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「環境情報化」による企業の環境対応の高度化~未来を見据えた経営基盤の構築~

「環境情報化」によって、企業はどのように経営基盤を強化していくべきなのでしょうか。本記事では、IISEが考える「環境情報化」の概念(記事:「環境情報化」が拓くサステナブル経営の未来)のうち、企業の課題解決に対する環境情報化のあり方について掘り下げていきます。

規制を起点として求められる環境対応の高度化

 近年、企業の「環境対応」は、自主的な取り組みにとどまらず、規制対応を起点とした重要な経営課題となっています。さらに、環境情報の開示をめぐる要請は、報告義務対応のみでなく、環境情報を経営に統合する必要性を高めています。
 2022年から東京証券取引所プライム市場では、TCFD[1]への実質的な準拠が求められるようになり、気候リスク情報は投資家が重視する「経営情報」となりました。また、2025年3月にSSBJ[2]がScope3[3]を含めた開示基準を公表しました。今後は、大企業を中心に2027年度以降の段階的適用が見込まれており、サプライチェーン全体のCO₂排出量の可視化が求められる見込みです。取引先や物流を含むバリューチェーン全体の排出量を把握する動きが強まり、企業の責任範囲は自社の枠を超えて拡大します。
 また、製品単位のCO₂排出量を定量的に示すCFP(カーボンフットプリント)[4]の開示が注目を集めています。欧州では特に、バッテリー規則により2025年からバッテリーのCFP表示が義務化される予定で、製品の環境負荷への取組が市場競争力の一要素になりつつあります。欧州では今後はバッテリー以外の製品も随時対象となっていく予定です。これにより、企業は「どの製品がどれだけの排出を生むか」を明示し、設計段階からの排出削減を組み込むことが求められています。
 さらに、2023年にはTNFD[5]が、気候変動だけでなく、自然資本への依存と影響に焦点を当てた新しい開示フレームワークを公表しました。金融機関やグローバル企業がいち早く導入を進めてきましたが、COP30でのISSB[6]による発表[7]を経て、今後はTCFDと並ぶ「必須の国際標準」となる道筋が確定しました。ISSBは、次なる基準開発においてTNFDの内容を統合することを明言しており、EUのCSRD[8]における生物多様性基準の組み込みと合わせ、世界的な制度化が加速しています。環境対応の対象が「地球温暖化」から「自然との共生」へと拡張しているのです。

 持続可能な成長に向けた環境情報化による経営改革

 企業の「環境対応」は、これまで規制対応や報告義務が中心でした。今後は、上記のような動きを受けて、環境情報を経営の質を高めるために活用していく時代に変わります。制度対応を通じて整備される環境情報は、企業の投資判断や事業戦略を支える経営情報として活用可能になります。下の図は、環境情報化を経営に統合していく段階を示したものです。

  最初の段階は、「規制/BCP対応・リスク/機会評価」です。この段階では、環境報告やリスク対応のために必要最低限のデータを管理している状態です。データは紙やExcelなどで個別に扱われ、属人的な対応にとどまります。環境対応は守りの活動であり、事業リスクを避けるための取り組みという位置づけです。
 次に進むと、「DXによる見える化・定量化」の段階に入ります。ここではICTを使って、排出量やエネルギー消費を可視化・定量化します。属人的な管理から脱し、組織全体で情報を共有できるようになります。どの部門・設備がどれだけ環境負荷を出しているのか、どの対策が効果的なのかを数字で把握し、改善の方向性を明確にできるようになります。
 続くのが、「DXによる業務変革・効率化・高度化」です。情報が整ってくると、AIや分析ツールを活用して、業務そのものを変革できるようになります。たとえば、設備稼働や物流の最適化による省エネ、生産ラインの自動制御による排出削減など。環境対応がコスト削減や品質向上にもつながり、経営上のリターンを生む段階です。組織文化も、DXに合わせて変革していきます。この頃には、環境情報は報告のためではなく、業務を賢く変えるために使われ始めます。
 こうして業務レベルで蓄積・高度化された環境情報が、経営層の意思決定プロセスに直接組み込まれることで、「サステナブルデータドリブン経営」へと進化します。財務情報と非財務情報が統合管理され、環境情報が経営情報として用いられるようになります。企業価値の最大化を目指すべく、環境情報が未来を読む「経営の羅針盤」となっていきます。
 このように、環境対応は「単なる見える化」から「財務・非財務を一体で扱う統合開示」へと進化しています。統合開示は顧客・投資家対応という外部要請への対応にとどまらず、その過程で整備・高度化された環境情報が、経営内部の意思決定を強化していくための基盤となります。それによって、サステナブルな成長を実現します。

