見出し画像

人材スタンスはどう決めるの?【時をかける戦略×人事】(8話)

〜前回までのあらすじ〜

(ナレーション)
人材マネジメントポリシーは、思いつきで作るものではない。
第6・7話「人材マネジメントポリシーはどう決めるの?」では、リサーチ、判断軸の明確化、約束の定義、行動基準の具体化、人事施策への接続という、5つのステップで整理した。

その中でも、最初に大きな壁になるのが、自社は、人材に対してどんなスタンスを取るのかという問いである。
育成か、即戦力か。個人か、チームか。自由か、規律か。
どれも大事に見える。しかし、全部を同時に選ぶことはできない。果たして、3人の新田はどのように向き合うのか?

「15の設問」で自社の迷いを解き明かす

人材マネジメントポリシーのステップとしては掴めてきました。でも、

育成か即戦力か。結果か成長か。

そういう問いを、どう扱えばいいのかが難しそうですね……。
その判断軸を引き出すための型ってありますか?

(田●要次風に)あるよ。

NFPで使っている15の設問を紹介するね。

人材マネジメントポリシーは、抽象的な理念からではなく、経営として避けられない15のトレードオフに向き合うことで、少しずつ輪郭を持ち始める。

15の設問は、大きく2つのカテゴリーに分けているよ。
ひとつ目は、思想・人材観 に関する問い。
これは、会社が人をどう見ているのか、どんな人を価値ある存在として捉えるのかに関わるんだ。

CATEGORY A:思想・人材観

1.育成 vs 即戦力
2.成長 vs 結果
3.個人 vs チーム
4.自由 vs 規律
5.感情 vs 論理
6.専門 vs 汎用

ふたつ目は、 制度・運用・文化 に関する問い。
こちらは、雇用の考え方、昇進、働き方、意思決定、透明性など、組織運営に直結するよ。

CATEGORY B:制度・運用・文化

7.長期雇用 vs 流動性
8.年功 vs 実力
9.内部昇進 vs 外部登用
10.挑戦 vs 安定
11.ハードワーク vs ワークライフバランス
12.多様性 vs 同質性
13.トップダウン vs ボトムアップ
14.短期 vs 長期
15.透明性 vs プライバシー

……これ、全部どっちも大事に見えちゃいます。

だよな。
育成も即戦力もほしいし、成長も結果も見たい。
こうやって並べられると、むしろ選ぶ難しさがはっきり見える。

そのとおり。
この15の設問は、「正解を当てるための問い」ではないんだ。
むしろ、自社がどこで迷っているのかを明らかにするための問いと言えるね。

15の設問はなぜ必要なのか?

でも、こういう設問を使わなくても、
経営陣で話せばいいんじゃないですかね?

もちろん、話すだけでも意味はある。ただ、問いを置かずに話すと、議論がかなり散らばりやすいんだ。

たとえば、社長が「うちは挑戦する会社にしたい」と言ったとする。
それ自体は良い言葉に聞こえる。
でも、その「挑戦」が何を意味するのかは、人によって違うよね?

そうだな。
ある人にとっては、新規事業に飛び込むことかもしれない。
別の人にとっては、高い売上目標を追うことかもしれない。
さらに別の人にとっては、既存の業務プロセスを変えることかもしれない。

ここで15の設問があることで、挑戦を重視するなら、
「安定との関係はどう考えるのか」
「失敗した人の評価はどうするのか」
「自由と規律はどちらに寄せるのか」
というふうに、議論を具体的にできるんだ。

問いがあることで、ふわっとした言葉に逃げられなくなるんですね。

そうだね。 きれいな言葉は、逃げ道にもなってしまう。
でも、経営として本当に決めるべきなのは、きれいな言葉ではなく、迷ったときにどちらを選択するか、なんだ。

「優れた会社」でも、選んでいるスタンスは異なる

ここで、いくつかの企業を比較してみるね。
たとえばNew Field Partnersの資料では、Netflix、Google、Amazon、Recruit を15の設問で比較しているよ。

Netflix、Google、Amazon、Recruitは、いずれも優れた企業として語られることが多いが、人材へのスタンスは同じではない。むしろ、それぞれが異なるトレードオフを選んでいる。

この比較、かなり面白いですね。
全部「すごい会社」なのに、人材への考え方は結構違う……!

たとえばNetflixは、即戦力、結果、個人、自由にかなり寄った設計。
今出せる価値を重視し、高い成果を出せる人が、広い自由と責任を持つ。
いわゆる「高密度の才能で勝つ組織」として見るとわかりやすい。

合う人材にはすごく合うだろうが、
合わない人材には厳しいだろうな。

そのとおりだね。でも、それが悪いという話ではない。
むしろ、スタンスがはっきりしているからこそ、合う人にはとてもマッチする可能性がある。

一方でGoogleを見てみると……、
育成寄り、成長と結果の両方、チーム、
比較的長期志向として整理しているな。

知的好奇心、学習、協働、心理的安全性を重視する
組織
として見ると、Netflixとはかなり違いを感じる。

NetflixとGoogleは、どちらも有名企業だけど、
求める人材像は全然違うんですね!

