【第2章】 第47話
【第2章】第47話 観測外の異物
引き続き皇后陛下寝室
「目が痛い〜」
次から次へと開かれるステータス画面とバグコードの嵐
バグコードは、真琴に理解しやすくオルフェウスが見せているだけだが、直す側から上書きされる。
「真琴、優先順位を上げろ。捨てて良いものはこちらで消すから」
今は、背中合わせに真琴はリオと会話する。
シャドームーンは、無言で記録係だ。
闇に沈んでいるルナミナも涙顔でぐしゃぐしゃになりながら
『お姉様を助けて』とそればかりだ。
「もう、ルナミナ黙れ!MP削られる!」
「そもそもお前は魔力ゼロだろうが!」
リオがツッコミを忘れない。
「リオ、キリがない!何かさぁ、デバッカーみたいな道具作れない?」
「それは全く同感だがここでどうしろと?」
気を抜くとデバッグの色が赤く光る。
「…無限付箋紙!そうよ。無限付箋紙」
「付箋紙が何の役に立つ?」
「そりゃあ、地球ならそうでしょうけどね。魔改造した付箋紙を舐めちゃ困ります!クラリス聞こえる?」
「ええ、聞こえていますが私もリオと同じよ?無限付箋紙をここでどうすると?」
真琴は、クラリスに無限付箋紙を部屋に投げてとお願いした。
「埋め込みコードに変換させる。リオ出来る?」
リオも忙しなく動かす手を止めないで真琴が言っている事を
考えて言った。
「同じコードの繰り返しは、無限でカバーか?」
「そう言う事!視覚の動きだけでも止めたい。
——バグにだけ、集中させてもらう」
受け取った無限付箋紙、その瞬間。
ぺたり。
空間に——“貼られた”。
「……は?」
リオの手が、一瞬止まる。
それは、紙。
だが——存在の仕方がおかしい。
半透明の付箋が、バグコードの上に“貼り付いている”。
「展開開始」
真琴が、静かに呟く。
次の瞬間——
ぺたりぺたりぺたりぺたりぺたりぺたりぺたりぺたりぺたり——!!
爆発的に増殖する付箋。
流れ続けていたコードを、
覆い、
押さえ、
“止めた”。
赤い警告が——消える。
「な……」
リオが、言葉を失う。
「それ……そんな処理、存在しないぞ」
「でしょ?」
真琴は息を吐く。
「仕様外だから。私の魔改造を舐めてもらっちゃ困ります」
その時——
空気が、軋んだ。
『——何をしている』
低く、重い声。
直接ではない。
だが確かに——“見られている”。
ルナミナが、びくりと震える。
「お、お父様……」
その声は、明らかに違った。
リオとも、
オルフェウスとも違う。
——“深度”が違う。
付箋が、一枚。
ゆっくりと剥がれかける。
『それは——何だ』
問い。
だがそこにあるのは、理解ではない。
“認識できていないものを観測している違和感”
真琴は、顔を上げた。
「ただの付箋紙ですよ?」
にやりと笑う。
「メモ用紙です」
『……意味が分からない』
即答だった。
その一言で——分かる。
こいつも、“分かっていない”。
「でしょうね」
真琴は、軽く肩をすくめる。
「だってこれ——魔法じゃないし」
ぺたり。
一枚の付箋が、深部のコードに貼り付く。
その瞬間——
ノイズが、完全に止まった。
静寂。
一瞬だけ。
完全な、空白。
リオが、息を呑む。
「……真琴、お前それ——」
言いかけて、止まる。
言語化できない。
『……異物』
お父様の声が、低く落ちる。
『それは、この系の術式ではない』
一拍。
『誰が——それを許した』
空気が、重く沈む。
だが。
真琴は、即答した。
「知らないですね」
笑ったまま。
「許可とか、取ってないんで」
その瞬間——
付箋が、淡く光った。
——今だ。
「リオ、維持して」
短く言い切る。
「は!?お前まさか——」
「行ってくる!」
返事を待たず、踏み込んだ。
付箋の海を、真琴が突き抜ける。
ぺたり、ぺたりと足元に張り付くそれは、
足場のように、空間を固定していく。
「ルナミナ!」
闇の奥で、震えている少女。
そのさらに奥——
沈んでいる“もう一人”。
「……お姉様……」
ルナミナが、涙でぐしゃぐしゃの顔を上げる。
「助けに来た」
真琴は、迷いなく言った。
「黙って掴まりなさい」
「……っ!」
その瞬間——
空気が、歪む。
『——待て』
低い声。
さっきよりも、明確に“焦点が合い始めている”。
やばい。
戻りかけてる。
「リオ!」
「持たせてる!が——長くは無理だ!」
付箋が、何枚か剥がれ落ちる。
ノイズが、再び滲み始める。
時間がない。
「セラフィナ——!」
沈む彼女に、手を伸ばす。
触れた瞬間。
——重い。
「っ……なにこれ……!」
引き上げようとしても、“抵抗”がある。
まるで——
“世界そのものに固定されている”みたいに。
『触れるな』
声が、近づく。
圧が、増す。
「知らないって言ったでしょ!」
真琴が、叫ぶ。
その瞬間——
ぺたり。
付箋が、セラフィナに貼り付いた。
「……っ」
抵抗が、一瞬だけ緩む。
「今だ——!」
ルナミナの手を引き、
セラフィナの腕を掴み——
引き剥がす。
——バチッ!!
空間が、弾けた。
「ぐっ……!」
反動で、真琴の体が引き戻される。
だが——
「離さない!」
叫びながら、引き寄せる。
付箋が、連動して貼り付く。
固定。
補強。
強制切断。
『——やめろ』
初めて、“感情”が混じった。
だが——
遅い。
「リオ!」
「限界だ——!」
付箋が、一斉に剥がれ始める。
空間が、崩れる。
「っ、来い!!」
最後に、力を込めて——
引き抜いた。
——落ちる。
三人まとめて、後方へ。
付箋が、弾けるように消えた。
ノイズが、戻る。
だが——
腕の中に、重みがある。
「……っ、はぁ……」
真琴が、息を吐く。
その腕の中で。
ルナミナが、震えていた。
そして——
セラフィナも、かすかに呼吸している。
『……』
沈黙。
さっきとは違う。
“理解した上での沈黙”
『……奪ったか』
低く。
静かに。
「借りただけですよ」
真琴は、笑った。
「あとで返すかは——考えますけど」
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