書き取らせないディクテーション。「ディクトグロス」で話し合いが始まる
こんにちは!ももいろ先生です🍑
今日は、ちょっと変わったディクテーションの話。
ディクテーションというと、教師がゆっくり読み上げて、学生が一語一句書き取る、あの活動を思い浮かべると思います。読む方も聞く方も真剣勝負で、教室はしんと静まり返ります。
今日紹介する活動は、その正反対です。
普通の速さで読みます。書き取らせません。そして終わったころには、教室のあちこちで文法の議論が始まっています。それがディクトグロス(dictogloss)という活動です✍🏻️
手順:読むのは2回、メモだけ
やり方から先に書きます💡
1.準備:
テーマについて軽く話し、本文に出るキーワードを先に導入しておきます。
2.聞く(1回目):
教師が短い文章(100〜150字程度)を普通の速さで読みます。1回目はメモを取らず、内容の大づかみに集中させます。
3.聞く(2回目):
もう一度、同じ速さで読みます。今度はメモOK。ただし普通の速さなので、書き取れるのはキーワードの断片だけです。
4.復元:
グループになり、それぞれのメモを持ち寄って、本文をみんなで復元します。
5.比較:
復元した文章を原文と見比べて、違いを確認します。
ポイントは、一語一句の再現を求めないことです。目指すのは「内容が同じで、文法的に正しい文章」であって、原文のコピーではありません(Wajnryb 1990)。
そしてこの活動の本体は、実は聞く場面ではありません。復元の場面です。
教師の引き出し:復元のとき、頭の中で何が起きているか
この活動を提案したのは、オーストラリアの教師教育者Wajnrybです(Wajnryb 1990)。ただ、ディクトグロスが研究の世界で注目されるようになった背景には、カナダのSwainという研究者がいます。
Swainは、カナダのイマージョン教育(教科をフランス語で学ぶ教育)の評価調査に長く関わってきた人です。数千時間のフランス語を浴びて育った子どもたちが、聞く・読むはネイティブに迫るのに、話すと文法の穴だらけだった。この観察からSwainは、「理解できるインプットをどれだけ浴びても、話す力・書く力はそれだけでは育たない」と考えるようになりました。学習者は、自分でことばを産出しようとしたときに初めて、「言いたいこと」と「言えること」の間にある穴に気づくからです👀
そのSwainの研究チームのKowalとSwainが、フランス語イマージョンの教室でディクトグロスを実施し、復元中のグループの会話を録音して分析しました(Kowal & Swain 1994)。ふたりが数えたのは、会話の中で言語そのものが話題になった場面の数です。ある文法の形をどうするかで議論が始まり、決着がつくまでをひとつの単位として拾っていくと、復元の途中で学習者たちが自分から形について話し合う場面が、何度も記録されていました。動詞の形はこれでいいのか、この語尾は何なのか。誰に指示されたわけでもなく、です。
復元という作業が、学習者の注意を「意味」から「形」へ自然に向けさせる。
なぜそうなるのか、考えてみると理屈はシンプルです。メモには断片しか残っていません。「昨日」「財布」「駅」。この断片から文を組み立て直すには、足りない部分を文法で埋めるしかありません。助詞、動詞の形、文と文のつなぎ。普段は意味の陰に隠れている部分が、復元の場面では主役に引きずり出されます。
しかもグループ作業なので、埋め方が人によって違います。違うから、話し合いが生まれます。Swainたちはこの話し合いを協働対話(collaborative dialogue)と呼び、対話そのものが学習の場面になっていると論じました(Swain & Lapkin 2001)。
以前の気づき仮説(Noticing Hypothesis)の記事とつなげるなら、こう整理できます。インプット強化は、教師が色をつけて気づかせる仕掛けでした。ディクトグロスは、学生同士のあいだで気づきが生まれる仕掛けです💡
教室でやってみた
ディトグロスは手軽にできるので、少し時間が余ったときにちょうどいいです。
あるクラスで、授業の最後にディトグロスをしました。その日に勉強した語彙や文法をいくつも織り交ぜて😏
