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【第6章】 第157話

【第6章】第157話 精霊王妃は、静かに眠る


「な、な、なっ……これは何だーーーーっ!!」

と間を入れて、

「捕獲と言ったら、蜘蛛ちゃんズです!」

真琴は胸を張って宣言した。

真琴達は「イェーイ!」と手を挙げた。

今、この研究室では、賢人捕縛は蜘蛛ちゃんズが――

「違います。蜘蛛ちゃんズ隊です!」

……ぐるぐるの簀巻きにしていた。

「アベルとエドルクに注視し過ぎだ。馬鹿者」

アレクシス王子の足元に転がされている。

「王子、あちらもほぼ制圧終わりましたな」

真琴達が頑張ったかいがあって、ゴーレム兵士達も動力源が落ちたようである。

「この部屋のゴーレム兵士の動力源は止めたけど、全てを止めると精霊王妃に影響あるのでしょう?」

真琴は、黒狼に聞いた。

「その通りだが、そもそも装置を止めるという行動を取ってくれるとは思ってなかったからな。」

「それはどう言う?」

「短絡的に壊しまくると思ってたって事?」
リオの答えに黒狼は、頷いた。

「うーん、まあ動力源を断てば機械は止まるって身に染みてるからなあ」
真琴は、頬をぽりぽりしながら機械類に目をやった。

「まあ、理屈は後だ。こやつを運んでこのダンジョンを抜けるぞ!」

「リオは、黒狼と例の魔物達をよろしく!」

「あー忘れてた💦」

リオは、黒狼と共に保管室へと向かった。

装置を切ったおかげでダンジョン内の空間迷路も止まっているようである。

真琴達も移動準備に集まった。

「ここはどうするの?」

クラリスが研究室の機器を心配気に見回した。

「それは、私が判断する事じゃないから」

「魔物達の影響がないことが分かり次第魔法庁管轄になると思う」と、ヴィクトルが答えた。

「ここを抜ける前に、精霊王妃の柩も確認して行きましょう」
フィオナは、祈りを捧げてから出たいと言った。
ルードヴィッヒも頷いている。

神殿を離れたのに、このふたりは信仰を手放したわけではないらしい。

「では、撤収!」
蜘蛛ちゃんズもピッと敬礼して、真琴に乗った。

「真琴、やっぱりその絵面はまずいと思うぞ?」

アレクシス王子が真琴の背中を見て顔を青くしている。

数の増えた蜘蛛ちゃんズが真琴の背中びっしり張り付いている。

「言わないで。この子達私に張り付くのがステータスだって思ってるから」

真琴の背中で、頭トップが隊長にSSS級隊員、肩、背中とか取り合っているのだろうか。

「ここの他、砂漠の古代遺跡を抜かせば、10個はあるのか?」

「賢人の言葉を借りれば、20個かしら。でも、王国だけではないだろうから、全てを探すっていうのも壮大な話じゃない?」

真琴は、この機械動いた遺跡を見渡して、
「この遺跡だって、全てをチェックしたわけじゃないわ。」

真琴たちは、フィオナやルードヴィッヒの願い通りに祈りのため移動した。

黒狼は静かに眠る精霊王妃の柩の前まで歩み寄った。

しばらく何も語らず、その姿を見つめる。

やがて、小さく目を閉じた。

「……騒がしくした。また引き続き眠りを願う。」

命が尽きたわけではないが、まだ眠りから起きるわけではない。

その一言だけだった。

精霊たちが、まるでその言葉に応えるように、柔らかな光をまといながら柩の周囲を舞う。

棺の中の精霊王妃は、静かに眠る。

最小限の起動のみで部屋の明かりを落とす。

「黒狼……。」

真琴が声を掛けようとすると、黒狼は首を横へ振った。

「案ずるな。これで良い。まだ、来るべき時ではない」

「この方は、最後まで世界を守ろうとする方だ。」

「ならば、残された我らは前を向くのみだ。」

フィオナとルードヴィッヒは静かに祈りを捧げる。

