【第5章】 第107話
【第5章】第107話 仲間達の絆
「ところで、気になってるんだけどさ」
馬車に揺られること久しく、
フィオナの横に座る
ダークエルフのアリアが聞いてきた。
「真琴の頭頂部にチラチラ見えるの何?」
言われてフィオナも真琴の頭に注目する。
真琴の頭頂部に
五匹の蜘蛛が整列したまま足を揃える。
「ああ、この子達?蜘蛛ちゃんズ味方よ」
味方…味方ってアリアの目が点になる。
「ああ、あの子達真琴が使役してる蜘蛛ですよ」
いい子達なの〜ってフィオナが捕捉する。
真琴が挨拶って言うと、全員出て一列にピッと敬礼した。
「真ん中の子が隊長でスンちゃん。他にパンちゃんにイーにダンね」
名前の付け方もツッコミ入れたいとアリアは思ったが、
言葉を引っ込めた。
「心強い仲間なのね」
真琴もフィオナも褒められたと満面の笑顔。
アリアは、心の中でこれから向かう先の魔物より
この子達のペースに巻き込まれないようにすることの方が
大変かもしれないと思うのだった。
⸻
一方、真琴たちが出発した後のシュバルツ邸
執事が馬車を見送ったそれと入れ替わりに
両親が帰ってきた。
「お帰りなさいませ」
アスターが門扉のところにいる。
いつもなら、屋敷玄関先にての迎えだろうと
エマが声をかけようとした時、
後ろにもう一台馬車が来た。
ヴィクトルは、今魔法庁の方に行っている。
クラリスは、今夜遅くなると言っていた。
王宮から戻される形で両親が帰ってきたのだ。
クラリスの馬車じゃないとはわかっている。
では誰?
降りてきたのな、第一王子直属の近衛騎士団だ。
王家には大きく分けて近衛騎士団が3つ存在する。
一つ、王様直属の近衛騎士団
二つ、皇后直属の近衛騎士団
三つ、第一王子直属の近衛騎士団
第一王女には、騎士団ではなく、護衛騎士が2人付いている。
その近衛騎士団がズラっとシュバルツ邸前に並んだ。
グレアムとエマは馬車から降りて
隊長らしき人の登場を待ったのだ。
「王都も随分と物騒になったものですね」
グレアムが流石に不快を感じて言った。
近衛騎士団の先頭からひとり、書状を持って降りてきた。
「夜分に失礼いたします。第一王子より書状を承って参りました」
騎士が恭しく差し出した封書には王家の紋章が刻まれている。
グレアムが受け取り、その場で封を切った。
短い沈黙。
読み進めるほどに、彼の眉間の皺が深くなる。
「あなた?」
エマが覗き込む。
そこには丁寧な文面でこう記されていた。
⸻
シュバルツ公爵夫妻へ
先日の件につきまして、クラリス嬢との婚約を正式に申し入れる。
両家の体面を保つため、
詳細につきましては後日、王宮にて改めて協議の場を設けたい。
なお、此度の件は王家としても重要事項と認識しており、
無用な憶測や混乱を避けるため、
正式な発表までは関係者以外への情報開示を控えられたい。
また、現在クラリス嬢は王宮にて保護下にあり、
その安全については王家が責任を持つことをここに約する。
第一王子 アレクシス
⸻
「保護下、ですって?」
エマの声が冷えた。
グレアムは静かに書状を畳む。
「ええ。随分と丁寧な言葉で書いてありますが」
そして小さくため息を吐いた。
「要するに――余計なことはするな、ということでしょう」
「クラリスに会いに来るなとも読めるわね」
「少なくとも王子はそう望んでいるのでしょう」
二人の間に重い沈黙が落ちた。
ここに近衛騎士団を用意している事も本気だと示しているのだろうと判断した。
騎士が書状を渡し終えた後、グレアムは一度だけ目を落とし、静かに言う。
「……書状、確かに拝受いたしました」
そして一拍置いて続ける。
「内容については、精査のうえ返答させていただきます」
エマがさらに
「娘に関わることですので、即答はいたしかねます」
と続けた。
近衛騎士団団長は、さらに
「失礼ながら、公爵閣下。
王家としては既に十分な配慮を示しているものと認識しております」
グレアムはしばらく騎士団長を見つめた。
その視線は冷たく静かだった。
「…まずは本人の意向を確認いたします」
改めてエマの肩を抱きしめて言った。
⸻
グレアムとエマは、屋敷に入り外套を脱いだりと
しながら、先ほどのことでまだ気持ちが昂っているのか
ぶつぶつと文句が止まらない。
それを執事がせっせと世話をしている。
「そう言えば、真琴さんたちは?」
静かな屋敷の様子にエマが気がついた。
「真琴様は、ご友人のフィオナ様、レオンハルト様と一緒に
出掛けられました」
「すぐに戻るの?」
「2週間はかかるかと思います」
執事が行き場所を明確に話さない。
でも、日数は把握しているという。
「それから、クラリス様のお部屋にお手紙を置いて行きました。そちらはどうしましょうか?」
「クラリスに手紙?私が確認するわ」
エマがそのままクラリスの部屋へと向かった。
「真琴さんって読めないのよねぇ。クラリスは、随分と懐いているのだけど、私たちの命の恩人でもあるし」
などとひとりごとをいいながら、部屋の扉を開ける。
窓は閉まっている。
家主のいない部屋は、静かで寂しい。
公爵家の娘とは思えない室内。
本に囲まれ、大きな黒板には、訳のわからない数式が並んでいる。机の上には、真琴からの手紙が置いてあった。
親といえども子供の手紙を読むのは躊躇われる。
あとでとどけようと手紙を持ち、出口に向いた。
壁面の違和感がある。
薄いカーテンに壁を隠されて、でもチラチラと
覗く黄色?緑?の紙。
エマは、壁面のカーテンを開けた。
壁面には、一面の無限付箋紙
エマは思わず息を呑んだ。
両親、ヴィクトルに肩を抱かれたクラリスは、
もう懐かしい古代遺跡での
冒険者の装い。満面の笑みで立ち、
その周りにも真琴やフィオナにレオンハルト
それにエマが知らない人たち。
後ろには、極悪片目傷跡グリズリーまで
「私たちがいない間にこんなに沢山のお友達を
作っていたのね」
エマは、知っている。
クラリスが自分を慕い、冒険者に憧れ、庭のあちこちを探検と評して行方不明になっていた幼い頃。
「そうよね。真琴さん、クラリスの本質よくわかっているわ。
あの子は昔から、閉じ込められるよりも、外へ飛び出していく子だったのだから」
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