【ウェビナー開催レポート】環境情報化が導く共創型サプライチェーンサステナビリティ ~地政学リスク時代に求められる新しい協働のかたち~
2026年1月30日、IISEが主催したウェビナー「環境情報化が導く共創型サプライチェーンサステナビリティ~地政学リスク時代に求められる新しい協働のかたち~」の開催レポートをお伝えします。
世界情勢が激変する中、一社では解決できないサプライチェーンの「持続可能性」という難題に、企業はどう立ち向かうべきか。本ウェビナーでは、サプライチェーンサステナビリティを題材に、環境情報化の「共創」フェーズに焦点を当てました。サプライチェーン、地政学、社会課題とビジネスの接点に精通するオウルズコンサルティンググループ代表取締役CEO・羽生田慶介氏から、地政学リスクの最新の話題を中心に、企業にはどのような視座と行動が求められるのかを解説しました。またNECサプライチェーンサステナビリティ経営統括部・秋山平氏からは、サプライチェーンサステナビリティの実践現場を踏まえ、サプライヤーとの協働・共創をどのように実現しようとしているのか、その事例を紹介しました。
「環境情報化」で始まる価値創造(IISE)
IISEからは、鍵となる概念として、「環境情報化」を提示しました。
(参考記事:「環境情報化」が拓くサステナブル経営の未来、「環境情報化」による企業の環境対応の高度化、「環境情報化」が加速させる業界・地域のバリューチェーン共創、「環境情報化」が加速させる業界・地域のバリューチェーン共創 ~前編、「環境情報化」が加速させる業界・地域のバリューチェーン共創~後編)
近年の動向として、規制や社会的ニーズを受けて、企業はESG・サステナビリティを経営に統合し、その取り組みを正しく開示することが求められています。重要なのは、こうした対応が一社では完結しないということです。製品やサービスを支えるバリューチェーン全体、サプライチェーン全体で、プレーヤーが共に取り組むことが大切となっています。地政学のトレンドは、その社会動向の変化の背景になります。
これまで、環境対応というと「コスト」や「ビジネスの制約」として捉えられがちでした。そうしたコスト型の発想から脱却し、環境対応を企業の価値創出や成長の源泉へと転換していくことが重要になります。その鍵となるのが、「環境情報化」です。データを整え、つなぎ、活かすことで、環境対応を経営の力に変える。そういった考え方が、これからのサステナビリティ経営の基盤をつくっていきます。

サプライチェーンサステナビリティの最新動向 ビジネスと地政学・経済安全保障
羽生田慶介氏(オウルズコンサルティンググループ代表取締役CEO)
一変した「サステナビリティ」の前提
サプライチェーンのサステナビリティと地政学の関係は、これまで「地球環境や産業社会の持続可能性にいかに貢献し、負の影響を減らすか」という観点が一般的でした。しかし、この半年で状況は大きく変わりました。現在は、自社のサプライチェーン自体の持続可能性が失われかねない、あるいは戦争すら起きかねないという危機的な状況にあります。
トランプ大統領による国際機関からの脱退の動きなどによって、「何のためにサステナビリティに取り組むのか」が問われる局面です。自由貿易とサステナビリティ、そして経済安全保障を組み合わせて語らざるを得なくなりました。ルールに基づく国際秩序が崩壊し、ミドルパワーが結束しなければならないという事態になっています。オウルズコンサルティンググループが発表したクリティカル・トレンド(参考:2026年地政学・経済安全保障 クリティカル・トレンド)でも、ESG・DE&I[1]の揺り戻しと乖離が国家間だけでなく、国の内部でも起きるようになっています。一方で、アフォーダビリティ(手の届く価格)が重視されるようになっています。

かつては自由貿易の世界観が前提でしたが、今は相互依存が幻想だったという捉え方に変わっています。他国への依存が、自らの首を絞めるリスクとなったからです。現在は、戦時下並みの関税が課される異常な時代です。保護主義が戦争を招いたという歴史の教訓は、もはや通用しない時代に入っています。製造業はこれまで「工場稼働の最大化」と「在庫の最小化」を追求してきましたが、今は「ジャスト・イン・タイム」から「ジャスト・イン・ケース」へと変わらざるを得ません。
