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「環境情報化」が加速させる業界・地域のバリューチェーン共創 ~前編:多対多のつながりを支えるデータ連携~

 サプライチェーンにおけるサステナビリティ対応は、「求められたデータを提出する」という対応にとどまらず、企業の競争力や事業継続性に影響するテーマになりつつあります。開示や規制対応に必要なデータは年々増加する一方で、一次データの収集は容易ではなく、対応が後追いになりがちな状況も少なくありません。こうした中で重要なのは、環境対応を単なるコストや負担として捉えるのではなく、事業機会の創出やリスク低減につながる経営の基盤として位置づけ直すことです(参考記事:「「環境情報化」が拓くサステナブル経営の未来」)。
 その転換を支える考え方が「環境情報化」です。環境情報化は、まず環境データを意思決定の基盤として整備し、その上でサプライチェーン対応力や規制対応、リスクマネジメント、人材・組織といった企業の内的価値を高めます。さらに、そうした取り組みの積み重ねが、新たな市場やエコシステムの形成、ブランド価値の向上、資本市場からの信頼といった外的・戦略的な価値へとつながっていきます。

図 環境情報化が高める企業価値

 記事「「環境情報化」による企業の環境対応の高度化」では、この環境情報化を個別の「企業」という単位で整理しました。本稿ではその射程を一段広げ、「業界・地域という多対多の環境情報連携が、どのように共通の判断基盤を形成し、価値創出を拡張していくのかを考察します。環境情報化が「企業」から「業界・地域」、さらに「社会」へと広がっていく全体像の中で、本稿が焦点を当てるのは、その真ん中に位置する「業界・地域」の領域です。

図 環境情報化による価値創造の連鎖

<サステナビリティはサプライチェーンで対応する段階に>

 企業が製品・サービスのサプライチェーンでの環境負荷を定量的に把握するため、ライフサイクルアセスメント(LCA)という手法が用いられてきました。LCAは、製品・サービスについて、「原材料調達」「製造」「流通」「使用」「廃棄・リサイクル」というライフサイクルを通じて、GHG(温室効果ガス)排出量、資源消費、化学物質、水使用量などの環境負荷を定量的に評価する手法です。

 LCAの考え方は、企業のサステナビリティにおいて重要性を増しています。地球温暖化の分野では、Scope3排出量の把握、製品カーボンフットプリント、カーボンクレジット算定などにおいて、サプライチェーン全体を対象とするLCA的な考え方が広く取り入れられています。サーキュラーエコノミーの分野では、サプライチェーン全体での資源循環を評価する枠組みであるGCP(Global Circularity Protocol for Business)において、循環性が環境負荷低減につながっているかを検証する重要な分析手法の一つとしてLCAが位置づけられています。ネイチャーポジティブの分野でも、「ネイチャーフットプリント」を把握するLCAの手法が研究されています[1]。

図 LCAの概念

<企業の単位を超えて進むデータ連携>

 このようなサプライチェーンの環境負荷の定量化と、改善効果の把握のためには、上流から下流に至る環境情報のデータ連携が欠かせません。近年では、企業と取引先の枠を超えて、業界単位、または業界横断でのデータ連携が進むようになっています。

 世界で先行するEUのエコデザイン規則(ESPR)[2]は、製品のライフサイクル全体での環境負荷を低減し、持続可能かつ循環型の製品設計を推進するための枠組みです。この規則では、環境に関する情報を誰もが確認しやすくすることを目的に、製品ごとの情報を可視化することが求められています。具体的には、製品の修理やリサイクルに必要な情報や、製品に含まれる懸念物質の情報を、追跡・把握しやすくするための要件が定められています。
 ESPRに基づいて導入されるデジタル・プロダクト・パスポート(DPP)[3]は、原材料、サプライチェーン、リサイクル性、エネルギー消費量、耐久性など、製品に関する情報をデジタル形式で提供・共有する仕組みです。対象となる製品では、QRコードなどのデータキャリアを通じてDPPにアクセスできるようにすることが求められます。2027年以降、特定の製品(バッテリー、電子・電気製品など)から段階的に適用が開始される予定です。これにより、製品のライフサイクルに関わるステークホルダーが、共通の情報にアクセスできるようになり、それぞれの判断や行動に活用されることが期待されています。

図 サプライチェーンのステークホルダー間で環境情報を結びつけるDPP

<日本でも進められるデータ連携>

 日本でも、EUのDPPとの連携を視野に、サプライチェーンにおけるデータ連携の取組がはじまっています。経済産業省などが主導する「Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)」は、業種横断的なシステム連携の実現を目指すイニシアチブです。データ連携のための共通ルールや仕組み(データスペース)の構築に関する取組を進めてきています。データ社会推進協議会(DSA:Data Society Alliance)が主導するイニシアチブ「DATA-EX」は、データ連携に関わる既存の取組が協調する「連邦型の分野を超えたデータ連携」を目指すプラットフォームです。これらのイニシアチブでは、カーボンフットプリントや資源循環などの環境情報のデータ連携に取り組んでいます。
 これらの取組は、「データ主権」を守りながら、「データトラスト」を社会に実装する社会基盤の構築を目指しています。日本では、データは価値がある一方で、「出したら不利になる」「使われ方が分からない」といった不安から、企業間・業界間のデータ連携が進みにくい状況がありました。ウラノス・エコシステム/DATA-EXはこの課題に対し、データを中央に集約せず、各主体がデータを保有したまま、必要な範囲だけを条件付きで連携する分散型の仕組みを取っています。これにより、企業は「誰に・何を・どこまで使わせるか」を自ら決めるデータ主権を維持できます。一方で、認証やデータ来歴管理、改ざん検知といったトラスト技術を通じて、データの真正性や責任の所在を担保します。データ主権とデータトラストを同時に成立させることで、データを守りながら活かす社会基盤の構築を目指している点に、日本型データ連携の特徴があります。

(続きは、「「環境情報化」が加速させる業界・地域のバリューチェーン共創~後編:データ連携とAIによる全体最適への転換~」をご覧ください)

<Editor’s Opinion>

LCAをはじめとするサプライチェーンでの環境評価は、一次データの収集や環境情報を「つなげる」こと、さらには経営の意思決定に「活かす」ための解釈が難しいことが課題でした。こうした課題に対し、業界や地域でのデータ連携の仕組みの構築が、重要な前提条件になりつつあります。さらにAIを活用することで、環境対応のために整えた環境情報を起点に、新たな価値を共創する時代が到来しつつあります。

(IISE 藤平慶太)

<関連記事/シリーズ「環境情報化」>

<参考>

[1] BRiDGE、金融/投資機関による自然関連情報開示促進と国際標準化を前提としたネイチャーフットプリントの開発と実証事業、https://bridge-naturefootprint.jp/

[2] ESPR(Ecodesign for Sustainable Products Regulation):EU域内で販売される製品に「循環性・省資源・耐久性」などのエコデザイン要件を課し、持続可能な製品を標準にするための枠組み規則。

[3] デジタル・プロダクト・パスポート(DPP / Digital Product Passport):製品ごとに、素材・環境負荷・循環性・法令対応などの情報をデジタルで一元管理・共有するためのEU主導の仕組み。

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