原油93%依存でも輸出10兆円超が続く日本の逆説
ホルムズ海峡の事実上の封鎖が続く今、日本の輸出が2カ月連続で10兆円を超えた。エネルギーのピンチと経済の強さが同時に走っているこの状況、構造を読み解かないと表面しか見えない。
> 原油が来なくても輸出が伸びる。それが今の日本経済の正体だ。
この記事のポイント
・日本の原油輸入は前年比47%減でも輸出は拡大した
・輸出を支えているのは半導体・電子部品という非エネルギー産業だ
・ナフサ危機は製造現場に「目詰まり」として静かに波及している
何が起きたか
2026年2月、米国・イスラエルによるイランへの攻撃をきっかけにホルムズ海峡の通航が事実上困難になった。日本の原油輸入の約93%がこの海峡を経由しており、3〜5月の原油輸入量は前年同期比
47%減
となった。ナフサに至っては
58%減
の見込みだ。にもかかわらず、日本の輸出額は2カ月連続で10兆円を超えた。財務省の貿易統計では2025年の輸出総額が過去最大の110兆円超を記録しており、その勢いは2026年も続いている。
なぜ「エネルギー危機」なのに輸出が増えているのか
輸出の主力が、石油に依存しない産業にシフトしていた。2025年の輸出増を引っ張ったのはアジア向けの半導体などの電子部品と、EU向けの原動機だ。これらは製造過程でナフサも重油もほとんど使わない。自動車は対米関税の影響で11.4%減ったが、半導体製造装置や電子部品がその穴を埋めた構図になっている。つまり日本の輸出ポートフォリオは、気づかないうちにエネルギー感応度が低い産業へと重心を移していた。
実際に打撃を受けているのは、川上ではなく川下の現場だ。高市首相が5月20日の党首討論で「さまざまな現場で目詰まりが起きている」と認めたように、ナフサ由来のポリ袋・食品トレー・塗料・シンナーが末端まで届かなくなっている。一人親方の工務店や個人商店レベルで在庫が枯れているのに、統計上の出荷量は「平年並み」と経産省は説明する。この矛盾は、大手が在庫を抱えていて中小に回っていないことを示唆していると考えられる。
規制・政策の面から見ると、政府の動きは想定外に速かった。3月以来7回の「中東情勢に関する関係閣僚会議」を開催し、国家備蓄30日分・民間備蓄15日分を放出。5月23日時点で石油備蓄は
203日分
を維持している。6月の代替調達は「8割程度」まで引き上がり、米国からの原油輸入は前年比
約8倍
に達した。石油備蓄法と産油国共同備蓄という制度インフラが、今回初めて本格稼働したことになる。
業界全体で見ると、今回の危機は「脱中東依存」という長年の課題を一気に加速させた。欧州調査会社ケプラーの分析では、5月の日本の中東依存度は66%未満と、1987年以来の最低水準まで急低下したとされている。日本の製油所は中東産の重質・中質油に最適化されており、米国産の軽質油は「不適合を起こしやすい」と言われてきた。それでも今回、設備の限界まで非中東産を流し込んだ。木原官房長官が「設備の改定も必要かもしれない」と言及したことは、エネルギー政策の転換点として記録されるだろう。
このリスク構造、ビジネスの読み方に引き寄せると
私がコンサル時代に何度も見たのは、「マクロは問題ない」という本社と「現場は死んでいる」という現地の乖離だ。今回のナフサ問題はまさにその構造で動いている。経産省が「平年並み」と言い、塗料の出荷量が前年比15%増のデータを出している一方で、実際には末端の工務店やコンビニのプラ容器調達が詰まっている。私はこの手の「統計は正常、現場は異常」というシグナルを、リスク早期警戒の最重要指標として扱うようにしている。
日本の輸出が伸びているのは「強い」からではなく、「強い産業と弱い産業の分断が拡大した」からだとも読める。半導体・電子部品は伸び、自動車・石油化学は苦しい。私がこの状況で最初に確認したのは、自分がウォッチしているサプライチェーンのどこにエネルギー感応度があるかという点だった。ナフサ由来の包材・樹脂を使っている食品・消費財メーカーは、静かにコストが乗っている可能性がある。
金の輸出が2025年度に初めて
4兆円超
に達したことも、この文脈で読むと意味が変わる。地政学リスクの高まりで金価格が上がり、密輸品の海外流出も押し上げているとされている。つまり「輸出額の増加」の中には、実体経済の強さではなく資産逃避の動きも混在している。表の数字だけ追っていると、「日本経済は強い」という結論に飛びつきやすい。私は常に「何が増えているのか」の中身を一段掘ることを自分に課している。
エネルギーのピンチは続いているが、どの産業にとってのピンチかを分けて見ないと、日本経済の本当の姿は見えてこない。
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