ソートの社会実装を加速するために、政治・行政への理解と働きかけはどう生きる? ~日本にパブリックアフェアーズの浸透を目指す小野寺浩太氏に聞く、ソートリーダーシップ活動のヒント~
「ソート(未来の構想、思い、ビジョン)」をつくり、共感を生み、社会実装を行う一連の流れとして、IISEが定義する「ソートリーダーシップ活動」。その重要性を多角的に考察し、成功のヒントを見出して新たな知見を浮上させるために、各専門家にインタビューしていきます。今回のお相手は、Next Relation代表取締役CEOの小野寺浩太氏。政治や行政に働きかけ、ルールや制度をアップデートすることによる新たな市場の創出や、イノベーションの社会実装を促進する「パブリックアフェアーズ(PA)」の領域から、企業を支援しています。PAを成功に導く秘訣やソートリーダーシップ活動との共通点、参考にできる学びについて聞きました。
「自社には関係ない」と思い込んで、気づかぬうちに機会を失っていないか?
――そもそもパブリックアフェアーズ(PA)とは何か、教えてください。
小野寺 まず、PAの定義ですね。私なりにまとめれば「企業や団体が、政策決定に影響を与えるステークホルダーに働きかけ、望ましい市場環境を整えるための戦略的コミュニケーション活動」となります。
重要なのは、PAは目的でなく手段であるという点です。目的は事業機会を創出し、広げることです。

PAには、2つの方向性があります。1つは「政策に働きかけ新たな市場環境を創出し、その中で事業を伸ばすこと」。もう1つは「既存の政策を、最大限に生かすこと」です。前者の定義だけだと、縁遠く感じてしまう人が多いと思います。しかし、後者の定義に照らして考えれば、必ずしも政治や行政に働きかけて環境を変えるといった大それたことをしなくてもよい。今ある政策を学び、トレンドを正しく理解すれば、新たなビジネス機会やリスクが見えてくるということです。
どんな企業でも、法令や税制、予算、認定や認証など、政策の影響を受けます。その内容を正しく理解していないために、有益な制度を見落としたり、「自社には関係ない」と思い込んで、機会を損失している場合がよくあります。政策を正しく理解すれば、経営の打ち手は増えます。
あるいは、政治や行政がトレンドとして伸ばそうとしている方向に、自社のコアバリューを寄せていくことで、ビジネスを伸ばすことができます。政策を変えなくても、理解して活用するだけで、チャンスは広がるわけです。

(画像ご提供:Next Relation)
――小野寺さんが関わったPAの事例を教えてください。
小野寺 2024 年、当社はコンテンツ業界の某クライアントに伴走し、「骨太の方針」でコンテンツ産業を重要戦略に位置づけるための働きかけを行いました。その後、政策アジェンダとしての高まりを踏まえて、岸田総理(当時)が「コンテンツ産業で経済効果50兆円を目指す」と発言しました。
コンテンツの産業規模は、半導体をしのぐ可能性があります。加えてコンテンツ産業は、政府が進める成長戦略「新しい資本主義」との親和性も高いです。日本のコンテンツ産業は、海外市場でも十分に戦える。海外でファン層を広げれば、「聖地巡礼」のような形で観光産業に戻ってきます。
IPホルダー(※)が抱えている課題感、業界の多重下請け構造の実態などを取りまとめ、発言の機会があるたびクライアントから政策提言を実施。その成果として、昨年の骨太の方針でコンテンツ産業が日本の重要戦略の1つに位置づけられました。先述の岸田総理の発言も追い風となり、ここまでつながったわけです。
※IPホルダー:IP(知的財産)の所有者。コンテンツ産業においては、アニメ、漫画、ゲーム、キャラクターなどのコンテンツとその権利を保有・管理し、活用する企業や個人を指す
「政治・行政」と「社会・世論」、両方からいかに共感を得るか?
――「ソートリーダーシップ活動」についてはどうお考えですか。
小野寺 PAとは多くの共通点があると感じます。最大の共通点は、多くのステークホルダーとの最適解を探りながら、合意を形成していくところです。言い換えると、どちらも社会的な受容性を高める活動です。
政治や行政に対してただ働きかけているだけでは、PAは成功しません。自分の利益のために社会を変えようとしているという、我田引水的な認識をされてしまうからです。それでは、世論が共感してくれません。
PAは、世論のサポートを受けて初めて成功します。どんなに良い提案でも、世論からの共感を得られなければ、社会構造を変えることはできません。

