を最大化できるのでしょうか。

*多岐にわたる情報開示要請
TNFD:自然関連財務情報開示タスクフォース
CSRD:企業持続可能性報告指令(欧州)
SSBJ:サステナビリティ基準委員会(日本)
CDP:気候変動・水・森林に関する環境情報開示を促進する国際NPO

TNFD対応にAIを活用したことの価値

今回のゲストであるNECは、その問いに「AIとの協働」という一つの解を示しました。AIの活用により、調査にかかる工数を92%削減し、リスク評価では約8万時間相当のタスクを自動化。これにより創出された時間や、AIにより膨大に収集できた世界中の情報をもとに、人にしかできない「対話」や「現地調査」といった本質的な活動に振り向けたのです。
本レポートでは、ウェビナーで語られたNECのチャレンジの核心を深掘りします。

AIはパートナー:膨大な情報の海から「対話の種」を見つけ出す

ウェビナーの冒頭、蟹江氏は、NECがTNFDレポート第3版を発行するにあたり、自社の環境知見とAIの知見を掛け合わせた「AI for TNFD」を開発し、活用したことを紹介しました。

蟹江氏「TNFDでは、バリューチェーン上の拠点ごとのリスクを深掘りすることが求められます。自社やサプライヤー様の拠点を合わせると世界で何千にも及び、人手だけでは限界があります。また、気候変動と異なり、自然資本はまだまだ評価手法や測定指標が国際議論の真っ最中です。そもそもどのような項目を調べ、集めた情報もどのような見方をすればよいかなどは、環境専門人材の頭の中だけにある属人的な状態でした。そこで私たちは、AIと協働しながらこの課題解決に取り組みました。」

NECの取り組みの画期的な点は、単なる効率化に留まらないことです。AIに網羅的な一次分析を任せることで、人間は「深掘りすべき重要な拠点」の分析結果をもとに、より本質的に、環境視点での事業リスク・機会の評価や、ステークホルダーとの信頼関係構築に集中できるようになりました。

NECが開発した「AI for TNFD」の一覧

例えば、リスク評価タスクでは、AIが各拠点の水リスクに関する膨大な公開情報(地域の水資源の推移、インフラ、ステークホルダー、歴史文化など)を自動で収集・分析し、拠点ごとの「水調査レポート」を自動生成します。

また、グローバルに多くの企業が利用している汎用的な水リスク評価ツールは、概要の把握には有用ですが、より拠点の立地ごとに具体的に考慮すべきポイントの理解には限界がありました。ここでは国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)と連携し、立地ごとの水資源を考慮した高解像度な水不足リスク評価が可能になり、分析を大きく深化させることができたといいます。

AIが対話の質を劇的に高める

このAIによる事前分析が、人と人との「対話」の質を劇的に高めます。

蟹江氏「以前は各拠点の担当者に『水リスクは大丈夫ですか?』と漠然と聞くことしかできませんでした。しかし、AIが作成したレポートがあれば、『この拠点の周辺はこんな状況のようですが、管理はどのようにされていますか?』といった具合に、具体的で深い対話ができるようになります。このレポートが、現地の担当者や自治体との共通言語となり、ウェブでは得られないような深い情報提供や、本当に事業に役立つ評価をすることでの信頼関係の構築にも繋がりました。」

実際にタイの拠点に現地調査に赴いた際も、AIが集めたタイ語のダムの情報を現地の担当者に見せたところ、「そうそう、この3つのダムをこうやってモニタリングしているんだよ」と、具体的な管理状況をスムーズに引き出すことができたと言います。

タイの現地調査の様子

AIが生み出した時間や膨大な情報処理が、国境を越えた円滑な対話を実現した瞬間でした。

バリューチェーン分析の挑戦

TNFD対応の中でも特にハードルが高いのが、バリューチェーン分析です。NECも例外ではなく、グローバルに広がる複雑なサプライチェーンの自然資本に関する評価は大きな課題でした。ここでは、調達部門のベテランのメンバーにTNFDプロジェクトに参画してもらうことでバリューチェーンを明確化し、評価しました。

NECの調達取引先の生産拠点は2000拠点にものぼるといいます。直接操業で確立した手法が、AI化されたことで、これまででは年に数拠点ずつ取り組むのがやっとという評価が自動化できることで、バリューチェーン分析の高度化に踏み出すことができるようになったといいます。また、NECと直接取引のある調達取引先に関してだけでなく、さらに上流に遡及するのは非常に困難です。こちらの点も産総研との連携で、NECグループがバリューチェーン全体で誘発する水消費量の定量評価を実現したとのことです。

