戦略人事が理解すべき経営戦略とイノベーションの仕組み|書評『いかなる時代環境でも利益を出す仕組み』
いよいよゴールデンウィーク突入ですね。人事の皆さんは、多忙な4月を乗り越えたタイミングで、今度はゴールデンウィーク明けのドタバタが始まるかとは思いますが、体調に気をつけながらご自愛していきましょう。
さて今回の書評は、大山健太郎さんの『いかなる時代環境でも利益を出す仕組み』です。
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新田がこの本を読もうと思った理由
この本はアイリスオーヤマの実質創業者である大山健太郎さんが書きました。
アイリスオーヤマといえば10分プレゼン会議が有名であり、最初は私がこの本を手に取った目的もそれでした。
ただこの本からアイリスオーヤマの理屈で考え抜いた結果、常識とはかけ離れた経営システムが出来上がっている。この本の面白さはここ3年でもベスト3に入ります。
本の要約
アイリスオーヤマは製造業と卸売業の双方の機能を持ち、商品は祖業のプラスチック加工から現在では、お米や電化製品まで多岐にわたっています。
コロナの際にはアイリスオーヤマ製のマスクがものすごい勢いで供給されていたのを覚えています。
なぜマスクをものすごい勢いで供給できたのか? ここからアイリスオーヤマの経営戦略を紐解いています。
KPI設計・・・利益創出より新陳代謝
経常利益の50%は投資に使う
売上における新商品比率50%以上
瞬発対応力・・・変化に自らを変革させる
選択と集中ではなく「選択と分散」
稼働率は7割以下
身軽な外注か柔軟な内製か?
組織活性力
経営情報を独占するか? 共有するか?
開発はリレー式か伴走式か?
新田が思ったこと
人事は、戦略を分解しすぎてきたのではないか?
この本を読みながら、戦略人事の立場として最も強く突きつけられたのは、「人事は、戦略を分解しすぎてきたのではないか」という問いでした。
これまで私自身、戦略を理解しようとするとき、KPI、組織図、スキル定義、制度設計といった形で、どうしても要素分解から入ってしまう癖がありました。それ自体は間違っていないし、実務上は必要な作業でもあります。
ただ、本書を読んではっきりしたのは、それらはすべて「後工程」だということです。
楠木さんが言う「ストーリーとしての戦略」は、細かく分解する前に、まず「この会社は、なぜこれからも勝てるのか」という因果を、大きくつかめているかどうかを問います。
そしてこの問いは、人事に置き換えた瞬間、非常に厳しい形で跳ね返ってきます。
評価制度、報酬設計、採用基準、育成プログラム。
それぞれ単体で見れば、よく設計された制度は世の中にたくさんあります。
しかし、それらをすべて並べたときに、「この人事の選択をやり続けた結果、なぜこの会社は勝ち続けられるのか」を説明できている企業は、決して多くありません。
私自身、過去に関わってきた企業を振り返ってみても、「なぜあの会社はこれまで勝ってきたのか」は説明できても、「なぜこの先も勝てると言えるのか」を、人事の言葉で語れていたかというと、正直心許ない部分がありました。
戦略とは施策の集合ではなく「因果の一貫性」
本書が突きつけているのは、戦略とは「施策の集合ではなく、因果の一貫性だ」という、極めてシンプルで、しかし逃げ場のない事実です。
この視点に立つと、人事の見え方が変わります。人事施策が戦略的かどうかは、制度が新しいか、トレンドに合っているかでは決まりません。
それが、事業戦略という物語のなかで、どの因果を支えているのかが説明できるかどうか、それだけです。
評価は、「どんな行動」を積み上げるための装置なのか?
報酬は、「どんな選択」を取り続けてもらうためのメッセージなのか?
採用や育成は、「どんな経験や能力」を時間をかけて蓄積しようとしているのか?
ここが語れないまま制度だけを整えてしまうと、人事は部分最適に陥り、「制度はあるのに、なぜか組織が前に進まない」という状態が生まれます。それは人事の実行力の問題ではありません。戦略がストーリーとして共有されていないことが原因です。
本書を読み終えて、戦略人事に携わる者として最も大きかった学びは、「まず制度を語る前に、その会社の勝ち筋を語れているか」という原点に、もう一度立ち返らされたことでした。
『ストーリーとしての競争戦略』は、戦略論の名著であると同時に、人事に対して「あなたは、その会社の物語を理解した上で、人を扱っていますか?」と問いかけてくる一冊でもあります。
人事を「経営の実行装置」にしたいと考えるすべての人にとって、一度は立ち止まって読む価値のある本だと思います。
