【幕間】 冒険者の双子①
【幕間】 冒険者の双子①
今でも忘れない魔物大暴走(通称スタンビート)
両親は、双子の僕たちを自宅の地下室に隠して、街の人々と戦うために出て行った。
後で思えは、両親は領主だったのか。隠された地下室は、ワインセラーで、石畳の床や壁は、一定の温度に保たれる部屋だった。
だからと言って、無事なわけではなかったのだが。
魔物中には、獣と変わらないものもいれば、知恵を持ち人間を捕食する者もいる。
重厚な扉の向こう、階段の上、人々の悲鳴は一昼夜続いた。
「お姉ちゃん」「ナオト大丈夫」っと寄り添い、励まし合い、その恐怖の夜が通り過ぎるのを待った。
王都から救援隊に混ざり、要請された冒険者パーティーの緑水の調べが助けに来てくれた時、村は僕らだけだったという。
幼い双子だったけれど、姉の精霊使いの力も僕の測量士と土属性魔法も冒険者には、向いている力だと言われで仲間になった。
冒険者ギルドのギルド長であるエンヤさんは、緑水の調べリーダーである。本人曰く、仮だからねって言う。本来のリーダーは別にいるらしい。
冒険者は、冒険依頼の最中に行方不明になることが多いからそう言うことなのだろう。
ギルド長は、大変に忙しいので、通常依頼の時は、緑水の調べの中から弓師のヒースと大楯のアーノルドが僕たち双子の指導係として行動をともにしてくれる。
弓師のヒースさんは、エルフなんだけど、姉が精霊使いのせいもあるのかな?二人はとても仲が良い。
「精霊がエルフには、警戒とくのよね。」って言っていた。
僕には、警戒をとった精霊がどう言うものか全く理解出来ない。
⸻
ああ、一度ギルド長のエンヤさんに酷く怒られた話がある。
あれは、僕と姉の未熟な冒険者としての大事な教示だったと思う。
まだ、冒険者へと登録されたばかりの頃に、緑水の調べが僕たちを置いて、上の依頼を受けて長期の調査に出かけたことがあった。
緑水の調べは、王都でもSS級パーティーとして知られていたから(エマがいない場合は、SS級なのです)
国王からも依頼がくると噂があった。
今回は、魔法庁の調査隊の護衛任務だと言っていたけどね。
で、結局は僕と姉の二人だけだと採取依頼くらいしか受けられない。
手持ち無沙汰だと姉に訴えると、
「勉強不足だから」と返答される。
姉は、コツコツと採取の仕事をこなし、時間があれば神殿主催の図書館へ勉強しに行く勤勉家だ。
でも、僕は知っている。
貴族の子息や子女が行くアカデミーに行きたかったことを。
両親が生きていれば、絶対行けただろうことを。
そんな時に奴らが接触してきたんだ。
外国から来た冒険者パーティー。
冒険者ギルドは、指定の登録料と国が発行する身分証明書またはB級以上の身元引受人が居れば、どこででも活動は出来る。
かれらは、名も知らない辺境の紹介状とA級冒険者の認識票で王都での活動を認められた。
パーティー名は『宵闇の狐』。
慣れない地域だからと僕に斥候依頼をしてきた。
ダンジョンに潜れると聞いて、二つ返事で受けたんだけど、
姉が当然の如く反対してきたんだ。
「ダメ」
珍しく、姉は即答だった。
「どうして? 斥候なら僕の得意分野だよ」
「だからよ」
姉は、本を閉じて僕を見た。
「あの人たち……精霊が嫌がってる」
「また精霊?」
思わず笑ってしまった。
「姉ちゃん、それじゃ理由にならないよ」
「理由になるの」
姉は真剣だった。
「街へ入ってきた時から、風の精霊も木の精霊も近寄ろうとしない。あんなこと初めて」
「エルフのヒースさんには警戒を解くんじゃなかった?」
「あれは警戒を解いたの。今回は違う。……逃げてる」
その言葉に一瞬だけ背筋が寒くなる。