2回読んで、グループでの復元が始まると、「えー!」「難しいー!」「先生、もう1回!」と、もうてんやわんや😂
難しい難しいと言いながらも、グループでの話し合いを覗いてみると、狙い通りに進んでいました。
「財布が……『盗みました』?」
「違う、誰が盗んだか、わからないだから……『盗まされた』?」
「『盗まれた』じゃない?」
「あ〜」
わたしはそばで聞いているだけです。
何も教えていないのに、受身の形をめぐる議論が始まっていました。最後は隣のグループにまで「ね、『盗まれた』でしょう?」と確認しに行っていました。原文と見比べる場面では、自分たちの答えが合っていたグループから小さな歓声が上がりました😊
授業では受身で座っている学生も、復元の場面では、形を自分で決めないと文が完成しません。逃げ場がないぶん、頭が動きます🏃♂️
読み上げ文章作りのコツ
ディクトグロスは、読み上げ文章の設計で成否がほぼ決まります。目安は2つです。
1.ちょうどいい長さにすること
初級なら短めの2〜3文・60字前後、中級でも4文・100字程度まで。上級なら150字程度までイケます。「ちょっと長い」くらいがちょうどいいです。
2.語彙は既習のもので固めること
未知語だらけの文章では、意味の理解に頭を使い切ってしまい、文法に注意を向ける余裕が残りません。
つまずきポイントと対処
一番よくある失敗は、読み上げ文章が長すぎて、ただの挫折体験になることです💦
メモがほとんど取れないと、復元ではなく創作になってしまい、「聞き取れなかった」という敗北感だけが残ります🥲
対処は2つあります。
ひとつは上に書いたとおり、1文を思い切って短くすること。もうひとつは、2回目の読みの前に30秒だけ相談タイムを挟むことです。
「1回目で何が聞こえたか」をグループで共有してから2回目を聞くと、メモの分担が自然に起きて、断片の回収率が上がります。
それでも難しそうなら、最終手段!キーワードを3つだけ板書してから読む方法もあります。補助輪はいくらつけても構いません。復元の話し合いさえ起きれば、この活動は成功です︎︎👍🏻︎︎
AIで読み上げ文章を作る
ディクトグロス用の文章づくりは、AIとの相性がいいです🤖🔧特におすすめなのは、その日の授業で勉強した語彙と文法をそのまま渡して、復習用の文章にしてもらう使い方です。
習ったばかりのことばで組まれた文章なら、復元の話し合いがそのまま今日の復習になります😊
こんなプロンプトを使うと一瞬です👇🏻
今日の授業で勉強した語彙と文法から、復習用のディクトグロス本文を3本作ってください。
- クラスのレベル:N3
- 今日の語彙:遅刻、財布、届ける、拾う、交番、間に合う
- 今日の文法:受身(〜られる)
条件:
- 目標文法を、1本の中に1〜2回、自然な形で出すこと
- 長さはレベルに合わせること(N5〜N4:2〜3文・60字前後/N3以上:3〜4文・80〜100字)
- 語彙は「今日の語彙」と、このレベルまでの既習語だけを使うこと
- 3本はそれぞれ別の場面にすること
- 各本文に、読み上げ用のポーズ位置(/)を入れたスクリプトも付けることレベルと今日の語彙・文法の行を、その日の内容に差し替えるだけで使い回せます︎︎👍🏻︎︎
3本出てくるので、いちばん教室に合いそうな1本を選んでください。
市販教科書の本文をそのまま使うのは、おすすめしません。ディクトグロスは「このクラスの既習語彙」「この文法」という細かい条件で自作した文章の方が合っています❣️
☝🏻のプロンプトをコピペするのが面倒な方はskillsやGPTsやGemにしておくとさらに時短◎
おわりに
ディクトグロスは、聞く→書く→話す→読むの4技能をバランスよく使うことができ、「復元」の作業を目標に学生たちの間に自然にやりとりを発生させることができます。
正直に言うと、わたしは最初、「 誰もついてこられないのでは」とびくびくしながら試しました(笑)
心配は半分当たって、1本目の文章は長すぎて学生たちから大ブーイングをくらいました😂
何度かやっていると、そのクラスでちょうどいい長さがわかってきます。
もしちょっと時間が余ったら、ぜひ短い1本からお試しください🍑