つまり、政治や行政に働きかける「ガバメントリレーションズ(GR)」と、社会や世論に働きかける「パブリックリレーションズ(PR)」の2つの活動が、常に存在するわけです。両方がうまくいかないとPAは成功しない。GRだけ進めても、本来、課題を解決するための活動なのに、逆に新たな課題を生んでしまいかねません。
大事な要素は2つ、「大義」と「共感」。秘訣は目詰まりの解消と、自分ごと化
――ずばり、PAを成功させる秘訣を教えてください。
小野寺 成功に不可欠な要素が2つあります。1つは、先ほどから述べている「共感」。もう1つは「大義」です。
大義がなければ、そもそも政治や行政においてアジェンダとして扱ってもらうことはできません。また、世論の理解を得て社会に共感してもらえなければ、政策に落とし込まれることはありません。大義と共感があって、初めてPA活動が成立します。
その上で、次の4つの要件を備えている必要があります。1つ目は「目詰まりを特定できていること」です。市場や業界の循環がうまくいっていない場合、必ずどこかに目詰まりが起きています。それを特定できているかが重要です。
2つ目は「それを解決できるソリューションがあること」です。アイデア段階の場合もあれば、既に商品やサービスが存在する場合もあります。
3つ目は「解決した先に、市場の拡大を示せること」、そして4つ目が「市場拡大後の利益が、自社だけでなくバリューチェーン全体に行きわたること」です。この2つについては、エビデンスやデータをもって語れることが重要です。
――目詰まりとは、例えばどのようなことですか。
小野寺 例えば人が必要な産業に人が集まらない場合、そこが目詰まりしていると言えます。解決には、賃上げや労働環境の改善など国からの支援も必要でしょう。世論的に成長産業という認識がなければ、社会への啓発が必要かもしれません。
本来成長すべきものが、成長できていない。その原因が、目詰まりです。それを特定できれば、必要な政策が見えてきます。例えば「一時的な補助金で後押しする」とか「障害になっている古い法律や規制を変える」といったことですね。ボトルネックとなっている社会課題を、業界構造の問題として語れることが重要です。
現在の政府の成長戦略である「新しい資本主義」では、業界の成長を支える循環には、3つの段階があるとまとめています。「その業界で働く人の循環」が小循環。「業界全体の循環」が大循環。その外に「グローバルな国際循環」があります。循環を阻害する目詰まりを解消できれば、市場はさらに大きくなり、グローバルな市場との接続がさらにシナジーを発揮する。先ほど紹介した、コンテンツ産業におけるPAの事例がまさに該当します。

――世論からの共感を得るには、何が必要でしょうか。
小野寺 生活者が「自分ごと化できるか」にかかっています。社会課題が解決され、新しい市場が生まれる。その出口が見えていなければ、政治や行政は動きません。その上で世の中の人々の生活や仕事がどう変わり、どのようなメリットが得られるのか。ここまで語れて、ようやく世論は動きます。

そのためには、提案しているものを社会視点で語る必要があります。自社視点で語ると、自社製品の優れている点、効果、コストなどを強調しやすくなります。それではPAになりません。自社のソリューションが社会に浸透した結果、現在のトレンドで言えば、働き方改革やウェルビーイングなど人的資本への接続、社会価値に対してどのような貢献ができるかを語る必要があります。また、第三者に語ってもらうことも重要です。こうした活動における発信の主語は、「私(I)」ではなく「私たち(We)」です。
――そうしたコミュニケーションを成功させるためには、どのような姿勢で臨むべきでしょうか。
小野寺 まず「政治家や官僚は自分たちと相対するものだ」という発想を変える必要があります。社会課題を解決したり、新たな市場を創出したりするという目的の前では、政治家も官僚も民間もみな仲間であり、チームとして臨むべきです。対立するものではありません。
政治家や官僚は、一緒に課題を解決し、市場をつくるパートナーです。例えば、役所も財務省から必要な予算を獲得するために、財務省査定に備えていく必要があります。その政策の必要性、社会の許容性、民間が持っている具体的なアイデアやエビデンスなどを総動員して、官僚と一緒に考え、最終的な政策としてアウトプットするための協力関係をつくれるかどうかが重要になります。
イノベーションとレギュレーションは「クルマの両輪」
――小野寺さんが企業のPAを支援する会社を立ち上げた経緯について、教えてください。
小野寺 学生時代には国会議員秘書のインターンに参加していました。大学卒業後は金融機関に就職しましたが、やはり政治や政策への関心が高く、国会議員の公設秘書に転身したんです。その後は不動産テック企業に移って政策渉外部門を立ち上げ、担当役員として業界団体の運営などに携わりました。そうした経験をもとに、企業のPAを支援するNext Relationを設立しました。
国会議員の公設秘書をしていた当時、FinTechやシェアリングエコノミーなど、既存の法律やレギュレーションが想定していなかった新しい商品やサービス、概念が続々と登場し、ルールと現実のギャップが顕在化した時代でした。イノベーションを社会実装するには、既存のレギュレーションに関する様々な課題をクリアする必要があります。イノベーションとレギュレーションは、社会の進歩に欠かせない「クルマの両輪」であることを実感しました。
次に参加したのは、不動産とテクノロジーの融合を目指していた上場企業です。議員秘書時代はロビイング(※)を受ける側でしたが、今度はそれを仕掛ける側になりました。具体的な仕事としては、業界団体を立ち上げ、政治や行政に対して政策提言をしていきました。
※ロビイング…企業や団体などが政策決定者(政治家・官僚)にビジネスの視点で政策提言などを働きかける活動の全般。PAにおける戦術の一つ。
つまり私は、ロビイングを受ける立場、仕掛ける立場、支援する立場の3つを経験していることになります。
――3つの立場を経験される中で、どのようなことを感じましたか。
小野寺 ひと口に国会議員といっても、国会でどの委員会に参加しているか、どのような部会や議員連盟に参画しているかによって、その性質は大きく異なります。私が秘書を務めた議員は、財務金融委員会やFinTechに関する勉強会の立ち上げなどに参加し、新しいテクノロジーやアイデア、サービスを持ったスタートアップと日々接している方でした。また、歴史の長い大企業の多くは、政治や行政に対する渉外部門を自前で持っています。秘書時代は、周りにそのような企業が多かったため、それが当たり前だと思っていました。

