【第6章】 第156話

【第6章】第156話 仕様どおり攻略します

「ます、私は貴方をなんと呼べばいいの?賢人ってふざけた名前じゃないわよね?」

「女!軽口もそこまでた。私も随分と軽く見られたものよ。
ここでの研究ももう捨て置くぞ。」

男は、名前も名乗らず、全てを捨ててどこかに行くと言う。

「行かせるものですか!まずは、責任の所在を明らかにしなさい」

「責任?何に対する責任だね?私はここで古い機械を直したに過ぎない。魔石と精霊の融合も古代人の仕業よ」

「その考えは、どこまで行っても平行線だな」
アレクシス王子が、言葉を挟んだ。

「真琴よ、そんなにこの世を背負う事はない。私から言わせれば、このダンジョンは、我が王国の領地にあり、不安定で危険な魔石と、恐ろしい魔物を捉えている。

そのような物騒なもの壊すなり、稼働中止にして、魔法庁に管理されるなりするべきなのだ。

何をひとりの研究者の御託を悠長に聞いている。
もう、扉の向こうには、面倒なゴーレム兵士も来ているのだぞ?

私がここで命令を出そう。その賢人と名乗る研究者を捕まえよ!マシュー長官達を拉致した首謀者である」

アレクシス王子は、迷う事なく従者アベルと護衛騎士エドルクに命令した。

アベルとエドルクが左右に散り、賢人との距離を一気に詰める。

しかし、賢人は逃げようともしなかった。

「愚かな。」

その一言だけを口にする。

その瞬間――

ドンッ!

研究室の扉が大きく震えた。

「来たか!」

レオンハルトが振り返る。

外では、何体ものゴーレム兵士が扉を叩き始めていた。

鈍い衝撃音が連続し、石壁が細かく震える。

「王子殿下!」

護衛騎士エドルクが声を張る。

「このままでは囲まれます!」

賢人は、その様子を静かに眺めているだけだった。

「私は忠告したはずだ。ここは、研究施設だと。」

黒狼が唸った。

「ゴーレム兵士は、胸の魔石に魔素を注入されて動く人工物だ。通常の魔法は効かないし、攻撃は物理攻撃のみだぞ」

黒狼の威嚇咆哮も勿論効果は無い。

「無い無い尽くしね。面白い」
真琴は、両頬を自分の手で叩いて気合いを入れた。

「つまり、胸の魔石が動力源でしょ?」

黒狼は、そうだと答えた。

「……待って。」

「つまり、胸の魔石が動力源でしょ?」

黒狼は静かに頷いた。

「その通りだ。」

「……待って。」

真琴の瞳に、いつもの研究者の光が宿る。

「動力源があるってことは、制御系もあるわよね?」

その一言に、真っ先に反応したのはリオだった。

「そうか……!」

隣ではクラリスもはっと息を呑む。

「どんな機械も、動力だけでは動きませんもの。」

「命令を伝える仕組みがなければ、これほど巨大な人形を自由には動かせませんわ。」

クラリスは研究室の床へ視線を落とした。

そこには魔法陣と並ぶように、何本もの太い管や金属製の導管が放射状に伸びている。

リオも同じ場所へ目を向ける。

「この配管……。」

頭の中で、一つの光景が繋がった。

「エマさんたちが土魔法で封鎖した部屋。」

「あの時、ゴーレム兵士は一室に集められていた。」

「そして、この研究室へは別の通路から現れた……。」

リオは静かに首を横へ振る。

「違う。」

「ゴーレム兵士は、この賢人を守るために集まったんじゃない。」

クラリスも続ける。

「ええ。そんな高度な判断能力を持つ人工物ではありません。」

「施設の決められた経路を移動し、この部屋へ収集されただけですわ。」

真琴は床を走る導管を見つめたまま、小さく笑う。

「なるほどね。」

「この研究施設そのものが、一つの巨大な機械なんだ。」

賢人は黙ったまま三人を見つめている。

その沈黙が、答えだった。

「だったら――」

真琴は勢いよく顔を上げる。

「攻略できる。」

レオンハルトが眉をひそめる。

「攻略?」

「魔法が効かないなら、それで終わりじゃない。」

真琴は胸の前で人差し指を立てた。

「機械には必ず弱点がある。」

「関節を壊せば動きは止まる。脚を潰せば進めない。胸の魔石を露出させれば動力を断てる。固定具を壊せば制御だって失える。」

「倒す必要なんてない。」

「動かなくすれば、それで十分。」

真琴は仲間たちを見回し、いつものように力強く笑った。

「みんな――」

「このゴーレム、攻略手順を取説するよ!」

真琴の声に、仲間たちの表情が変わる。

先ほどまで「魔法が効かない」という絶望が漂っていた空気が、一転して攻略対象へと変わった。

「レオンハルト!」

「任せろ!」

グレアムから託されたあの剣が鞘から抜き放たれる。

「雷の放電が胸の魔石に効果があるか試して。無理ならBプランよ」

「ハハハ、Bプランね。了解!」

「ヴィクトル、あのサンドワームを倒した竜巻やって」

「魔法そのものは効かなくても、周囲への干渉なら可能でしょう。」

「フィオナは、光鎖で物理的にゴーレム兵士の拘束。壁に打ち付ける要領でお願い」

「はい!」

「私もフィオナと同じ光魔法が使える。光鎖で良いな?」

ルードヴィッヒが双剣を両腰に戻して、魔法に集中するようだ。

「クラリス、リオ!」

「「はい!」」

「配管と制御系を探して! ゴーレム全部じゃなくてもいい。この部屋を止められる方法が絶対ある!」

二人は頷き、研究室の床を駆け出した。

「アレクシス王子は…そこでアベルとエドルクに守られてなさい」

なんだとーっと王子が憤慨の地団駄を踏んでいる。

賢人は、その様子を静かに見つめる。

「面白い。」

初めて、その口元にわずかな笑みが浮かんだ。

「ただ剣を振るうだけではなく、動きを見るか」

真琴は肩越しに振り返る。

「研究者なら分かるでしょ?」

「機械は壊すより、止める方が早い。」

賢人は何も答えない。

その沈黙は否定ではなく、まるで実験の結果を見届ける観察者のようだった。

――その時。

バキィィン!

研究室の石扉が、ついに内側へ吹き飛ぶ。

砂煙の向こうから、赤い魔石を胸に灯したゴーレム兵士たちが、一斉に姿を現した。

重い足音が研究室を震わせる。

真琴は仲間たちへ向かって拳を掲げた。

「みんな!」

「このゴーレム、仕様どおり攻略するよ!」


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