【第3章】 第74話
【第3章】第74話 潜航前夜
一度、
マリーナへ戻ってきた。
深海では、
相談は出来ても、
道具の準備までは難しい。
眩しい太陽を見上げながら、
真琴がふと思い出したように呟く。
「あー……
ヴィクトルマスク持ってくればよかった」
最近では、
あのペスト風マスクは、
すっかり“ヴィクトルマスク”と呼ばれている。
「この天気で被ったら、
相当暑いぞ?」
レオンハルトが呆れたように言った。
「この天気の下ならね〜。
絶対あっついよ」
真琴は、
右手を庇代わりにして空を見上げる。
その言葉に、
リオが反応した。
「似たものなら、
ドワーフ道具店で作ってもらえばいい」
「じゃ、連れてって」
即答だった。
レオンハルトは、
『何だそれ?』
と言いたげな顔で首を傾げている。
⸻
一方その頃。
ヴィクトルとフィオナは、
再び潮騒の魔女――
テレシアの家を訪れていた。
クラリスと、
ヴィクトルの両親を預けたままなのだ。
しかもヴィクトルは、
まだ正式にテレシアへ挨拶も出来ていなかった。
「……両親のこと、
よろしくお願いします」
「よろしくって言われてもねぇ。
そっちの進捗は?」
「何とか……
ボチボチ進んでます」
そこへ、
クラリスがお茶を運んできた。
だが、
あまり寝ていないのだろう。
目の下には、
うっすらとクマが出来ている。
「私がご両親見てますから、
少し休んでください」
見かねたフィオナが、
優しく声を掛けた。
クラリスは小さく頷く。
そのまま、
静かに奥へ引っ込んでいった。
口数も、
すっかり減っている。
⸻
真琴とリオは、
ドワーフ道具店へと来ていた。
店長は、
王都で会ったのと同じく、
髭を蓄えたドワーフだ。
「よっ、今度は何だい?」
リオの姿を見るなり、
店長が気軽に声を掛けた。
リオは、
真琴を指差しながら言う。
「今日は、
こっちの用事」
真琴は、
その指をぎゅっと握りながら答えた。
「バジリスクの視線を遮るマスクが欲しいの」
⸻
「深海仕様で、
バジリスクの邪眼を遮るマスクだぁ?」
ドワーフ店長が、
露骨に顔を引きつらせた。
「リオにも手伝ってもらうわよ?
私、
技術的な仕組みはわからないから。
研究者でも科学者でもないんだからね」
「真琴を科学者にしたら、
マッドサイエンティストになりそう」
「ほざいてろ!
必要なのは暗視スコープ。
作れるよね?」
「やれやれ、
人使いの荒い奴だな」
「当たり前でしょ。
私は、
道具が開発されてからが本領なんだからね。
深海用暗視スコープ。
勿論、
船外作業可能仕様で」
リオと真琴の会話についていけず、
ドワーフ店長だけが青い顔をしている。
「設計書は持ってくる。
作業準備頼むわ」
そう言い残し、
リオは姿を消した。
オルフェウスの所へ行き、
データを取りに行ったのだろう。
最近では、
半ば諦めたのか。
リオも地球側のデータを、
あまり抵抗なく持ち込むようになっていた。
「じゃ、
リオが戻ってくるまでに、
簡単な道具をもう一つ」
真琴は、
ドワーフ店長へ
追加注文を持ち掛けた。
⸻
しばらくして。
リオは、
両手に抱えた書類の束を
ドワーフ店長へ渡しながら、
真琴の手元を見た。
「何だよ、それ」
真琴の手には、
妙に頑丈そうな金属製の輪が握られている。
「まあ、
これから必須な?」
「……可哀想なテュ・ポーン」
「ドワーフ印ですから。
さまざまなサイズで、
用意してもらいました」
真琴は、
ニコニコしながら道具を眺めている。
リオは、
大きなため息を一つ吐いた。
それから気持ちを切り替え、
ドワーフ店長と共に、
店の奥の作業場へ姿を消した。
⸻
夜には、真琴もリオもマリーナへ戻ってきた。
フィオナを潮騒の魔女の家にクラリス達と置き、
ヴィクトルも戻ってきた。
「深刻?」真琴が聞いた。
「クラリスが精神的にな。両親は、以前から覚悟は決まっていたから状態に納得している。回復役なのにフィオナを置いてきてしまってすまない」
真琴は、微笑んで「大丈夫だから」と言い、
それ以上は、その話は収めた。慰めはこれ以上は邪魔だから。
「では、作戦会議を始めます」
号令と共に皆の顔が引き締まった。
今、船内のメンバーは、
船長、真琴、リオに
ヴィクトルとレオンハルトそして
ルナミナとセラフィナだ。
船外には、クラーケンの娘も居る。
今宵、バジリスクの隙をついてヒュドラを捕獲する。
その準備は、整ったのである。
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