予測不能な時代での企業の打ち手
経済安全保障は国だけがやるものではなく、企業が主役です。国ができる対応は限られており、在庫の積み増しや調達の多様化の主体は企業です。他国に頼らず、優位性、自律性と安全性を確保するための政策として「プロテクション(保護)」「プロモーション(振興)」「パートナーシップ(連携)」が進んでいます。
日本企業はジャスト・イン・タイムを極めてきた結果、他国への依存度が極めて高く、サプライチェーンの持続可能性リスクが高い状態にあります。ただし、世界で起きることは予測不能ですが、企業が取り得る打ち手は一定の分類が可能です。サプライチェーンの混乱、研究開発・技術管理の制約、M&Aの阻害、ビジネスチャンスの喪失、サイバーリスクの高度化、DXの停滞、戦争・人権侵害への加担、従業員の逮捕・拘束、リスクマネジメントのキャパオーバー、板挟みのグローバル経営といったリスクに対応する打ち手です。
私たちが支援している「地政学リスクマップ」では、「報道の言葉」ではなく、具体的な「事業の言葉」で語ることを重視しています。特に現在は「川下マネジメント」がホットトピックです。これまでは「売った後は知らない」で済みましたが、サーキュラーエコノミーや経済安全保障の観点から、売った後まで管理することが求められるようになっています。
サプライチェーンサステナビリティに企業が本気かどうかを試されるキーワードがあります。それは「コスト増を前提にする」ということです。調達の多様化や在庫の積み増しなどには必ずコストがかかります。重要なのは、重要なサプライチェーンで増えたコストを、別の場所で削減することです。例えば、多すぎる商品ラインナップを削減する、プラットフォームを減らし管理コストを減らすといった、ポートフォリオの整理をセットで行うべきです。
サプライチェーンサステナビリティの実践を価値へ
秋山平 氏(NEC サプライチェーンサステナビリティ経営統括部 ディレクター)
企業価値向上を支える現場の取り組み
NECグループは、サステナビリティ分野ではCDPの気候変動・水セキュリティで7年連続最高評価を受けるなど、社外から高い評価をいただいています。こうした評価はステークホルダーからの信頼を高め、企業価値の持続的な向上につながる好循環を生んでいます。
サプライチェーンサステナビリティ活動では、2020年度に推進専門組織を立ち上げました。行動規範の策定などの足場固めを経て、現在は人権デュー・ディリジェンスに伴う監査や、Scope3のCO2削減など、取り組みの高度化を進めています。私たちの活動フレームでは、「周知徹底」「リスク評価・特定」「エンゲージ」「情報公開・開示」の4つのプロセスを回しています。
CO2排出量削減について、NECは2040年のカーボンニュートラル達成を掲げています。排出量の7割がScope3のカテゴリー1(購入した製品・サービス)に集中しています。ここはサプライヤーとの共創が不可欠です。そこで「NECグリーンサプライヤプログラム」を体系化し、伴走支援を行っています。具体的には、CO2可視化ツールの無償配布やワークショップの開催、中小企業版SBT取得のハンズオン支援などを行っています。
SAQ(Self-Assessment Questionnaire)による書類点検では、人権や環境のリスクを網羅的に評価するため、毎年サプライヤーに対して調査を実施しています。約200問の設問があり、リスクの高い設問(クリティカルポイント)が未対応の場合は個別ミーティングなどを行い、是正をフォローしています。
NECのSAQの特徴は次の4つがあります。
■ 法規制の変化に合わせた毎年の設問見直し
■ 本社とグループ会社が連携した機動的な調査体制
■ 本社がコントロールタワーとなる一貫したガバナンス
■ Tier1を介した上流サプライヤーへのアプローチ
情報をつなげる仕組みづくり