クラリスも胸の前で両手を重ね、小さく頭を下げた。

研究施設の奥深く。

長い時を閉ざされていた空間は、ようやく静寂を取り戻していた。

「黒狼あなたはどうするの?」

「私は…森でも暮らすさ。ここは、閉鎖したい」

魔法庁の調査は入るだろう。
でも、ここを荒らさないよう願うのみだ。

「だったら、私たちと来ない?」

深く考えずに真琴は言葉にしたが、

「まだ世界中に古代遺跡があるんでしょ?
あなたの知識、絶対必要になる。」

何故かみんな、そう言えばそうかと納得顔した。

「お前たちとか…ならば、この姿の方が良いか?」

黒狼の姿が黒い影のまま揺れて、人型に姿を変えた。

「あら、姿変えられるのね♪」

真琴以外、みんな目を見張り驚いた。

「あら、姿変えられるのね♪じゃないんだが?」
レオンハルトが真琴にツッコミを入れる。

「え?そうなの?獣人とかいるじゃない」

「獣人は、獣人!意味合いが違うぞ」と、
ヴィクトルが説明しようとするが、更に

「不味いのか?……そろそろ進化の時期だからな」

名前を探しているのか考えて、

「名で言えば、お前たちの言うフェンリルに近い存在となる。」

黒狼も首を傾げている。

「わあ、進化のタイミング楽しみ💕」
「もう、問題にするところが見当たらない」
クラリスも苦笑した。

黒狼は、みんなの混乱もなんのその、その名に相応しく、
黒髪に赤金瞳に細身の黒装束である。特徴的なのは、黒髪から覗く耳だろうか。

「人型だと、どんな事が得意?」

「そうだな?闇に潜み、夜を狩り、人の背後をとるのが得意か」

腰に刺した武器は、脇差しくらいの短めの剣と細い鎖がついた鉤爪を持っていた。

木々の間をその鉤爪を引っ掛けて移動するらしい。

「まるで、暗殺者ね」真琴やクラリス、フィオナがきゃきゃしている後ろで

「『まるで』じゃなくてまんまだろうが」と思う男性陣だ。

「じゃ、うちにシャドー・ムーンっているから黒狼は、『シャドー・ブラック』で良いかな?」

「構わん」黒狼は、納得していたが、

他のみんなは「猫の名前と同等…」って引いていたのは当然である。

「さて。」

アレクシス王子が手を叩く。

「感傷は城へ帰ってからだ。」

「エドルク、賢人を。アベルはマシュー長官達の護送を確認しろ。」

「はっ!」

命令を受けた二人が素早く動き出す。

簀巻きにされた賢人は抵抗する様子もなく、ただ無言のまま運ばれていく。

その視線だけが、一度だけ真琴へ向けられた。

「……。」

何かを言おうとしたようにも見えた。

だが、結局その口が開くことはなかった。

真琴も何も言わない。

互いに研究者として理解できる部分と、決して交わらない考えがある。

それだけは十分に分かっていた。

「行こう。」

レオンハルトが先頭に立つ。

止まっていた歯車は静まり返り、迷路も動きを止めている。

帰り道は驚くほど穏やかだった。

真琴は最後に一度だけダンジョンを振り返る。

古代人が遺した技術。

精霊王妃。

賢人。

そして、この地下深くで今なお眠り続ける無数の謎。

「……まだ終わりじゃない。」

思わず漏れたその呟きに、クラリスが笑う。

「ええ。」

「きっと世界には、まだ私たちの知らない『仕様』が残っていますわ。」

真琴も笑みを返した。

「だったら、一つずつ攻略していこう。」

その言葉を合図に、一行は静かにダンジョンを後にした。

ダンジョン入口に残された犠牲者たちは、魔法庁の調査隊へ託すことになった。

リオは最後の確認へ向かい、一行は先に馬車へ乗り込む。

地上から差し込む眩しい光が、長い探索の終わりを優しく迎えていた。

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