だけど、僕は首を振った。
「考え過ぎだよ」
「ナオト!」
「たった一回、ダンジョンを案内するだけだよ。終わったら帰ってくる」
姉は何か言おうとして、
結局、小さく唇を噛んだ。
⸻
まだ、スタンビートの爪痕残るダンジョン。
スタンビート後のダンジョンは、魔物も一掃される事と、お宝も再配置するという。この辺りの仕組みはよくわからないらしい。ダンジョンの魔物の発生とお宝の相互作用なんて学術論文書いてる学者もいるくらいだ。会った事ないけどね。
「今回の冒険はここだ。」
「え?ここは、B級以上じゃないと入れないよ?僕はまだC級だもの」
「A級が同行ならば、問題ないはずだろう?噂じゃナオトは、あのSS級緑水の調べパーティーメンバーとして斥候なんだろう?」
「だから、僕が一人で潜っているわけじゃないだろう?」
僕は、頬を膨らませて、言った。
「じゃ、ここから一人で帰れば?」
宵闇の狐メンバーの魔法使いジャンヌが言った。
「緑水の調べの斥候は、A級パーティーが潜るダンジョンを怖気ついて逃げたって報告するけどね」
「それは!それは酷いよ!」
「酷い?斥候の役割知ってるでしょう?私たちは、緑水の調べの斥候だから貴方に依頼したの。ダンジョン前に断るのは冒険者としてどうなのよ?」
僕は、渋々引き受けた。
「……わかった。案内だけだからね」
そう言うと、宵闇の狐の面々は満足そうに頷いた。
「最初からそう言えばいいのよ。」
ジャンヌは肩をすくめる。
「ナオト!」
後ろから姉が駆け寄ってきた。
「お願い。やめて」
「姉ちゃん、大丈夫だって。案内するだけだよ」
「違うの。精霊たちが……」
姉は言葉を切ると、周囲を見回した。
「さっきまでいた風の精霊も、土の精霊も、みんな逃げた。」
「そんなことある?」
「あるの。初めてだけど……だから怖いの。」
困ったな。
姉は勘が鋭い。
でも、それだけで依頼を断れば、僕は臆病者だと思われる。
それに、緑水の調べの名前まで傷付けるわけにはいかない。
「終わったらすぐ帰るから。」
そう言って、僕は笑って見せた。
姉は何かを言いかけたまま、拳を強く握り締めていた。
⸻
ダンジョンへ一歩足を踏み入れる。
湿った空気。
石壁に取り付けられた魔石灯が、青白く通路を照らしている。
スタンビートの後だからだろう。
魔物の気配は薄く、不気味なほど静かだった。
「ずいぶん詳しいんだな。」
先頭を歩く大剣使いが振り返る。
「測量士ですから。地図を作るのも仕事です。」
「なるほど。」
そう言いながらも、男たちは周囲など見ていない。
僕の案内だけを頼りに歩いている。
それが少しだけ誇らしかった。
三十分ほど進んだ頃だった。
「止まって。」
僕は思わず声を上げた。
「この先、崩落しかけています。」
足元を指差す。
「右側を歩けば問題ありません。」
「へぇ。」
男たちは感心したように頷く。
「緑水の調べが可愛がるだけはある。」
その言葉に、少しだけ胸が熱くなった。
――その時だった。
最後尾を歩いていたジャンヌが、小さく呟いた。
「ここなら、外からは見えないわね。」
何のことだろう。
振り返ろうとした、その瞬間。
ガキン――。
背後で鉄格子が勢いよく落ちた。
「え……?」
僕は振り返る。
退路は、重い格子によって完全に閉ざされていた。
「な……何を……?」
宵闇の狐の全員が、ゆっくりとこちらを見た。
さっきまで浮かべていた愛想笑いは、もう誰の顔にも残っていなかった。
「さて。」
リーダーの男が、静かに口を開く。
「ここからが、本当の依頼だ。」
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