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【連載小説】この恋はチークと共に5

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■不器用な恋の仕方


『三浦くん、おはよう! 良かったら今度ここに一緒に行かない?』

そうしてお店のURLを送る夜二十時半。私はスマホ片手にベッドの上でゴロゴロ転がった。
私からデートのお誘いをするのは何気に今回が初めてなのだ。断られたらどうしよう、緊張が全身を駆け巡って心臓に悪い。

提案したのは宿泊客出なくても利用出来るホテルレストランのアフターヌーンティー。小さなデザート達がキラキラしている写真に惹かれたもの。

あと一ヶ月、何がしたい? と自問自答して出たのが「本気で恋愛に取り組んでみたい」だった。幸いなことに三浦くんという相手が今居るから結果はどうなっても頑張ろうと決めた。
カフェ巡りは趣味だけれど、アフターヌーンティーは何となくハードルが高い気がして行ったことがない。自分なりに全力を尽くすには丁度いいデートスポットだと思った。

『こういうのって、何着て行ったら良いんでしょうか…?』

返信が来た。三浦くんの戸惑う顔が簡単に想像出来た。いつも通りで大丈夫だと返すとホッとため息をついている猫のスタンプが押された。
日付は予約が取れそうだったので一番近くの土曜日に。あー、楽しみ。と思って起き上がると化粧台の鏡の中の自分と目が合う。

スッピンの、そのままの私。

何となくほうれい線があって、身に覚えの無い部分にシミが新しく出来て、毛穴もしっかり自己主張している。血色の無さも気になる。化粧を落としたあとは見ないようにしていた顔。確実に歳を取っているという現実が恋愛をしたいという自分の願いを簡単に捻り潰す。

こんな顔、三浦くんが見たらどうなるんだろう。彼の周りは当たり前のように二十代の子が多くて、若くてピチピチなはず。そんな子達と比べられたら…生きていけない。

いかんいかん、あと一ヶ月と決めたんだ。それくらいは許されてもいいじゃないか。
化粧水を顔に叩き込んで、もう一度スマホを見る。『緊張するけど、是非お供させてください!』と、嬉しい言葉が表示されていた。心が踊る。

次の土曜日の夕方に予約が空いていたのですぐにそこに決めた。詳細を三浦くんに送るとどっと疲れが出てそのまま寝てしまった。

※※※

「山もっちゃんさ、最近生き生きしてるよね」

仕事中、コーヒーを持ってきてくれた百合香が言った。今度は声を潜めて、

「良い恋愛してるんじゃない?」と。

顔が赤くなるのが自分でも分かった。十五歳下の男の子に熱くなる私の唯一の味方は、とてもワクワクした表情を見せてくれた。

「うん、ちょっと考えてることがあって」
「後で聞かせてね!」

百合香は下手なウインクをして、自分の仕事に戻って行った。私も目の前のパソコンの画面に集中する。さっさと片付けて、三浦くんに会いたい! なんて思いながら。

お昼休憩になった途端、百合香は光のごとく私の元にやってきて会社隣の喫茶店に連れて行ってくれた。ちゃっかり一番奥の席を確保して。
最近の三浦くんの事と自分の考えを彼女に話した。「一ヶ月なんて寂しいこと言わなくてもいいんじゃない?」と言われたけれど、集中することは良い事だとフォローもあった。

「そしたらさ、誕生日を彼に祝って欲しいって今から言うんだよ」
「えっ、私から!?」
「当たり前でしょ、男はイベントなんて覚えてないんだから。言わないで期待して当日何も無くて凹むなんて二十代前半の恋愛みたいなことしてたら身が持たないよ」
「確かに……」

彼におねだりするなんて考えても無かった。誕生日は毎週水曜日の飲みの時にしれっと話したから覚えているだろうと勝手に思っていた。

「分かった。土曜日話してみる」
「私があげた熊野筆、使ってる?」
「え、なに急に。もちろん」
「あれね、乙女の恋が実るようにって厳島神社で一度奉納された特別品なの」
「えっ!?」
「だからきっと大丈夫」

