【連載小説】ファインディング・ユー!第3話
ああ!もう!
カトナーレ火山には是非とも一度登ってみたいとは思っていたさ!思っていたけども!
どうしてそれが今なんだ!?もっとこう、可愛い理想の彼女が出来たときにデートとして行くとか、もっと色々シチュエーションはあるだろうに!
はぁ、スケート靴で五合目くらいまで登ってきた。これまで生えていた草木もここまで来るとまるっきり姿を消すんだな。しかしこれでも青年に追いつけないのは何故だ? 人を運びたがるオオワシドリでも味方につけているような…。あいつらは人を乗せるとうんと飛行速度が落ちるしな。しかし、この短時間でアレを手懐けたのか? いや、もう夕方近いのを忘れていた。七時間もあれば色んな縁が結ばれて友情が育まれてもなんら不思議ではない。
そういえば、私、昼をまともに食べていない!仕方ない、時折カタカタと微弱に山が揺れているのが引っかかるが、ここで一休みしよう。(杖で地面に円を描くと、レジャーシートとバスケットと水筒がポン!と出現する。)
よいしょっと、ふぅ!久々にこんなに動き回ったから体のあちこちが悲鳴を上げているよ。シートの下が石でゴロゴロしているが気にしない!
さぁて、だいぶ遅くなったが本日のランチだ!
今日は、うちの三毛猫がウタマメ粉で焼いたパンに、ハムとレタスとチーズをサンドしてみた!うぅん、間違いなく美味しい!これにムラサキ茶がよく合う!流石私のチョイス!!
そして目の前には立派な山、振り向けば森と小さくなったシャナール滝が一望できるとはなんたる贅沢!これほどまでに贅沢なピクニックが今まであったか?いや、無い!!
火山側から吹く風がぬるいというか、若干熱が籠っているのだけ少し不愉快だが、太陽の活性期が近いから仕方ないか。
はい、ごちそうさま!空腹が解消されてかなり元気が出てきたぞ。食事は何よりも最強な魔法だと誰かが言っていたけれど、本当にその通りだよ。(レジャーシートを囲うように杖で円を描くと、ピクニックセットがポン!と消える。)
さて、活動再開だ。このまま火山の河口付近まで行けばいいだろういか。
お願いだから噴火なんぞしてくれるなよ。こっちは空を飛ぶ手段は持ち合わせてもいないし、きのこの森とシャナール滝を繋いでいたワープ装置も無いんだから!
…はは、大丈夫さジェイリート。よく言うだろう?この火山の噴火はドラゴンが原因だと。確かにドラゴンは居るが、もう高齢で静かに眠っている個体がほとんどだと最近じゃ齢十にも満たない子供でも知っていること。
さっきの地震で火山が揺れたように見えたが、きっと気のせいに違いない!よし!
……とはいえ、ここからは本当に石がゴロゴロと転がっている道。スケート靴で駆け抜けるのも厳しいし、なにより私は汗を流すようなことは嫌い! つまり、自分の足で一歩一歩登るなど言語道断! ではどうするかって? こうするのさ!
(杖で背中を一回叩くとジェリートの背に大量の風船が生えてくる。)
流石に空を飛ぶまでは出来ないが、カトリーヌが使っていた鳩のブーツよりもふわりと!優雅に!ジャンプ移動が可能なのさ! まさに周りに背の高い障害がないこの地にはうってつけだろう? うまくいけばオオワシドリに乗っているかもしれない青年に追いつけることだって可能な代物さ!
本当に、魔法で空が飛べたらどれだけ楽か。
空飛ぶタクシーにもなっている黒馬は、女神カトナーレが移動用に乗っていたことから空を駆ける能力を授かったという。なんとも羨ましい! 当時の人間は何故もっと女神の手となり足となり遣えなかったのか! もし彼女に気に入られていたら我々も空を飛ぶ事が出来たかもしれないのに!
無い物ねだりをするのはよせ、ジェリート。
それより頂上が次第に大きく見えて来ているぞ。
こうして見ると、そそり立つ岩壁のようだ。私という人間がいかにちっぽけか身をもって実感する。
……あっ! いた!青年! やはりオオワシドリに乗って移動していたな!!
流石にあっちの方が高度が高いか……! どうやって降りさせよう…むむ!? 後ろから聞こえる癪に障る甲高い笑い声は!!! クリスリーヌ! お前もここまで追ってきたというのか! しぶといやつめ! しかも私と同じ風船移動じゃないか! ムキー!! あいつとこの私のセンスが同じだと!? 腑に落ちぬ!!!
こうなったら何がなんでも早く青年の元へ……!
ん、んん? オオワシドリが旋回しながら飛んでいるぞ? 一体どうしたというのだ?
おい、クリスリーヌ! 後ろでギャーギャー騒ぐんじゃない! 上がなんだって言うんだ! 上、うえ……?
え……?? 火口付近に見える赤いやつはなんだ?
さっきピクニックをしていた時は無かったはずだぞ!?
お、おいなんだ!? 地鳴りもしだした!岩が転がってくる!! ジャンプした後の着地の難易度が急に上がるとは聞いていないぞ! えっ、なに? まるでドカン? ドカ……わーーーーー!!!!!