しかし再び民間に転職すると、それが一般的な思考ではないことを知りました。世間一般では、PAやロビイングは特殊なことで、その実態はよく知られていません。発想がないだけでなく、政治や行政に働きかけること自体が、何か悪いことであるかのようなイメージすら持たれています。
このギャップを解消しなければ、日本ではイノベーションの社会実装が加速しません。ロビイングを支援する人や企業を増やしていく必要があると感じ、Next Relationを設立しました。
地道な働きかけで、協力者を増やしていく。その積み重ね
――ソートリーダーシップ活動もPAも、「仲間づくり」が重要であるかと思います。どのように「仲間づくり」は進めていくべきですか。
小野寺 PAとは華やかな世界ではなく、泥臭い取り組みの積み重ねです。国会議員のところには毎日、多数の陳情や相談が来ますから、一度くらい何かを働きかけても、すぐに埋もれてしまいます。
大事なことは次の4つです。
1.ステークホルダーの全体像を把握する
2.コミュニティを形成する
3.共通の利益を見出す
4.官民・双方向の働きかけ(両利きの外交)
まずは「1.ステークホルダーの全体像を把握する」。最初にすべきは、関わる全てのプレイヤーを洗い出すことです。政策決定者(政治家・官僚)だけでなく、政策審議会に誰が入っているか、メンバーの確認なども大事です。地道な働きかけを継続しながら、理解してくれる相手を少しずつ増やしていきます。
次に、「2.コミュニティを形成する」。業界団体の新設は一つの選択ですが、マストではありません。競合他社を含む多くの人を集めて勉強会を開催し、共通課題を持てるコミュニティを形成するのが有効です。勉強会は特定企業の利害ではなく、業界全体や社会的な課題をテーマにできるため、多様な参加者が集まりやすいメリットがあります。
こうして賛同者、仲間が増えていきます。仲間とは「自社の利益」では動かない人たち。そこで「3.共通の利益を見出す」ことが重要です。今まで洗い出してきたすべてのステークホルダー(バリューチェーン上の対象者)にとっての「共通の利益」を特定・明確化していきましょう。例えば業界全体の認知度向上、社会課題の解決、規制緩和による市場拡大……といったものです。
そして「4.官民・双方向の働きかけ(両利きの外交)」です。民間からは政策決定者に向けて「これだけの企業や生活者が集まっている」という事実を示すこと。仲間となった人や企業からの声・フィードバックを受け、エビデンスの収集を進めておけば、政策決定者とのコミュニケーションに活用できます。また政策決定者からは民間に向けて、「この政策(勉強会)に役所や国会議員が参加している」という事実を示すようになります。双方が互いを見て動き、相乗効果で仲間づくりが加速していきます。
このように段階を踏んでいくと、委員会、部会、国会質問などの形で、アジェンダのレベルが徐々に上がっていきます。国会や部会で取り上げられると、それが解決すべき社会課題であるという認識が広がります。骨太の方針に盛り込まれれば、具体的に予算が付いたり法令の改正が進みます。

