【第5章】 第119話
【第5章】第119話 策士、盤面を整える
グレアムという男の真骨頂は、その視野の広さであろう。
物理的にではない。
眼鏡を掛けているし、若い頃から目はそれほど良くなかった。
そういう意味ではない。
人を見る目。
国を見る目。
そして、物事の流れを読む目。
王の補佐官として国政を支え、隣国との交渉をまとめ上げ、幾度となく王国の危機を未然に防いできた男だ。
古代遺跡で囚われの身となり、十五年。
今では当時を知る者も少なくなった。
それは現在の彼にとって、ある意味幸運だった。
かつてのグレアムを知る者が少ないほど、彼は自由に動ける。
そして――動き始めたグレアムほど厄介な人物を、リオは他に知らなかった。
「さて、エマや」
グレアムは紅茶を口にしながら妻へ視線を向けた。
「何? グレアム」
「改めて、貴族夫人連合を動かせるかな?」
エマは小さく笑う。
「ふふ、そうね。興味津々な女性たちは多いでしょうから、動くでしょうね」
「では、判断の下せる目撃者は申し分ないな」
グレアムは満足そうに頷いた。
「ヴィクトル。クラリスに会う時は言ってくれ。それまでに必要な書類を揃えよう」
「わかった」
「後必要なことは何かしら?」
エマが首を傾げる。
グレアムは少しだけ考え、
「あと必要なのは、クラリスの意思と真琴さんたちの帰還かな」
と答えた。
「真琴さんたち? 何か頼んでいたの?」
「いや、何も」
即答だった。
だが次の瞬間、グレアムは苦笑する。
「でも、リオくんなら分かるだろう。真琴さんたちが何の動きも見せずに戻ってくるわけがないとね」
その言葉に、全員の視線がリオへ集まった。
グレアムは、チラリとリオの顔を見た。
「真琴を待っていると王都を揺るがすかもしれませんよ?」
「ふはは…それは、見てみたいものだ」
「いや、父さん本当に揺るがすと思うぞ」
「何をいうの?私やグレアムがそんな事にビビるとでも?」
ふん!っとエマが腰に手を置き仁王立ち。
「リオ、俺の胃が持たない」
ヴィクトルが泣き言を言っている。
「ヴィクトル、本番はこれからだよー」
リオの軽い声が執務室に響いたのだった。
⸻
古代遺跡を後にした真琴たちは、数日の移動を経て王都へと帰還した。
レオンハルトは残った。
水晶竜と向き合うために。
誰も反対はしなかった。
いや、そうするように依頼した。彼の大事な転機になると真琴はそう告げ、レオンハルトも納得した。
シュバルツ邸まで行きとは反対に素直に到着した。
従者は、フィオナ。地方に巡礼によく行っていた手前、レオンハルトもフィオナも馬車は操れたらしい。
でも、行きのような追手がある場合は、流石にレオンハルトには敵わないとフィオナは謙遜していた。
労いの執事アスターやメイド長たち。
続いて、グレアムとエマ夫妻に
ヴィクトルとリオも顔を出した。
リオに至っては、置いて行ったとかなりのご立腹だった。
「じゃ、経緯を説明しないとね」
真琴が言った。みんな待っていたから忙しない。
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