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出張者を狙う海外の犯罪 ケチャップ、薬物、ニセ警官にご用心【アジア安全講座】

安全サポート株式会社
代表 有坂 錬成

駐在員や出張者は海外で危険から自身や家族をどう守るのか、専門家がレクチャー。今回は、出張者が知っておくべき犯罪。知らないと簡単にだまされ、被害に遭いやすい手口と対策を聞いた。(聞き手=編集長 岡下貴寛)


レクチャー1
ケチャップ強盗

筆者提供

1 犯人の仲間がぶつかってくる
2 ケチャップやアイスクリームなどを衣服に付けて汚される
3 通りすがりを装った仲間が親切に拭くふりで注意を引く
4 その人物、またはさらに別の仲間が荷物や金品を持ち去る

――出張者が知っておくべき、海外で多い犯罪は

古典的なものに「ケチャップ強盗」があります。食べ物で相手の衣服を汚し、注意を引く手口。気を取られた隙に荷物や財布を盗まれる。
 
手口はケチャップとは限らず、マヨネーズやアイスクリーム、リンゴや小銭をばらまくなどいろいろです。共通するのは、何かアクシデントが発生して気を取られるという点。
 
私の体験では「老婆の腕時計」というパターンがありました。
 
広場で仲間と3人で食事中、老婆が現れます。何語かよく分からない言葉をもごもご言いながら、腕時計を見せて何か聞きたそうにしている。

私たち3人は一瞬、老婆の時計に見入りました。せいぜい1~2秒ぐらいでしょうか。ふと、もしやと自分の荷物を見たらもう既にない。まんまと盗まれたわけです。
 
必ずしもパニックとか大ごととは限らない。何かで気をそらして金品を持ち去るという単純な話です。
 
例えば、エスカレーターに乗っている時。
 
一番上の降り口で子供が転んだと思ったら、後ろが詰まり人が次々にぶつかってしまった。これも本質的にはケチャップ強盗と同じです。その隙に荷物を盗まれます。
 
子供が転ぶ、後ろから押される、自身もつまづく、となれば自分の荷物から注意がそれる時間が長くなります。しかも、詰まっているから人に触れている状態で周囲も見づらくなる。
 
あるいは、道ばたやお店の中で、ちょっと尋ねたいことがあると言いながらスマホの画面を示す。そのように困ったふりをして、親切心につけ込むこともある。

――ケチャップばかり考えると危ないですね。対処法は

ケチャップでもアイスクリームでも、子供やお年寄りだろうと、自分の至近距離で何か異変が起きたら警戒する。心の非常スイッチを入れましょう。
 
混んでいる所では時々、後ろを振り返る。一回振り向くだけでも「こいつ警戒しているな」と犯人に思われて、アタックを避けられる可能性が大きくなります。


レクチャー2
ニセ警官

筆者提供

1 街で警官風の人物が職務質問をしてくる
2 パスポートの提示を求め、滞在目的や宿泊先などを尋問される
3 財布、スマホ、クレジットカードの提示を求められる
4「確認する」などと言って、何か改めた後に返却される

――ニセ警官は出張者には見破れないのでは

出張者には無理です。
駐在員だとしても「私服警官だ」などと言われたら分かりません。
 
公権力には従わないとまずい、と思わせる手口です。
パスポートの提示を求められたら従わざるを得ません。
 
さらに、窃盗やカードの詐欺が多いなどと言いながら、財布や中身を見せなければいけないような流れを作ってきます。でも、財布を見せろ、クレジットカードも見せろとなると本来はおかしいわけです。

――何か変だと思っても、なかなか拒否できません

犯人の狙いもそこにあります。ただし対処法はあります。
 
本物だとしても「先にあなたのIDを見せてください」と相手の身分確認をすることは可能です。IDの確認を要求して、それ自体が犯罪や容疑になることはありません。
 
「私は日本人なので、日本の大使館に電話させてください」と申し出るのも手です。大使館によっては警官と話をしてくれるところもあります。相手がニセ警官なら、ばれないうちにと退散するでしょう。
 
「一緒に警察署に行ってから出します」という返事も。ニセ者は警察署には行きません。こうした応答をいくつか念頭に置きながら対応する。そのように教えています。

――どのような被害に遭いますか

財布なら現金を少し抜いて返す。クレジットカードは氏名番号を控えたり、スキミング(データの不正読み取り)をしたり。
 
ニセ警官にもバリエーションがあります。
 
例えば、通行人が何か話しかけてきて、二言三言しゃべると立ち去る。直後、今度は警官風の人物が「麻薬事件の捜査中だ。先ほどの男を何を話した。薬の取引じゃないのか?」などと絡んでくる。そして、財布やスマホを見せろと要求したり、調べるからと持っていってしまったり。

――知らないと防ぐのは難しそうです

途中で「ニセ警官かもしれない」と思っても、本物だとしたら従わないとややこしいことになるかもしれないという恐れから、多少ばかり不自然でも従ってしまう。しかし、このような犯罪があること、そして逃れ方を知っていれば被害に遭うことを避けられるでしょう。


レクチャー3
睡眠薬強盗

筆者提供

1 観光中、話しかけてきた人と雑談する
2 別の場所で同じ人にまた出会う
3 お菓子や飲み物をくれたり、おごってくれる
4 飲食物は睡眠薬入り。眠った隙に金品を盗まれる