(カトナーレ火山火口口が星全体を揺るがすような低い音を立てて勢いよく噴火する。大量の煙と塵を抱えて熱風が空高く立ち上る。オオワシドリと青年、クリスリーヌの姿も煙に消え、ジェイリートも背中の風船が風を強く受けた影響で何処か遠くへ飛ばされていく……。)
※※※※※
ごうごうと空を覆う煙。白い灰が雪のように舞い散り、時折灰に交えて小石が降ってきては地上にあるあらゆるものを傷つける。動物達は甲高く鳴き散らしながら行方もなく走り回り、木々は力無く萎れ始めた頃、ジェイリートは固い地面の上で目を覚ました。そこが洞窟の中であることに気がつくまで三秒程かかった。
「な、なにがあったんだ一体!?」
ジェイリートの声はぐわんぐわんと周りに反響し、それが原因で頭がくらりとたらしい。自業自得だというのに不快だと言わんばかりに目をつぶった。途端、自分の方へ向かってくる足音が聞こえて目を開ける。そこには、ジェイリートが今日散々探し回った青年の姿があった。夜色のサラッとした髪、黄色と赤をほんのり混ぜたような肌、白のTシャツ、青いジーパンと黒の運動靴。旅路の途中で手に入れたであろう、東羊の白く光に当たると虹色に輝くストールを肩に巻いているのを除けばジェイリートが即興で作った手配書に載っている姿と瓜二つ。それと、先程青年を火山まで運んでいたオオワシドリも隣にいた。翼を閉じていても背丈は百八十もある。なかなかの迫力だ。
「ああ、良かった、案内人さん。目を覚まさないからダメかと思ったよ」
「勝手に私を殺すんでない! それより青年! 君には元の世界へ返す前に聞きたいことが山ほどある! まず……私の背中に付いていた風船はどこだ!?」
「そんなの、この噴火で全部割れましたよ。ドリーが居たから案内人さんを助けられたんだ」
ドリー、と呼ばれたオオワシドリが青年に擦り寄って頭を彼に差し出す。青年がそっと撫でるとドリーは気持ちよさそうに目を細めた。
「僕はどうやら火山の女神に呼ばれたらしい。だから、案内人さんの言う通りさっさと地球に戻ることは出来ないみたいなんです」
「頭の中に声が流れてくる話か?」
「え? それをどこで」
「ふふん!」ジェイリートは鼻を鳴らし、曲がっていた蝶ネクタイを整え、その下に巻いていたスカーフを手に取り自慢気に言う。
「東の羊飼いから聞いたのさ!」
「まさか、自分をあれからずっと追っていたの!?」
「そうだとも! 羊の次はきのこの森、滝にもね! 残念ながら君とは全く会えなかったけれど!」
ジェイリートが何やら魔法を使おうと杖を掲げた時、地面が僅かに揺れた。外から逃げ惑う動物達の叫び声が聞こえ、何かが焦げたような臭いを纏った生ぬるい風が洞窟入口から入ってくる。山がまたマグマを噴射したのだと説明が無くても誰もが察した。
「風向きと逆に逃げたから、こっちはまだ大丈夫かと思うけれど…」
「まさか火山が噴火するとは思わなかったよ! 前回の噴火は四百年も前だというのに! まったく、どうしたらいいものか…」
「案内人さん、僕、火山でやらなきゃいけないことがあるんです」
青年はなにやら覚悟を決めたような目付きをジェイリートに見せるが、十センチも身長の差がある為、全く格好付いていなかった。
「なんだい? まさか絵本にある神話の英雄にでもなるつもりかね? 君は」
「なるつもりというか、ならなきゃいけないんです。僕は」
腹を抱えてジェイリートが笑う。杖を手のひらで二回叩くと、一冊のドラゴンが描かれた絵本が出てきた。それを青年に手渡す。
「君には文字は読めないだろうが、絵でなんとなく分かるだろう?」
青年は絵本のページをめくる。
そこには、この世界の最初の歴史が描かれていた。女神が大地を欲したこと、火山に住むドラゴンがマグマで遊ぶことが好きな為に世界が危機に瀕したこと。
それを見て怒った女神は……。
「この世界の住人ならざる者を呼んで、その者にドラゴンの名前を付けさせた」
ジェイリートは続ける。
「この星の魔法の加護を受けていない者がドラゴンに名前を付けることで、ドラゴンはマグマ遊びが出来る程頑丈な肉体と魔力を持てなくなるからだ。君は…例えば最近産まれてきたドラゴンに名前を付けるとでも?」
「カトナーレは僕にそう言います。何度も、何度も」
「…ふむ」
ジェイリートは顎を触って考える。
確かに、この青年はいつも時空に迷い込んでこの世界にやって来る迷い人と違う。可笑しな点はいくつかあった。今回一人だけやってきたこと、神と思われる存在から常にテレパシーを貰っていること、知らないはずの神話の舞台となった場所を点々と旅していたこと。
「うむ、分かった。にわかには信じられないが…青年の役目を果たそうではないか!」
杖を天井高く上げてジェイリートは言う。それに続いてドリーは右の翼を、青年は左手を上げて「オー!」と精一杯声を上げた。
続
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