コロコロ笑う百合香が眩しい。
もし、もしこの一ヶ月で三浦くんと正式にお付き合い出来るようになったらお盆休みに熊野筆を握り広島に行って厳島神社に感謝の気持ちを伝えに行こう。なんて事も考えた。その瞬間にそんな可能性はゼロだと頭の中のエゴが否定する。ご飯を終え、自分の机に戻ってちらっと広島行の飛行機を調べてみる程私はこの恋に溺れている。

※※※※

「実際に見ると迫力がありますね」

三浦くんとのアフターヌーンティーデート。
いつもより背筋が伸びるシャンとしたホテルの空間と、ケーキスタンドを飾る小さくも美しいデザート達を前に緊張した声色で三浦くんが口を開いた。

「うん、でも、憧れてたから来れて嬉しい。ありがとう、三浦くん」

めいっぱいの笑顔で感謝を伝える。気持ち悪くないだろうか? なんてネガティブな心の声を無視して。
ケーキやデザートは旬のマンゴーを使ったものでどれも甘くとろける美味しさがそこにある。セットのアイスコーヒーと組み合わせるともっと特別だ。

「サキさんは、お盆休みは実家に帰られるんですか?」

話の中で投げられた質問にちょっと戸惑う。熊野筆のことはもちろん三浦くんに話していないから。少し言葉を濁して返した。

「いつもはそうなんだけど……友達に厳島神社を勧められて、行こうかなって」
「お友達と一緒に?」
「ううん、その子は家庭があって行けないから……一人に……なるなぁ。予約はまだしてないから中止になるかもだけど…」

一人、というワードが胸につかえる。
一人でも生きていけそうなんて言われたいつかの自分の夢を思い出す。

「ふぅん」

意味深な反応にちょっと小首を傾げつつも口に入れたロールケーキが特別美味しくて、話はそちらへ流れていく。デザートをほとんど食べてから今日一番言いたい事を切り出した。

「あ、そう言えば私、お盆より前に誕生日なんだ」
「うん、言ってましたね!」
「あの……三浦くんが良ければ私の誕生日一緒に過ごして欲しいな……って思ってるんだけど……どうかな?」
「もちろん! 大歓迎ですよ!」

否定されなかった事にホッと胸を撫で下ろす。まだ鎌倉で告白まがいの事をしてくれた時の優しい彼がここにいる。

「サキさんからのお誘い、珍しいから嬉しいです」
「あ、そっか、今回が初めてだもんね。いつもありがとう」
「とんでもないです! こちらこそ! どこか行きたいところとかあります?」
「あ……えっと……」

しまった、誘うなら場所候補考えるべきだった! 目が泳ぐ。必死に頭を回転させるもパッと行きたいデートスポットが出てこない。

「まだ時間ありますもんね。 ゆっくり考えてください!」

くすりと笑ってアイスコーヒーを飲む三浦くん。ううん、悔しいくらいに言動が全てイケメン。

「ありがとう……」

肩を縮こませ、下向きでお礼を言う。
誕生日……何かあればいいんだけど。あ、よく考えたらこの日平日だ!

「誕生日、仕事終わったら一緒にご飯コースになりますね」
「ごめん、すっかり休みだと思ってた」
「良いんですよ、楽しみが増えるって事に変わりはないし」

……とまぁ、私にとってはドジを踏んだ少し苦いアフターヌーンティーデートとなった。こんなにポンコツでもう四十代が目の前だなんて。帰りの電車に揺られながら外の景色をボーッと見た。
ふと、百合香の顔が浮かぶ。彼女はどうやって結婚まで持っていけたんだろう。私なんてデートはしてもらえてもお付き合いまでの道のりが程遠く感じる。三浦くんとデートしてもう何回目? また告白してほしいという浅はかな願望虚しく、毎回あっさり駅で別れて終わってしまう。今日も何も無かった。彼の中ではただの友達で止まってしまったのかもしれない。聞きたいけれど、聞けない。

アプリでもやる? それか結婚相談所に乗り込む? スマホで調べる気にもならない。やっぱり私はこのまま一人なのかな。

(一人でも生きていけるならいいのかな……)

誕生日まであと二週間と少し。


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