明治「日本」が主人公|実は”挫折”されがちな名作歴史小説【"坂の上の雲"を辿る #0】
まことに小さな国が、開化期を迎えようとしている。
2009年11月29日、社会人になったばかりの私は、テレビの前で正座していた。
学生の頃から数えて10年間、待ちに待ったドラマが始まろうとしている。
開始と共に画面が暗転。
渡辺謙の静かな語りで、馴染みのある原作冒頭の一文が響いた。
オープニングでは農業に勤しみながら近代化を目指す、いかにも貧しい明治庶民の映像が続く。
「こんな百姓連中が”国家”を作り、大国ロシアに勝った」
そんなわけあるか。原作・歴史を知っている自分でも、信じられなかった。
当時の世界も、同じ反応だった。ついこの間までサムライ・チョンマゲだった東の果ての小国が、伝統あるヨーロッパの大国ロシアに勝つ。夢物語のような史実だ。
あえて物語の主人公を定めるなら、「日本」。
まだ少年にすぎない国家が、日露戦争でいかにして戦い、いかに振舞ったかを描く、大河物語。
物語の主軸:秋山好古・真之・正岡子規の記念撮影から、タイトルバック。
「坂の上の雲」 題字:司馬遼太郎
久石譲のオープニング曲が終わる頃には、私は自然と涙していた。
“挫折”されがちな原作「坂の上の雲」
坂の上の雲の原作を読んで間もない私は、「面白いよ」と宣伝しながら人に薦めていた。
しかし、それで本当に全部読んだ人は未だいない。
私のプレゼンが下手くそなのが一番の原因と信じつつ、最近思い直すことがある。
「”小説”坂の上の雲って、本当に面白いのか?」
先日確認も込めて、原作全巻を久しぶりに読んでみた。
感想を白状すると、「きつかった」だった。
「坂の上の雲ファンのくせに、”きつい”とはなんだ!」
そう自責したが、読むのに何日もかけてしまったのだ。
「きつかった」のだ。
同時に、挫折した人の気持ちも少しわかるようになった。
そもそも長い、余談、知らない人の詳しいエピソード、だいだいおっさん、人物が多すぎる、色恋ほぼ無し、戦場の地名がわからない、ずっと堕ちない旅順要塞、余談、いつの間にか乃木・児玉へ主役交代、ロシア側の人名が覚えられない、また余談、全然やってこないロジェストヴェンスキー・・・
もしも日露戦争に興味が無い勢が「原作を読め」と言われたら、中々につらい所業だろう。普段読書しない勢なら、苦行そのものだ。
実際私の友人(旧帝大出身)に原作小説を貸したところ、後日ホコリを被った状態で返してくれた。当時はショックだったが、きっと彼にとっては合わなかったのだろう。今となっては「無理もなかったな」と反省している。
待ちに待った"本気の名作"ドラマ版
正直に言えば、ドラマ版・坂の上の雲がすこぶる名作だったからこそ、ここまで原作を好きになれたと言える。
実写化の話が出たときは随分と心躍ったが、数年間音沙汰なく、10年ほど待ちぼうけをくらった。私はそのくらい”暖められた”状態で、あの名作をぶつけられたことになる。
原作リスペクト演出、錚々たる奇跡の俳優陣、曲:久石譲、語り:渡辺謙、迫力映像、明治の再現、ドラマの面白さ、丁寧な脚本・考察、クライマックス・日本海海戦の描写・・・
「(夢のような作品を)ありがとうございます」と、心から感謝したものだ。冒頭の涙の所以はここにある。
ここまで制作側の”本気”が伝わった名作ドラマは、未だ視たことがない。
それでも"原作"坂の上の雲の魅力を伝えたい
ここまで書いてきて、”坂の上の雲”を「きつい」「挫折されがちな小説」とネガキャンするばかりで、原作の魅力をちっとも伝えていないことに気づいた。原作ファンの方には大変申し訳ない。
本記事は【”坂の上の雲”を辿る #0】と銘打っている。
このシリーズは”坂の上の雲”を読んだ、あるいは興味あるという方向けに、原作準拠で物語を辿っていこうという試みである。
上のような"挫折要因"を持ちながらも、原作が魅力的で面白いことを知ってほしいという願いから、物語をより分かり易く、よりフランクに紐解いていきたい。注記として、これはあくまで素人ファンによるイチ営みであることを、どうかお許しいただきたい。
具体的には、#1からは原作物語の紹介・解説をやっていこうと思う。あとは要所要所でドラマとの比較・気になった面白い解釈などを交えていくつもりだ。(例えば、東郷平八郎の描写はより丁寧になっているから、そのあたりも紹介したい)
原作を追体験したい方、忘れたので整理したい方はぜひ#1以降の記事をご覧いただきたく。
(上はつまり私のことであり、ある意味では一番の"読者"は私自身になってしまうかもしれないが)
おススメ記事:本シリーズは「読書感想文」とも言えなくもない。そもそも私(執筆者)は読書感想文がキライだったが、今やこんなことを始めてしまっている。不思議なものだ。
キライだった理由は、「ですよね」という答えを以下noteに書いているのでご参照を。
おススメ記事:改めて今の感性で書く「読書感想文」。やなせたかし氏の生きざまは、歴史上の傑物に通じるものがある。「独立」「創作」という言葉にピンときた方は、触れた方がいい。
