【第2章】 第48話
【第2章】第48話 再定義進行中
どさり——
真琴の上に、二人分の重みが落ちた。
「いっ……たぁ……!」
息が詰まる。
視界が、ぐらりと揺れる。
「ルナミナ……セラフィナ……?」
腕の中。
一人は震えている。
もう一人は——
「……っ」
静かすぎた。
呼吸はある。
だが、沈みすぎている。
「真琴!離れろ!」
リオの声。
その瞬間——
空気が、整った。
「……は?」
違和感。
さっきまでの“ノイズの嵐”が——ない。
静かすぎる。
綺麗すぎる。
「……これ」
真琴の背筋に、ぞわりと寒気が走る。
「さっきより——ヤバい」
ぴしり。
空間に、細い線が走った。
ヒビのように見えて——違う。
整列している。
「……っ」
腕の中のセラフィナの指が、ぴくりと動いた。
「……う、そ」
ルナミナが、小さく声を漏らす。
「お姉様……?」
ゆっくりと。
セラフィナの瞼が、開いた。
その瞳は——
静かすぎた。
感情がない。
だが、空っぽでもない。
「……なるほど」
ぽつりと、呟く。
「こうなっているのね」
ぞわり。
その一言で、空間が“揃う”。
床。
空気。
光。
すべてが——
“正しい位置”に収まる。
歪み一つない。
だからこそ——息ができない。
「やめろ!」
リオが叫ぶ。
「それ以上触るな!」
「……どうして?」
セラフィナが、ゆっくりと首を傾げる。
「無駄が多いのよ」
一歩。
踏み出す。
その瞬間——
空間が、再配置された。
「っ!?」
真琴の視界が、揺れる。
違う。
歪んでいない。
“整えられている”。
「……ねえ」
セラフィナが、真琴を見る。
「これでいいのよね?」
その問いは——誰に向けたものでもない。
なのに。
答えを求めている。
「……よくないに決まってるでしょ」
真琴が、息を吐く。
「それ、やりすぎ」
「そう?」
セラフィナは、わずかに目を細めた。
「でも——」
その背後で、何かが軋む。
『——戻れ』
低い声。
だが、さっきとは違う。
遠い。
薄い。
「……遅いわ」
セラフィナが、静かに言った。
「もう、入ってるもの」
その瞬間——
真琴の視界に、“それ”が表示された。
⸻
《対象:セラフィナ》
《状態:再定義進行中》
《権限干渉:外部(高位)》
《侵食率:27%》
《処理内容:最適化 → 再構築》
《優先度:最大》
《警告:この処理は既存仕様に存在しません》
⸻
「……っ」
真琴が、息を呑む。
「何よこれ……」
笑えない。
これは——バグじゃない。
「……仕様、作ってる……?」
セラフィナが、ゆっくりと瞬きをする。
その瞳が、わずかに揺れた。
「……うるさい」
小さく。だが確かに。
「今、揃えてるの」
その言葉と同時に——
空間が、さらに静まった。
完璧に。
歪み一つなく。
ズレる余地すらない。
「……っ、やばい」
真琴が、低く呟く。
「これ——止めないと」
だが、足が動かない。
“整えられすぎている”。
ズレることが、できない。
「……ねえ」
セラフィナが、もう一度言う。
今度は、はっきりと。
「……どこが“ズレてる”?」
その問いは——
完全に、“同じ側”のものだった。
⸻
空気が、張り詰める。
呼吸さえ、揃えられていく。
「……やめて」
小さな声。震えている。
「やめて……お姉様」
ルナミナだった。
ぐしゃぐしゃの顔のまま、必死にセラフィナの服を掴む。
「それ、違う……」
「……何が?」
セラフィナは、ゆっくりと視線を落とした。
「綺麗になってるだけよ」
「違う!」
ルナミナが、叫ぶ。
その瞬間——
空間に、ノイズが走った。
ぴしり。
ほんのわずか。
だが確かに、“ズレた”。
「……っ」
セラフィナの瞳が、揺れる。
「お姉様は……そんなのじゃない」
震える声。
それでも、離さない。
「壊すなって言ってたじゃん……!」
「……壊してないわ」
セラフィナの声が、わずかに低くなる。
「整えているの」
「それが違うの!!」
ルナミナの叫びが、空間を裂いた。
その瞬間——
バキッ
見えない“層”が、砕けた。
「……っ!」
セラフィナが、初めて息を詰まらせる。
「……ルナ……」
一拍。
「……ルナミナ……?」
その呼び方は——さっきまでと違った。
「お姉様……戻ってよ……」
ぼろぼろの声。
ぐしゃぐしゃの顔。
それでも——まっすぐ見ている。
「私、まだ……ちゃんと壊してないもん……」
一拍。
「お姉様と一緒に壊すって、決めたのに……」
空間が、歪む。
今度は——
ちゃんと“歪んだ”。
「……ああ」
セラフィナの目が、ゆっくりと見開かれる。
「そう……だったわね」
その瞬間——
整いすぎていた世界が、崩れた。
空気が戻る。
重さが戻る。
ズレが戻る。
「……っ、はぁ……」
セラフィナが、ふらりとよろめく。
真琴が、反射的に支えた。
「……やりすぎ」
小さく、呟く。
セラフィナは、しばらく何も言わなかった。
やがて——
「……少し、借りすぎたみたい」
ぽつりと。
その言葉の奥に、まだ“あれ”が残っているのが分かる。
完全には、戻っていない。
「……でも」
セラフィナは、ゆっくりと目を閉じた。
「無駄は、減らせる」
その一言に——
リオが、舌打ちした。
「……チッ、厄介なのが増えたな」
遠くで、低い声が揺れる。
『……』
今度は——沈黙の質が違う。
完全な支配ではない。
だが、無視もできない存在になった。
「……真琴」
リオが、低く呼ぶ。
「それ、もう“バグ”じゃないぞ」
「うん」
真琴は、短く頷いた。
一拍。
「だから面倒なんでしょ」
⸻
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