活動が進化し管理メッシュが細かくなるにつれ、情報収集の工数増加や管理の煩雑さが顕在化してきます。これはNECには限らず、日本企業全体における課題です。調査を受けるサプライヤー側も、複数のバイヤー企業から類似の調査を個別に受けることの軽減負担も課題です。この課題を解決するために開発したのが「Supplier Portal」です(参考:「NEC、サプライチェーンのサステナビリティ変革を加速する「Supplier Portal」の実証を開始」)。昨年12月から実証を開始しており、実証参加企業のうち7割の企業が工数削減を実感しています。中には工数が3割~5割減ったという声もあり、確かな手応えを感じています。

Supplier Portalは、単なるデータ収集ツールではありません。NECのセキュリティ技術を基盤にAI・DXの知見を活用し、バイヤー、サプライヤー、そして各種企業間でセキュアにデータを連携・活用する「サプライヤー情報流通基盤」へと発展させていく中長期的な構想を持っています。現在、Supplier Portalを使った実証にご協力いただけるバイヤー企業を募集しています。サプライヤーからの情報収集に課題を感じている企業と一緒に、解決策を探っていきたいと考えております。
私たちが目指す方向性は「強さ(レジリエンス)」と「しなやかさ(アジリティ)」の融合です。Supplier Portalでリスク管理を強化する「強さ」を築き、その上で人でしかできない付加価値を引き出し、Scope3、人権、地政学リスク、自然資本といった課題に対してリアルなエンゲージメントを推進していく。この価値サイクルを回しながら、サプライチェーンサステナビリティの変革をリードしていきたいと思います。

Q&Aセッション
Q1:データ連携やAIなどのICTソリューションに対して期待することは?
羽生田氏(OWLS):一番は「川下マネジメント」の可視化です。また、トレーサビリティを同心円状にすべて網羅することは非常に大変なので、リスクが高いポイントを把握することにICT活用の期待を寄せています。
Q2:「リスクの高いところにアプローチする」という点について、Supplier Portalは役立ちそうですか?
秋山氏(NEC):全体像を把握したうえで、優先順位を絞ることが重要です。一斉に調査票をばら撒くのではなく、テーマごとにリスクをマッピングしてピンポイントに情報を取りに行く必要があります。Supplier Portalは、テーマごとにブロック化し、機動的な調査に対応できる予定です。
Q3:サプライチェーンサステナビリティの重要性を経営層に理解してもらう際、現場はどのように伝えるべきでしょうか?
羽生田氏(OWLS):「経済合理性」で語ることが重要です。コストが上がる部分と、その代わりにコストを削れる部分をセットで提示すべきです。企業の永続価値は、サプライチェーンが10年後も動いているという前提で成り立っています。持続可能性は遠い未来の話ではなく、今この瞬間の現在価値に直結しているのだ、という伝え方をすることもあります。
Q4:NECの中では経営陣にどのように伝え方をしていますか?
秋山氏(NEC):サステナビリティは「守り」のリスク管理だけでなく、機会や事業価値にどうつながるかを説明してきました。また、自社内の声だけでなく、有識者や外部の声を活用し、健全な危機感を醸成することもポイントです。競合他社の動きなども交えながら、社内の機運を高めてきました。
<Editor’s Opinion>
羽生田氏の話から感じたのは、サプライチェーンを巡る地政学リスクや経済安全保障の問題は、個社の努力や判断だけでは対処できない構造的な課題になっている、という点です。
国際秩序の混乱、人権・環境といった要請が重なり合う中で、リスクをサプライチェーン全体で把握することが重要な時代に入っている、という問題提起を受け止めました。こうした時代に企業はどう向き合えばよいのか。その一つの答えが、NECの取組のように「環境情報化」によって、サプライチェーン全体で情報を共有し、協働して対応していく仕組みづくりではないかと感じています。
(IISE 藤平慶太)
<シリーズ「環境情報化」>
<動画アーカイブ>
[1]DE&I:Diversity・Equity・Inclusion。多様な人材が公平に扱われ、誰もが能力を発揮できる組織や社会を目指す考え方。
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