――夜のバーで一服盛られるような話ばかりとも限らないわけですね

日中の観光地や公園などでも起こります。繁華街や何かのお店に客同士で並んでいたとか、偶然その場所に居合わせたように見える状況です。公園のベンチ、列車の中、もちろん飲み屋でもいい。
 
隣に座った人が何か仕掛けるとか「ビールおごるよ」とどこか連れて行こうとするような露骨なやり方はしません。それなら用心していれば引っかかりません。
 
犯人はこちらを信用させるため、時間や手間をかけてきます。
一回きりではなく、何回もコンタクトして信用させようとする。
 
昔、トルコでじゅうたん売りから声をかけられました。
 
初めは、観光地を歩いていた時に話しかけてきた。
「今日はいい天気だね」「川がきれいだよ」とか、大した話じゃないんです。こちらも「そうだね」ぐらいの感じで終わります。
 
次の名所に行くと、またその人にばったり出会う。
「あ、お前も来てたのか」みたいな感じでね。
 
観光地を巡ってるから、ありえない話ではない。少し心理的なガードは下がります。そこでもまた少し会話をして、それじゃあと別れる。
 
ところが、またもや街で出会う。
そうすると、こんな偶然あるのかね。何か運命みたいだねという感じで、警戒心が薄れてしまうんですね。
 
言うまでもなく、相手は偶然を装いながら私の後をつけたり、先回りしたりしているわけです。
 
この段階になると「ちょっと喉が乾いたから、その辺の店でコーヒーでも飲もうよ」と言われても違和感がない。「おごるよ」なんて言われると警戒するかもしれませんが、お店で自分でコーヒーを頼み、割り勘だったら警戒心は薄れます。
 
あとは、トイレにでも行った隙に睡眠薬を入れられ、金品を取られます。
女性なら性的被害に遭う危険もある。
じゅうたん売りならまだいいですが、犯罪者だと取り返しがつきません。

――どう防ぎますか。誰とも話さないという訳にも

会話は仕方ありません。問題は飲食物。口にする物は絶対に拒む。
 
これも他の犯罪への対処と同じで、自分なりの断り方をいくつか用意しておくとよいと指導しています。
 
段々親しくなってきた流れでビールでも飲もうよと誘われた。急に警戒した態度を取りづらいなら、例えば「自分はお酒は飲めない」とやんわり断る。
 
チョコレートを勧められたら「甘い物は苦手でごめんなさい」「ダイエットしてるので」と。
 
仮に、本当の好意だったとしても角が立たないように。それでも強引に勧めてくるなら、もはや気にせずにきっぱり拒絶しましょう。


レクチャー4
麻薬運搬

筆者提供

1 偶然知り合った人物と仲良くなる
2 帰国日、空港まで見送りに来てくれる
3 日本の知り合いへの贈り物を預かってほしいと頼まれる
4 中身は麻薬。知らずに密輸に加担させられていた

――重い刑罰を受けかねない恐ろしい犯罪です

最も発生しやすいのは空港の出発ロビー。
 チェックインカウンターはフライトごとに並ぶから、誰がどこに行こうとしているのか一目で分かります。
 
仕掛ける犯人は、目当ての便に乗る人を待ち伏せる。ターゲットが現れたら後ろに並び、話しかけてきます。
 
「預ける荷物が少し重量オーバーして困っている。少しだけあなたの荷物と一緒に預けてくれないか」と。
 
こういう犯罪を知らなければ、親切のつもりで応じてしまいかねません。

――犯人側は荷物をどう受け取るのでしょうか

到着地に仲間が来ます。
「自分の家族に空港へ取りに行かせる」などと言います。
 
とにかく他人の荷物は預からない。これに尽きます。
 
例えば、子供向けの誕生日プレゼントのようにリボンで綺麗に包装してあると、リボンをほどいて中身を見せてくれとは普通は言いづらい。そういう所につけ込んできます。もし麻薬なら、相手はもちろん中身を改めることに応じません。
 
だから、これもあらかじめ自分の答えを決めておくことです。
断る一択です。きっぱり伝えましょう。あとは問答しない方がよいです。
自分の身を守るためです。
 
麻薬運搬は、捕まれば極刑終身刑もあり得ます。
外国の刑務所に入っている人も現実にいます。
海外出張を行う企業や組織は、啓発を徹底するべきだと思います。


有坂 錬成(ありさか・れんせい)
安全サポート株式会社 代表取締役 上席コンサルタント

三井住友海上でドイツ駐在、本社での駐在員送り出し業務、および危機管理業務を担当。1999年、外務省に出向し、官民合同の海外安全対策を担当。「誘拐対策マニュアル」の編集や「海外安全ホームページ」の基となったサイトの立ち上げにも携わる。

安全サポート株式会社
創業20年。海外派遣者の危機管理に特化した危機管理会社。社員の命を守るために必要な、全ての業務をワンストップで提供。顧客は企業、政府機関、大学、業界団体など幅広い。企業担当者向け無料セミナーも多数提供。https://www.anzen-support.com/


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■1 海外社員の命を守る「体制」を守り抜く
■2 出張者は「安全弱者」 空港ロビー着後の攻防