まさに!
Amazonは、Customer ObsessionやLeadership Principlesを通じて、原則、規律、結果、データに基づくオーナーシップに寄った整理ができる。
個人の自由というより、共通原則とメカニズムでスケールする組織として見ると理解しやすいよ。

Amazonは「自由に好きにやってね」というより、
「原則に沿って速く正しく動こう」って感じなんですね。

そうだね。
そして Recruitは、育成寄り、成長寄り、個人の自律、挑戦、長期に寄った整理をしている。
「個の成長が事業をつくる」という見方に近いかもしれないね。

つまり、優れた会社に共通する人材ポリシーがあるのではなく、
優れた会社ほど、自社の勝ち方に合わせて
人材へのスタンスを選んでいる
と言えるってことだ。

戦い方が違えば、求める人材も違う

でも、ちょっと不思議に思うこともあります。
もしNetflixもGoogleもAmazonもRecruitも優れた会社なら、
共通する「いい人材ポリシー」がありそうに思えるんです。

その感覚は自然だと思う。
でも、会社によって戦い方が違うので、求める人材も違ってくるんだ。短期間で高い成果密度を求める会社と、 長期的に人を育てながら組織能力を積み上げる会社では、 採用すべき人も、評価すべき行動も、用意すべき環境も変わる。
強い個人のパフォーマンスで勝つ会社と、チームの知的生産性で勝つ会社でも、 マネジメントの設計は変わる。

人材ポリシーは「人事の好み」じゃない。
事業の勝ち方とつながっているべきってことだ。

うん。人材マネジメントポリシーは、単独で存在するものではなく、 事業戦略、組織設計、カルチャー、採用市場、育成能力とつながっているんだ。

だから、第3話第4話で、
意義とかアウトプットとか機能の話をしたんですね。

おっしゃるとおり。どんな事業状態を目指すのか。そのためにどんなアウトプットを出すのか。 どんな機能が必要なのか。 そこが見えていないと、人材へのスタンスも決めにくくなるからね。

振り切ることだけが正解ではない

こう聞くと、強い会社は振り切っているようにも見えます。

そう見えるかもね。とはいえ、必ずしも極端に振り切ることだけが正解ではないんだ。大事なのは、15の問いに対して、単純に右か左かを選ぶことではなく、自社として、どちらを主軸にし、どこに例外を置くのかを決めることと言えるね。

たとえば、全体方針としては育成重視だユニット長t長や新規事業責任者は即戦力を外部から採る。 全体方針としてはチーム重視だが、専門職には個人の卓越性も強く求める。 そういう設計もあるんだ。

全部を同時に取るんじゃなくて、
基本姿勢と例外条件を決めていく。
この塩梅が腕の見せどころってわけだ。

人材スタンスは、正解ではなく「選択の束」

15の問いによって、
「うちはどんな会社か」という問いが、具体に近づくと感じました。

でも同時に、ちょっと怖いなとも思いました。
経営陣やみんなでやったら、けっこうズレが見えそうだから。

ズレがあるなら早い内に明らかになるにこしたことはない。見えないズレは、採用や評価や配置の場面で、後から必ず出てくる。 ズレを見つけて対話と議論を重ねて前に進めることに意義があるんだ。

人材スタンスは正解ではなく、自社がどの戦い方を選ぶのかを、人材の言葉で表した「選択の束」と捉えると良いと思う。

次に必要になるのは、 その選択を、誰と、どの順番で、どう合意していくか、だね。

15の問いでスタンスを考えるのはわかったんですが、
それって最初から経営陣みんなでやるんですか?
それとも、社長が先に考える? 幹部や社員にも聞いたほうがいい?

そこが次の論点だね。
次回は、15の設問を使った実際の策定の流れを見ていきましょう。

(ナレーション)
次回、経営陣・幹部・社員との対話で、具体的なズレを見つけていく。

今回のおさらい

  1. 人材マネジメントポリシーは、15のトレードオフに向き合うことで具体化する。
    育成か即戦力か、個人かチームか、自由か規律かなど、避けたくなる問いに向き合うことで、自社の人材観が見えてくる。

  2. 優れた会社に共通解があるわけではなく、各社が異なるスタンスを選んでいる。
    Netflix、Google、Amazon、Recruit は、いずれも優れた企業として語られることがあるが、人材へのスタンスは大きく異なる。

  3. 人材スタンスは、正解ではなく「選択の束」である。
    大事なのは、どちらも大事と言うことではなく、自社としてどちらを主軸にし、どこに例外を置くのかを決めること。

いいなと思ったら応援しよう!