政策の決定にはプロセスがあります。例えば予算を取るためには、春から夏にかけて省庁ごとの概算要求が取りまとめられ、9月頃から財務省査定が行われ、12月に政府予算案になり、1月から始まる国会審議を経て成立に向かいます。1年間のカレンダーを見ながら、適切な時期に適切な提案をしたり、行動したりする必要があります。こうした活動を、数年かけて地道に続けます。PAは協力者の努力の上に成り立つものです。そうした協力者を集めていく過程で、ソートリーダーシップ活動の考え方が生きてくると思います。
――今後はどのようにPAを推進していきますか。
小野寺 PAの活動自体を、1つの市場として育てていく必要があります。政府はPAサービスのことを「新市場創出サービス」と呼んでいますが、簡単に言えば、ロビイングとその支援のための市場です。米国には4500億円ほどの市場があると言われていますが、日本はまだその10分の1程度しかありません。
日本では、ロビイングに関するルールや透明性確保の仕組みが整備されていません。G7の中でルールが存在しないのは日本だけ。例えばアメリカではロビイングを通して「誰に会ったか」「いくら使ったか」を四半期ごとに報告する義務があります。これにより透明性が確保され、ロビイングは「当たり前の権利行使」として認知されています。
翻って日本では、ルールが未整備ゆえに「後ろめたいもの」と見られがちです。企業がPAの実績を表に出しにくく、結果として成功事例がオープンに共有されず、他の企業が学ぶ機会も限られてしまっています。
日本をイノベーション大国として、国際競争力を高めていくためには、PAが必要です。その認知度を高め、オープンソース化し、企業にとって当たり前の活動にしていく必要があります。オープンソース化とは、PAの事例を広く共有し、ベストプラクティスを確立し、誰もが使えるようなフレームワークへと昇華させていくことを意味します。具体的には先述した政策決定プロセスを分かりやすく可視化したり、企業の成功事例を統合報告書や非財務情報として積極的に開示するように推進したり、再現性を高められるフレームワークの作成を進めていければと思います。
私もnoteで発信を始めました。PAのトレンドや手法について、独自の視点で解説しています。こうした発信の中で私自身も、マインドセットとしてのソートリーダーシップを取り入れていきたいと思います。
<取材を終えて>
ソートの社会実装には、政治や行政の観点が必要になるケースも少なくありません。ソートリーダーシップ活動に関する情報を発信するTL Hubとして、PAの専門家の話は是非お届けしたく、今回小野寺氏に取材をお願いしました。
PAを限られた人のものに留めない「PAのオープンソース化」を志す小野寺氏は、必要なマインドセットからPRや GR を進める上でのステップとその意味まで、PAの勘所を惜しみなく語ってくださいました。さまざまな立場からPA活動に携わられてきた小野寺氏の話は、ソートをビジョンのままにせず社会で実現していくための実践的な学びが多くありました。
PAを成功させる上で必要不可欠な「大義」と「共感」は、ソートリーダーシップ活動でも欠かせない要素です。ソートに必要な4要素として「社会課題」「生活者視点」「企業のパーパス」「技術・商材」を定義していますが、「社会課題」は「大義」、「生活者視点」は“生活者が「自分ごと化」できるか”、に不可欠で、政治家や官公庁、そして生活者の「共感」を得るには欠かせません。PAの本質に触れることで、ソートの要諦を改めて確認できました。
「PAのオープンソース化」の社会実装を進めていく、というソートをお持ちの小野寺氏。取材後「一つのPA活動として、まずは入口としてお読みいただける方が増えれば、これほど嬉しいことはありません」とのコメントを寄せていただきました。PAが特別なものではなく、誰もが学び合い活用できる「オープンソース」として浸透していくとき、日本の社会はより柔軟に変化し、イノベーションの芽を次々と育てられるはずです。私たち一人ひとりも、その変化を共に担う仲間になれるのではないでしょうか。

インタビュイー:Next Relation 代表取締役CEO 小野寺 浩太 氏
明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科修了。
大手金融機関を経て、国会議員公設秘書に転身。フィンテック領域のスタートアップと連携し、勉強会や議員連盟の立ち上げ、政策提言の取りまとめを担う中で、民間企業がルール形成に関与する重要性を実感する。その後東証プライム上場企業の役員として公共政策部門を立ち上げ、最年少役員に就任。業界団体の立ち上げなど政策渉外活動を通じて、不動産テック市場の拡大に寄与してきた。
これらの経験を基に、時代に合わせて外部環境が適切にアップデートされる社会を目指して、パブリックアフェアーズを事業ドメインとするNext Relationを設立、代表取締役に就任。現役のカーリング選手でもあり、CNIA2019日本代表。
企画・制作・編集:IISEソートリーダーシップHub(藤沢久美、寺田亜紀子、福井衛)
