伴走者は、職場の外にいた|次元がくれた言葉
パソコンの設定をしていたはずが、いつの間にか人生の講義になってしまった。
前回、ICT支援員さん、通称「次元」と話す中で、自分のことを見つめ直した話を書いた。
自分が何者なのか、わからなくなること。
それでも、ひとつのことを続けてきたことには意味があるのかもしれない、と思えたこと。
「何者かというより、誰だって何者でもないんですよ。みんな、作られたものなんです」
その言葉が、ずっと頭の中に残っている。
今日は、その続きだ。
私が働き方やキャリアに悩んでいるということも含めて、深い話に発展していく。
次元には子供がいて、かつて不登校になったことがあると打ち明けた。それを話すとき、彼はただ「大変だった」とは言わなかった。
もちろんその時は、子供に、こうして欲しいなどと説教じみたことを言ってしまっていたし、ものすごい葛藤があった。
それでも、もしかしたら、自分にも原因があったのかもしれない。自分の関わり方が、何か影響していたのかもしれない。
そんなふうに、静かに振り返っていた。
自分を責めるというより、ちゃんと向き合おうとしたのが伝わり、思わず聞き入る。
そこでふと、次元がこんなことを聞いてきた。
「先生、私が結婚して学んだ最大のことは何だと思いますか?」
ここからは彼の言葉をできるだけそのままお伝えしようと思う。
はじめて、愛するということを学んだんです。
日本人は、と言うと主語が大きいかもしれませんが、なかなかこの言葉を口にしませんよね。どこか恥ずかしかったり、大げさに感じたりする。
でも、愛するということは、すべてを受け止めるということなんです。
もっと言うと、海外の人たちは自分の意見を率直に言うじゃないですか。
時には罵ったり、強く言い合ったりする。でも、最終的には家庭がうまくいっていたりもする。
子育てをしていても、結婚生活の中でも、相手のことを憎いと思う瞬間はあるわけです。
それでも最後には、この人のすべてを受け止める。
それが、愛するということなんです。
そして、
「ここからは、ぜひ道徳で使ってください」と言って続けた。
「これは私の解釈ですが、『愛』という漢字には心が入っています。
つまり、愛するということは、相手の心を受け止めること。
相手自身のすべてを受け入れる、ということです。」
新学期に入って、こんなに感心したのは初めてである。
誰よりも刺さる言葉をくれるじゃないか。
次元に、思わず拍手を送る。
怒りの奥にあるものも、受け止める
この話しはここで終わらなかった。
「受け止める」という姿勢は、家族に留まらず、仕事の中にも生きていた。
次元は以前、カスタマーサービスでクレーム対応をしていたこともあるという。
相手は、今、ここで怒鳴っている。そんな時どうするか。
「目の前で怒っている人にも、そこに至るまでの背景があるんです。」
その人にどんなことがあって、何が積み重なって、今その言葉になっているのか。
すごくわかる。
それを聞いて、自分も同じだと話した。
何かが起きたときには、できるだけ背景を見るようにしている。
目の前の状況だけで判断せず、そこに至る経緯や、その奥に何があるのかを考えるようにしていると。
すると次元は、こう言った。
「先生は、もう超越したところにいますよ。そんなふうに考えられる人は、なかなかいません」
それは大げさな言葉だろう。
でもこんな人生の先輩からの言葉は重みがある。
そして時に勇気づけられる。
伴走者という仕事
次元の子供は、今は元気に進学し、新しい環境で充実しているみたいだ。
親子で共通の趣味もあると聞いて、微笑ましかった。
その話をしている次元の表情は、いつもの仕事中とは少し違って、父親の顔をしていた。
穏やかで、少し誇らしそうでもあった。
相手を自分の思い通りにすることではなく、
苦しかった時間も含めて受け止め、今そこにいる姿を見つめること。
次元の言う「愛すること」は、そういうものなのかもしれない。
そして、また嬉しいことを言ってくれた。
「いろいろ悩まれるかと思いますが、素敵な先生ですよ。
自分の子どもの先生が、先生だったら、きっともっと変わったかもしれません」
次元から受け取ったものは、ICTのスキルだけではなかった。
誰かを導くというのは、上から正解を渡すことではない。
隣に立って、その人の歩幅を見ながら進むこと。それができる人を、伴走者というのだと思う。
次元は、そういう人だ。
愛とは、受け止めること。それはきっと、家族だけの話ではない。
仕事の中でも。
教育の中でも。
誰かの人生に少し関わるときにも。
相手を変えようとする前に、まず受け止めること。
次元は、そのことを言葉だけでなく、隣にいる姿で見せてくれる人だった。
長い時間を一緒に過ごしたわけではない。
それでも、次に進もうとしている私にとって、次元は確かに、心に残る伴走者だった。
この後、次元との距離が、ぐっと縮まる出来事があった。
その話は、また。
そして次回、ハードロックが流れる。
つづく。
