【第4章】 第83話

【第4章】第83話 静かな巡回


夜……いや、今も夜か。

時計もない部屋では、
時間の流れすらよくわからない。

暇だけど、
部屋からは出られない。

既に食事は二度ほど届けられていた。

メイド服を着ている“物”。

魔人なのか、
魔獣なのかもわからない。

真琴的に言えば、
ロボットみたいな感じだった。

与えられた仕事を、
無機質にこなしているだけの存在。

だから部屋の掃除も、
断りなく勝手に始める。

(自動掃除機の方がまだ喋るわ)

そんな時間が過ぎ、
真琴がベッドへ寝転がっていると。

ピコン……ピコン……

「魔石ペンが動いてる?」

起き上がり、
音のする方を見る。

A4用紙へ、
蜘蛛が魔石ペンで何かを描いていた。

しかも、
普通に会話している。

中々シュールな絵面だった。

床には、
何枚もの紙。

そこには、
城の見取り図が描かれていた。

「凄い! エラい!」

小さな蜘蛛に、
そこまで期待していなかった真琴は、
思いの外優秀な働きに驚く。

「城の中は、古代遺跡みたいな迷路化はしてないのね」

それでも、
やはり城である。

それなりの広さに、
部屋数も多い。

外はともかく、
中なら何とか攻略出来そうだ。

少しだけ、
真琴は安堵した。

真琴は、
床へ広げた見取り図を見比べる。

「ん?」

同じ場所を描いたはずの紙。

だが、
一枚だけ微妙に違った。

廊下の幅。

窓の位置。

そして、
存在しないはずの階段。

「描き間違え?」

蜘蛛が、
ぶんぶんと脚を振る。

違うらしい。

真琴は、
改めて別の紙を並べた。

「……増えてる?」

部屋の数が。

最初の見取り図には無かった通路が、
後から追加されている。

まるで、
城そのものが生きているように。

「うわぁ……嫌なタイプのダンジョン来たぁ」

その瞬間。

ズ………………

何かを引きずるような音が、
扉の向こうから聞こえた。

ズ……ズ…………

ゆっくり。
ゆっくりと。

その音が、
こちらへ近づいてくる。

真琴の部屋の前で、
音が止まった。

そして。

ギギ……

扉が、
ゆっくりと開いた。

「いや、ノックして?」

心の中だけで悪態をつく。

だが、
誰も入ってくる気配はない。

「……?」

真琴は、
そろりと扉へ近づいた。

冷たい廊下の空気だけが、
部屋へ流れ込んでくる。

ズ………………

まだ、
音だけが聞こえていた。

真琴は、
ゆっくりと頭だけを廊下へ出す。

そこにいた。

タキシードを着た男。

……と思われる“何か”。

首から上が無い。

その代わり、
鎖に繋がれた棺桶を引きずりながら、
廊下を歩いていた。

ズ…………

ズ…………

重たい音だけが、
静かな城へ響いている。

「ホラーやん……」

真琴は、
若干アトラクション気分で、
通り過ぎていく男を見送った。

「夜にあんな音を毎日聞いてたら、
そりゃルナミナみたいな子にも――」

その瞬間。

男の足が止まった。

廊下の空気が、
ぴたりと静まる。

「……まずっ」

真琴は、
慌てて扉を閉めた。

ガチャ!!

鍵が掛かる音。

(あ、失敗した!?)

次の瞬間。

ドンドンドンドン!!

激しく扉を叩く音が響いた。

どうやら今度は、
勝手には開かないらしい。

数分間、
扉は叩かれ続けた。

だが、
中から反応が無いと判断したのか。

ズ…………

再び、
何かを引きずる音が遠ざかっていく。

やがて、
完全に気配が消えた。

真琴は、
扉へ背を預けたまま、
膝から崩れ落ちる。

(……良かった)

今後、
独り言には気を付けよう。

心からそう思った。



「整理しよう」

真琴は、
床へ広げた見取り図を見る。

古代遺跡ほどではない。

だが、
この城の中も、
確実にダンジョン化している。

それでも。

「蜘蛛ちゃんが帰って来れる程度なら、
攻略不能ではない……っと」

蜘蛛が、
ぶんぶんと脚を上下させた。

「うん、偉い」

問題は別。

真琴の脳裏へ、
先程の“首無し男”が浮かぶ。

引きずるように歩いていた時と、
扉を叩いていた時。

あの動きの速さは、
明らかに違った。

「……ルナミナには反応したよね」

なら。

セラフィナ。

ルクレツィア。

その名前には、
どう反応するのか。

「次来たら試してみる?」

真琴は、
そこで少し考え込む。

少なくとも、
鍵を開ける行動にはなる。

扉が開いた瞬間に隠れるか。

それとも、
別の行動を誘導するか。

「……うん。普通に危ないなこれ」



せっせと真琴は、
無限付箋紙を五等分に切っていた。

赤。
青。
黄。
緑。

色分けした細長い紙を、
数枚ずつ蜘蛛へ持たせる。

なお、
この時点で蜘蛛は増殖しており、
既に“蜘蛛ちゃんズ”だった。

「よし。マーキング作戦ね」

城内で、
構造が変化した場所へ色別で貼る。

人間というものは、
意外と上を見ない。

目線より、
数十センチ上。

幅一センチ程度の付箋紙なら、
薄暗い廊下では死角になる……はず。

「本当は糊強化したいんだけどなぁ」

贅沢は言えない。

真琴は、
蜘蛛ちゃんズへ付箋紙を配りながら、
再び見取り図へ目を落とした。

蜘蛛ちゃんズが戻ってくれば、
見取り図も更新される。

意外と付箋紙の色が心に安心の癒しをくれた。

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