【外伝】 曖昧な祈り
【外伝】曖昧な祈り
フィオナは、神殿を辞してからも忙しい。
最近は、教皇自らの再殿入りの打診までくる。
でも、自由を知った今は全てが煩わしい。
街の人と関わり、自分で判断する。
冒険者ギルドからの個人依頼でスケジュールが埋まるから
生活は問題ない。プリーストの聖力は、本物ですからね。
祈りがないのに聖力を使えることに本人の方がびっくりしていたけれど、真琴が問題ないって魔法ログを見ながら言ってくれたので問題ないのだろう。
「はい。只今はこちらの依頼をお願いしたいのですが、如何でしょうか?」
冒険者ギルドにて、1枚の依頼書を手渡された。
今は、その書類をそっと戻し、受付嬢に言った。
「仲間を募って参りますね」
冒険者ギルドを出ると、見知った人物の姿が目に入った。
「あっ、リオ。暇?」
歩く、人物は不機嫌そうに振り向いて
「なんで、いきなり暇?なんだよ!」
「だって、お仕事ならこんな大通り歩いていないと思って」
リオが、フィオナの言葉に一瞬言葉を飲んだ。
「フィオナってさ、天然なのに鋭いところあるよね?」
「私って天然なの?それは意外ね」
にっこりと笑う。
「しかし、ここは…ああ、ギルドから出て来たってことは、何かの依頼?」
「そ!依頼の為に人集め中。だから暇?」
意図を理解して、リオは聞いた。
「ふーん。内容によるかな?」
「じゃ、リオは了解ってことで」
「だから、内容!」
「えー、真琴のお願いは聞くのに私の依頼は蹴るの?」
フィオナがリオの顔を覗き込む。まだ少しリオの方が背が低い。
幼さの残る顔立ちは、口を窄めて抗議する。
「真琴は、僕のお姉ちゃん的立場なんだからいいの!」
「そう言えば、異父母兄姉って言ってたっけ。私とレオンハルトみたいなもの?」
「うーん。もっとドライかな。でも、同じようなもんだよ」
流石にオルフェウスの分身などとは説明が出来ない。言葉を濁すしかない。
「ところで、どんな依頼なのさ?」
⸻
王都の居酒屋でリオとフィオナが卓に腰掛け話をしている。
「納得いかない!」リオが怒っている。
「どうして?」フィオナが不思議そうに聞く。
「それって神殿の怠慢じゃん!」
「手がまわらないだけだと思うよ?」
「でも、神殿の仕事でしょう?」
リオが怒っている理由、それは依頼内容である。
王都には、墓地と言われるものが三ヶ所存在する。
王家由来の皇族専門の墓地。
貴族やそれに準じるお金持ち商人達の墓地
ここには、神殿のお偉いさん達も含まれるそうだ。
そして、国民など一般市民が埋葬される墓地
大きく分けてこの三つ。
だが、本当はそれ以外にも墓地がある。
それは、国民や一般市民が埋葬される墓地から少し離された一角に広がる墓地。
獣人や妖人、魔人が埋葬される場所である。
埋葬と言われれば、聞こえはいいがここは街の墓守も近づかない。
王都には、獣人や妖人、人と交流のある魔人は生活はしている。だか、決してその扱いは同等ではない。
だから、エルフやドワーフは、歳をとり死期を悟ると国に帰る。弔いが欲しいわけではないが、静かに眠る権利は欲しいと願ってしまうらしい。
今、その理由がわかる気持ちがする。
それは、今回の冒険者ギルドの依頼である。
獣人達が眠る墓地に、ネクロマンサー出現の確認。
「確認で済むわけないでしょ?」
「プリーストに依頼ですものね。ネクロマンサーは、退治して死者を眠らせて〜が本音でしょう」
ネクロマンサー(死霊術師)とは、死者や霊魂を召喚・使役する魔術を使うものをさす。
「出現の確認なんて曖昧な言葉で濁すなんて神殿のやりそうなこった」
「わかってるじゃないリオも。昔からそうなのよ。お金はかけたくない。でも、王都民の苦情は、神殿への信仰を揺るがす。じゃどうすれば?ってなるわけよ」
「信仰を揺るがすってさあ、ネクロマンサーなんて天敵みたいなもんなんだろう?派手に聖力で頑張れば浄化と退治で派手な花火散らすようなもんじゃないの?」
「フィオナを困らせるもんじゃない。神殿にそこまでの聖力もつ神官がいないって事だよ」
居酒屋のフィオナ達が座る卓に近づき、フィオナの隣に座る人物。
「やあ、久しぶりだね」
「誰だよ、こいつ?」
人物は、短い銀髪に色が白いが体躯は細身ながら筋肉質だ。
特徴的なのは、顔に道化師のような飾りの多い仮面をしている所だろうか。
リオに向けて、そっと仮面をとる。
「あっ、あっ、ああーーー」
「こらこら、注目を浴びちゃうだろう?」
言って、すぐに仮面を戻した。
フィオナがこそっとリオに言う。
「元『セルディン』よ』
「今は、冒険者のルードヴィッヒと呼んでくれたまえ」
酒を注文して、食事も頼む。
リオは、一度気持ちを飲み込み冷静さを取り戻した。
「もう国を出たと思ったよ」
「それじゃあ面白くないだろう?」
「復讐とか考えてるのか?」
「いや、一人になって思い知った。俺は管理職向きじゃない。無能集団の親玉になっても疲れるだけだ」
「それで、名前を変えて冒険者に?」
「ふふふーん、見てごらんもう銀等級のBランクだよ」
「うわ、銀タグ。見せて!」
リオが、男の首からタグを引っ張る。
「ぐげっ!おい!」
「フィオナ、こんな胡散臭いやつパーティーにいれるの?」
「腕は立ちますよ?」
「信用はゼロだろうが」
「うーん。でも聖力は多めが無難かな」
「そう言えば、セルディンって聖力あるの?」
リオは、疑問を直球で投げる。
「ルードヴィッヒでお願いします。ありますよたっぷりと。
じゃなければ、神殿で上り詰めるわけないでしょうが」
あの豆狸の教皇さえいなければってぶつぶつ言っている。
恨みがないわけではないだろうと思うが、それはフィオナもリオも関係がない事だ。
「それで、そのルードヴィッヒ様もプリーストなのか?」
「いえ、冒険者ルードヴィッヒは、双剣士ですよ」
「リオとルードヴィッヒ、それに私の3人で依頼を受けるわ」
フィオナが言う。
「依頼を受けて、墓地へは明日の夜向かいます」
それぞれ準備をして、墓地入り口に集合と言って解散した。
⸻
「フィオナありがとう」ルードヴィッヒが言った。
「何をですか?」
「神殿から逃げて、途方に暮れている所に居場所を用意してくれた」
セルディンは、当初隣国に行くつもりだった。
隣の国に行って、また同じことをすれば良い。整えることは簡単な事だ。軍隊だっていい。でも、さっき居酒屋で言った事が正しい。管理者は疲れるだけだ。
「アドバイスだけですよ。それは昔、セルディン様も良くしてくれたじゃないですか?」
「それでもだ。私は決して君たちに感謝されるような行いをしてきたわけじゃない」
「私も感謝されるほど人間出来てませんから」
フィオナは、そう言って微笑んだ。
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