【第2章】 第46話

【第2章】第46話 観測依存構造(オブザーバブル・フィールド)

悪い事を言う。

皇后陛下寝室は——確かに、見えている。

だが。

空間は、信用するな。

視覚と認識が、ズレている。

物理と座標が、噛み合っていない。

一言で言うなら——

「……信じるな、全部」

一歩、踏み出す。

踏み出したはずの足が——

“そこにいない”

「……は?」

遅れて、床の感触が来る。

だが、視界は変わっていない。

「はは……」

小さく笑う。

「ルナミナじゃないけど、目ぇ塞ぎたいわこれ」

その瞬間。

空間が、わずかに“揺れた”。

「お」

リオの声が、少しだけ近づく。

「反応したな」

一拍。

「こっちの言葉も、拾ってる」

「最悪じゃん」

軽く返す。

だが——

視線は、一点から動かさない。

皇后。

鏡の前。

「真琴、聞こえますか?」

外側から、クラリスの声。

わずかに歪みながらも、届く。

「物理的な情報は、こちらで補正します」

「助かる」

短く返す。

「じゃあ——役割分担ね」

一拍。

「リオ、解析」

「了解」

即答だった。

「クラリス、位置情報」

「承知しました」

「シャドームーンふせ!」

「にゃーにゃ?」

リオのちゃちゃに、シャドームーンが抗議する。

「あー……いい感じに張ってきた」

真琴は肩を回す。

指先の感覚を確かめるように、ゆっくりと動かした。

大掛かりなデバッグをする時の、いつもの準備。

三方向が、繋がる。

真琴は、小さく息を吐いた。

「じゃあ——」

視線を、固定する。

「ステータス、オープン」

その瞬間。

空間が、裂けた。

視界いっぱいに——

バグ表示が展開される。

《構造:変動中》
《認識:不安定》
《座標:未確定》

重なる。

ズレる。

増殖する。

「……多っ」

思わず、顔をしかめる。

「これ全部読むの?」

「無理だな」

リオが、即答する。

「取捨選択しろ」

「分かってるって」

真琴は、視線を走らせる。

流れるログ。

崩れる構造。

その中で——

一つだけ、動かないものがある。

「……そこか」

小さく、呟く。

「何か見つけたか?」

「うん」

一拍。

「“見てる間だけ安定してる”」

リオが、わずかに黙る。

「……観測依存」

「それそれ」

真琴は、口元を歪めた。

「つまり——」

一歩、踏み出す。

今度は——

確かに、距離が縮んだ。

「見てる間は、固定される」

クラリスの声が入る。

「今、位置が変わりました」

「よし」

手応えがある。

「じゃあ——」

次の一歩を出す。

その瞬間。

足場が、消えた。

「っ!」

視線が逸れたせいだ。

床が——

再構成される。

「……は?」

距離が、戻っている。

「同時に見れない……」

小さく、呟く。

皇后を見ると、足場が消える。

足場を見ると、皇后が遠ざかる。

一拍。

「……クソ仕様じゃん」

リオが、小さく笑う。

「いいね、燃えるだろ」

「燃えるけどさぁ」

真琴は、息を吐いた。

「めんどくさ」

だが——

その目は、笑っていた。

「でも」

視線が、再び“構造”へ向く。

「分かった」

ゆっくりと、口角が上がる。

「これ——“見てるだけじゃ足りない”」

リオが、わずかに目を細める。

「どういう意味だ」

「正しく“認識”しないとダメ」

一拍。

「曖昧だと、再構成される」

クラリスが、即座に反応する。

「……それは」

「はい」

真琴は、頷いた。

「これ——バグじゃない」

一拍。

その声は、静かだった。

「仕様だ」

空間が、わずかに揺れる。

まるで——

“理解されたこと”に、反応するように。

真琴は、小さく笑った。

「いいじゃん」

一歩、踏み出す。

「だったら——攻略できる」

視線が、完全に定まる。

「ここからが本番ね」

「ようやく乗ってきたな」

リオの声が、わずかに笑う。

その瞬間——

視界の端を、何かが横切った。

「……!」

崩れかけたセラフィナ。

輪郭が、保てていない。

今にも——消える。

一瞬。

別の光景が、重なる。

辺境の街。

崩れて、消えていった少女。

あの時は——

何も出来なかった。

「……違う」

小さく、呟く。

視線を、強く固定する。

「今は——違う」

ログが、再び流れる。

構造が、ほどける。

繋がりが——見える。

「……見えてる」

一歩、踏み出す。

今度は、迷わない。

「デバッグ対象、確定」

口元が、わずかに上がる。

「——直す」

リオが、息を吐いた。

「……本当に、お前は」

一拍。

「楽しそうだな」

「そりゃね」

即答だった。

「バグがあるなら——直したくなるでしょ」

その声に、迷いはない。

リオは、小さく笑った。

(……間違ってなかったか)

誰にも聞こえない声。

だが——

確信は、あった。

「行くぞ」

「うん」

視線が、交差する。

そして——

同時に踏み込む。

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