【第7章】 第161話
【第7章】第161話 記憶は星を見上げる
「あなたは、幽霊を信じますか?」
リオが、キャンドルを顔に近づけて聞き回っている。
白薔薇離宮へ手伝いに来てくれた王宮のメイドさん達は、
キャーキャー言って逃げ惑っている。
「変な情報収集しないの!」
あまりの所業に思わず、フィオナがリオに拳骨を落とした。
リオが、情報収集していたのは、事実だが
この離宮に人の出入りが少ないことも事実。
夕方、エマさんが庭園を散歩して、その惨状を悲しんでいたから。
「コレット、ごめんなさいね。私が昔の庭園に戻すわ」
冒険者ギルドに使いを出して、ギルド長のエンヤに精霊使いのマナミをよこすようお願いをしていた。
エマの木属性及び土属性の魔法と精霊の力を使おうというのだろう。
「お母様、私も若輩ながらお手伝いいたします」
「水属性も加われば、完璧ね。明日からよろしく!」
夜になり、家も静まり返る。
「もし…俺はどこに寝ればいい?」
真琴の背後に立つ、黒い影。
「きゃーって、シャドー・ブラック!どこから入ってくるのよ」
庭の大木を伝い、エントランスから入ってきたらしい。
指差して、向こうと言っている。
「黒狼の姿で、ソファでいい?」
借宿のここでは、ベッドの数もさほど多くない。
また、黒狼は気にしない風で
「床でも良いぞ?」黒狼の姿に早々に変化して床に寝そべっている。
好きな所でいいわ。と置いてから聞いた。
「匂いを辿ったのよね?どうだった?」
「異空間に飛んだようだ。途中で途絶えた」
「そっかぁ。後でリオに相談ね。それとは別にこの屋敷には、幽霊騒動があるらしいの。精霊の流れとか、勿論幽霊とか感じる?」
「幽霊というのは、わからないが、古いリッチが一匹に珍しい闇属性の精霊が飛んでるな」
「貴方も闇属性だし、シャドー・ムーンも闇属性だけれど、珍しいの?」
「珍しいぞ。精霊王妃が光属性なせいもあるが、もう一人別の精霊王妃の姉がその管轄だからな。」
「ん?黒狼は、精霊王妃からの発生じゃないの?」
「いや、俺は精霊王妃を守ってくれと彼女が眠る前に精霊王妃の姉が生み出した精霊だからな。ちなみに精霊王妃は、陽の恵みの女神で姉の方は、月読みの女神だからな」
「本当に黒狼ってサラッと重要キーワードあげるよね。もう、姉妹はいないよね?」
「姉妹はいない。兄がいるだけだ。」
「兄は?なんの精霊なの?」
「金剛雷電だ。鉄や鉱物の金属全般。何故か雷も好きでな。普段は近づけんやつだ」
(太陽に月に金属かぁ)
「その方々も古代遺跡に眠ってるのかしら?」
「おそらくな。場所は知らんぞ?」
(来るべき時期のためにって感じだったかしら?)
「あっ、それよりも今は幽霊騒動!えっと、闇の精霊がって話だったわよね?私の前に呼べるの?」
「呼ぶか?」黒狼が、起き上がった。
一声、遠吠えするとバタバタバタバタ…と音がして、部屋にリオが飛び込んできた。
「何呼んでるの?」
「あれ?リオ何しにきたのよ?今ね、シャドー・ブラックにこの離宮には、リッチと闇属性の精霊が居て、それらが幽霊騒動の原因じゃないかって。シャドー・ブラックが闇属性の精霊を呼べるって言うからお願いしたの」
「闇属性の精霊なんて簡単に呼んじゃダメ〜」
「何で?シャドー・ムーンもシャドー・ブラックも闇属性でしょ?あの砂漠地方のボルボロのエイレシアだって闇属性持ちの魔法使いだったじゃない?」
「今まで、真琴には友好的な精霊しかあわせてきてなかったから勘違いするかもだけど、闇属性と言うのはね」
リオが真剣に説明しようとする傍らで、
「来たぞ?」シャドー・ブラックが言った。
真琴が寝室に借りた部屋に、黒い影が揺れて、立昇る姿。
人間ほどの大きさに、その姿はまるで…幽鬼と呼べそうである。
低く響く女の声。
部屋の空気が一気に冷え込み、キャンドルの炎が細く揺れた。
リオが慌てて真琴の前へ飛び出す。
「だから言ったのに!」
黒い精霊は、リオを一瞥すると鼻で笑う。
「……光の使いか。相変わらず騒がしい」
「騒がしくもなるよ! 勝手に呼び出されて機嫌が悪かったらどうするの!」
「今日は悪くない」
闇の精霊は肩を竦めた。
「退屈しておったところじゃ」
真琴は思わず首を傾げる。
「えっと……あなたが、この離宮の幽霊騒動を起こしてるの?」
「違う」
即答だった。
「わしは夜を好む。人間を脅かす趣味などない」
「じゃあ、リッチ?」
「それも違う」
シャドー・ブラックが眉を寄せる。
「違うのか?」
「あやつは眠っておる。数百年は目覚めぬ」
部屋が静まり返る。
「じゃあ……幽霊は?」
闇の精霊は、ゆっくりと真琴へ視線を向けた。
「人間というのは、見えぬものを皆”幽霊”と呼ぶ」
そして窓の外を指差す。
「この屋敷で歩いておるのは――」
一拍置いて、
「記憶じゃ。」
「記憶?」
「未練というやつじゃ。大切なものを失ったまま眠れぬのであろう」
「誰の大切なものかしら?」
「ほう、其方は中々胆力あるの。ここの主人であった者じゃ。
わしには見えても、向こうにはわしが見えておらぬようでな。話が通じぬ。でも、人間ならば話すかもしれぬな。深夜二時。星見の塔へ登れ。あやつは、そこで夜空を見上げておる。」
星見の塔とは、この白薔薇離宮の最上階にある6畳ほどの広さのエントランススペースである。
四方を見渡せられる名前通りに星がよく見える。
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