 「環境情報化」で強化される意思決定

 業務変革、さらにはサステナブルデータドリブン経営を実現するために、企業の「環境情報化」が必要となります。
 環境情報化の概念(記事:「環境情報化」が拓くサステナブル経営の未来)で示す「整える」「つなぐ」「活かす」という取組が、具体的にどのように企業の意思決定に関わるのか。特に多くの企業が環境対応を求められるGHG排出量と水資源の環境負荷の事例で考えてみます。 

GHG排出量情報

 前述のように、企業は全社でのGHG排出量の収集・分析が求められるようになっています。企業活動や製品のScope3を含めたGHG削減は今後いっそう求められるようになります。

「整える」:多くの企業では、電力使用量、CO₂排出量、水使用量、廃棄物量などが拠点ごとにバラバラに管理されて存在します。これらのデータを自動収集し、クラウドで集約して分析し、その結果を誰でも見られるようになれば、全社員がリアルタイムで状況を把握して行動変容を促すことができます。
「つなぐ」:自社のみでなく、サプライチェーン全体の関係者で、「環境情報」として共通フォーマットで共有することで、Scope3排出量の削減策を協働で検討できるようになります。
「活かす」: AIによる分析で、「最も低炭素かつ低コストなサプライヤー組み合わせ」や設計への反映を検討でき、調達戦略に活かすことができるようになります。

 水資源リスク情報

 水資源リスクも、今後把握が求められる環境情報の事例です。水資源リスクは、単なる環境課題にとどまらず、供給停止やコスト増、さらには事業の立地・撤退判断にまで影響を及ぼす、重要な経営リスクとなりつつあります。しかし、サプライヤーすべての情報を収集するのは容易ではありません。効率的に情報を分析し、意思決定に活用する仕組みが必要となります。

「整える」:水資源の評価ツール(Aqueduct[9]など)を用いて取得した世界中の事業拠点やサプライヤーの水資源リスク情報(干ばつリスク、洪水リスクなど)をAIで収集自動で整理した環境情報をダッシュボードなどで可視化する。
「つなぐ」:可視化されたサプライヤーの地域固有の水資源リスクを、適切に関係者に共有する。同じ情報を持つことで、サプライチェーン全体の関係者で事業継続に向けた協力関係を醸成する。
「活かす」AIで事業や地域固有の水資源リスクのシナリオ分析をおこなうことで、適切な危機管理対策や、水資源が重要となる商品・サービスの市場戦略の策定をおこなうことができるようになります。

ここでは、GHG排出量や水資源を事例として、「環境情報化」が企業の経営判断に活かされる事例をみました。可視化、データ連携、AIといったICTを用いることで、企業の意思決定が強化されます。

 <参考記事>

水資源リスク情報のAI活用事例については、以下の記事もご参照ください。

 <関連ウェビナーのお知らせ>

2026年1月30日に、サプライチェーンサステナビリティに関するウェビナーを開催します。

 <Editor’s Opinion>

 本記事の事例では、GHG排出量や水資源の事例で、「環境情報」を活用した経営基盤の構築について考えました。エネルギー、サーキュラーエコノミー、生態系など、さまざまな環境分野でも同じように環境情報化による意思決定の強化がおこなわれるようになります。環境情報を経営の中核に組み込むことで、企業は自社内の意思決定を高度化するだけでなく、取引先、地域、社会と情報を共有し、共に課題解決に取り組むための土台を獲得します。

今後のIISEの記事やウェビナーでは、その目指すところをより具体化していきたいと思います。
 (IISE 藤平慶太)


[1] TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures/気候関連財務情報開示タスクフォース):気候変動が企業の経営や財務に与える影響を適切に開示するための国際的な枠組み

[2] SSBJ(サステナビリティ基準委員会 / Sustainability Standards Board of Japan):日本におけるサステナビリティ情報開示の会計基準を策定する公的専門機関

[3] Scope 3:自社の事業活動に関連するサプライチェーン全体(上流・下流)での間接的な温室効果ガス排出量

[4] CFP(Carbon Footprint of Products/製品のカーボンフットプリント):製品やサービスのライフサイクル全体で排出される温室効果ガス(GHG)量を可視化・定量化する仕組み

[5] TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures/自然関連財務情報開示タスクフォース):企業が自然資本(生物多様性・生態系)に関するリスクと機会を開示するための国際的な枠組み

[6] ISSB(International Sustainability Standards Board/国際サステナビリティ基準審議会):投資家向けのサステナビリティ情報開示基準を国際的に統一するために、IFRS財団の下で設立された組織。

[7] IFRS、ISSB welcomes TNFD's support as it advances nature-related disclosures(2025年11月7日)、https://www.ifrs.org/news-and-events/news/2025/11/issb-welcomes-tnfd-support-nature-related-disclosure/

[8] CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive/企業サステナビリティ報告指令):EUが企業に対してサステナビリティ情報の開示を義務づける法制度

[9] World Resources Institute、Aqueduct、https://www.wri.org/aqueduct

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