「守り」から「攻め」へ:AIで事業機会を洗い出す

リスクの把握という「守り」の側面だけでなく、サステナビリティ対応をいかに事業機会という「攻め」に転換するかは、多くの担当者が抱える課題です。NECの取り組みは、その点でもAIが強力な武器になったといいます。

蟹江氏「事業部門の方々も当然、社会動向の調査はしていますが、AIを使えば、世界中の環境法規制や競合他社の動向といった膨大な情報を分析できます。それによって、『この国でこんな規制が始まるなら、新たなニーズが生まれるのではないか』とか、『あの競合はここでこんな動きをしているから、NECのこの強みが活かせるはずだ』といった、事業機会の仮説を多角的に洗い出すことができ事業部門と建設的な対話が実現できました。」

AIが客観的なデータに基づいて事業機会の可能性を提示してくれることで、サステナビリティ部門と事業部門との対話が、より戦略的で未来志向なものになります。単なる情報開示対応に留まらず、サステナビリティを起点とした新たな価値創造の議論へと発展させることができるのです。これもまた、AIが「時間」を生み、人が本質的な「対話」に集中できるようになった好例と言えるでしょう。

経営層を巻き込む「事業の言葉」での対話

サステナビリティ活動の推進には、経営層の巻き込みが不可欠です。ウェビナーのQ&Aでは、「どうすれば経営層を巻き込めるのか?」という質問が寄せられました。

蟹江氏「ポイントは2つあります。1つは、サステナビリティを『事業の言葉』で語ることです。『TNFDという規制があるから』ではなく、『ICTが社会課題解決に貢献できる事業機会がここにある』と、ビジネスの目線で繰り返し対話し続けることが重要です。もう1つは、気軽にコミュニケーションできる『場』を作ること。NECでは、Teams上に誰でも参加できる『NEC for Green』というオープンなグループがあり、1,800人以上の社員が部門を超えて参加しています。役員クラスも参加しており、日頃からフラットに情報発信や意見交換を行うことで、経営層の理解を深めることができました。」

NECのTNFDレポート第3版の冒頭に、これまでの環境担当役員ではなく、森田社長自身のメッセージが掲載されたことは、まさにこの「対話」の成果と言えるでしょう。蟹江氏が「3年目にしてやっとここまでこれた」と語る言葉には、同じ立場の担当者として共感する方も多いのではないでしょうか。

AIと共に、サステナビリティを企業の成長ドライバーへ

NECの挑戦は、サステナビリティ開示がもはやコストではなく、企業の競争力を高める成長ドライバーになり得ることを示しています。

今回開発された「AI for TNFD」は、現在、NEC自身のTNFD対応の経験(自社をゼロ番の顧客として対応する「クライアントゼロ」取り組み)で得た知見を活かし、お客様の状況に合わせて個別のタスクから一気通貫まで支援するサービスとして提供準備が進められているといいます。

AI for TNFDのサービスメニュー

那須氏「調査タスクからリスク・機会評価、そしてレポート執筆や広報まで、開示の各プロセスに対応したAIメニューを準備しています。お客様のニーズに合わせて、必要な部分だけを組み合わせて活用いただくことも可能です。」

AIコンサルタントによるTNFD/サステナ開示ご支援プロセス

蔦氏「AI導入に際しては、ハルシネーション(AIが誤った情報を生成する)のリスクや、社外秘情報の取り扱いといった懸念もあるかと思います。私たちはAIの専門家として、そうした課題も踏まえ、お客様が目指す開示内容の高度化を総合的に支援します。」

編集後記

今回のウェビナーで一貫して語られたのは、「リスク・機会評価や開示に必要な、膨大な作業はAIが行ってくれて、サステナ部門は社内外との信頼関係の構築など、人にしかできないタスクに集中できる」という思想でした。AIが創出した時間や集めてくれた情報を使って、サプライヤーや地域社会、そして経営層といったステークホルダーとどう向き合い、対話を深めていくか。その先にしか、真の企業価値向上はないのだと改めて感じさせられました。

次回のウェビナーのお知らせ

建設部門は世界の生物多様性損失の最大30%に関与すると言われる一方で、「ネイチャーポジティブ」への移行は大きな市場機会を創出します。次回のウェビナーでは、書籍『建設ネイチャーポジティブ』の著者・中村圭吾氏をお迎えし、開発の前後で10%以上の生物多様性増加を義務付ける英国の生物多様性ネットゲイン政策や日本の川づくりの事例など、建設・インフラ分野での最前線に迫ります!

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最後に

今後もIISEは、ネイチャーポジティブ経済に向けたICTの可能性についてnote記事やイベント開催などを通して情報発信・対話を続けてまいります。是非、IISEおよび以下、環境のnoteのマガジンをフォローいただけますと幸いです。