【第6章】 第158話

【第6章】第158話 焔々のシュバルツ邸

「…と言うわけです。国王」
グレアムは、マシューからの報告書と自身の報告書兼補足案件の説明をわかりやすく説明した。

国王にではない。自身の頭の中の整理も兼用しての事である。

「アレクシスにも良い経験となっただろうか?」

「それは、王子達がお戻りになられたら、ご本人からお聞きください。」

結局のところ、心配してなかったんだろうなこの国王。
と言うのが、グレアムの考えである。

そこへ、国王の侍従ジェイクが息を切らせて走ってきた。

「国王、失礼仕る。グレアム、大変だ!」

「どうした?ジェイク」

「おまえさんの…グレアム、シュバルツ邸が燃えてる!」

「なんだと?」

王宮のエントランスへ、慌てて走った。

ジェイクに続き、国王も確認へと移動する。

シュバルツ邸は、王都の王宮からも見える位置にある。

領地を持たない国の執務を行う貴族だからだ。

そして今、この王宮のエントランスからも間違いなく観測できるほどに炎が立ち上っていた。

「家には、エマが居るはず…すぐに戻ります!」

「馬を用意させる。馬車より速い」

ジェイクが手配に走る。

「国王、申し訳ありません。家に…」

「すぐに戻れ!事の仔細を分かり次第報告しろ」

「かしこまりました」言って、グレアムも走った。

国王は、エントランスからテラスの手すりを握りしめた。

(何が起きたのだ?)



古代遺跡のダンジョンから、真琴達が戻ってきた時
シュバルツ邸の変わり果てた姿に一同は、言葉を失った。

「館が…いや、父上は?母上は?みんなは?」

ヴィクトルもクラリスも家族の行方に思考がパニックになる。

アレクシス王子は、王宮に戻っている。
今、ここにいるのは
ヴィクトルとクラリス。
真琴にリオ、蜘蛛ちゃんズ
フィオナにレオンハルト、ルードヴィッヒ
そして、シャドー・ブラックだ。

「リオ、通信機でグレアムさんかエマさんに繋がらない?」

「あっ、そうか。今すぐに確認する」

屋敷は、まだ煙が燻っている。
あの美しかった庭もエマさんが育てていた菜園も
屋敷には、大事な書類も貴重な本もあった。
そして、シュバルツ家の思い出も…

「ニャーーーーーーーーーー」

瓦礫の間から、シャドー・ムーンが飛び出してきた。
真琴の腕の中に飛び込み泣きながら震えている。

「無事だったのね!良かった。良かったよぉ。ごめんねひとりにして」ぎゅっと抱きしめて、身体の煙くささに余計に申し訳なさを感じる。


「エマさんと連絡ついた!ヴィクトル、話する?」

「勿論だ!」通信機をヴィクトルに渡して、リオは真琴に報告した。

「グレアムさんにエマさん、それに執事のアスターやメイド長さん達含めて犠牲になって人はいないって。

書類や本など、運び出せた物は全部王宮へ避難させたって。

シャドー・ムーンだけ見つからなかったって
言ってたけど……いたね!」

「そう判れば、リオ何があったと言うの?」

「グレアムさんは、ちょうど王宮で国王といた時間だったらしい。」

「そこからは、私が説明する」
ヴィクトルがエマさんから情報を伝え聞いたらしく、戻ってきた。クラリスは、安堵から涙を流しており、フィオナが慰めている。

「エマさんは、冒険者ギルドへ、ギルド長のエンヤさん達と依頼完了の手続きを終えて、戻って来たところだったらしい。
執事のアスターと旅荷物の片付けをしていた時に、屋敷が
真っ赤に染まった」

「真っ赤…ってまさか?」

赤く染まるというキーワードで思い出すのはただひとり。

「その通りだと思う。母上は、バニラアイスで間接的に光景を見ていたからな。あの時と同じだと言っていた」

世界が赤く染まったと言った。

直後に屋敷のそこかしこで火の手が上がり、

エマさんとアスターがまずは、冷静さを
そして、現状把握を屋敷住民に指示を出し、避難を優先した。

大事な書類や本に財産と呼べる物などは避難できたが、
絵画類は全滅だった。

館は、全焼なのだ。命だけでも儲けもんである。

「ルクレツィアの仕業だと言うのね」

「おそらくその通りだろう」

ルクレツィアは、あのお父様同様に黒曜城に居たのではないか?

セラフィナやルナミナがその動向を監視していたのではないのか?

「リオ、ルナミナとセラフィナからの連絡は?」

「連絡はない。と言うより、連絡が取れない」

シュバルツ邸の惨状は、ルクレツィアの仕業というならば、
これは我々への宣戦布告と見るべきか?

「ルクレツィアからの宣戦布告かしら?」
真琴はつぶやいた。
誰かに肯定してもらいたいのかもしれない。

「誰ひとり命を奪っていない所を見ると、余裕ぶっていると思って良いのではないか?」
ヴィクトルが真琴の呟きに賛同した。

「でも、ルナミナとセラフィナに連絡が取れないのは心配よ?」
フィオナがクラリスを抱きしめながら言った。

「ルクレツィアってこの残り香の女か?」
シャドー・ブラックがクンクンと鼻を鳴らして言った。

「違いがわかるの?」

「勿論だ。わかるところまで動向を探って来てみよう」
言い終わらないうちに姿が消えた。

シャドー・ブラックが消えた方向を見つめながら、真琴は静かに息を吐いた。

「ルクレツィアにも、引導を渡す時が来たのかもしれないわね」

誰も否定しなかった。

精霊王妃を救い、賢人との対話を終えたと思った矢先――。

敵は、自ら戦いの幕を上げた。

その炎は、シュバルツ邸だけでは終わらない。

やがて王国全土を巻き込む、大きな戦いの火種となることを、この時の彼らはまだ知らない。

第6章 完

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