【第5章】 第103話
【第5章】第103話 その一手で世界は裏返る
オセロというゲームがある。
白と黒の駒を交互に置き、挟んだ駒を自分の色へと変えていく遊びだ。
この世界に存在するかは知らない。
だが、もし盤面がほぼ埋まり、
あと一手で勝敗が決まる局面があるとしよう。
誰もが結果を確信していた。
白の勝利は揺るがない。
そう信じていた。
だが、最後の一手で盤面は反転する。
白は黒へ。
黒は白へ。
勝者と敗者が入れ替わる
セルディンの身に起きたのは、
まさにそんな光景だった。
常識では考えられない速度で、貴族達の立場が塗り替えられていた。
――異端審問会。
教皇直属の実働部隊にして、教会最強の武力集団。
剣技と聖法を極めた者たちで構成され、異教徒の弾圧や禁忌に触れた者の排除を担う。
その剣が振るわれるのは、ただ教皇の命令が下された時だけ。
教会において、彼らは恐怖と畏敬の象徴だった。
「迂闊だった……あの豆狸が――」
セルディンに従っているように見えた教皇。
だが、それは違った。
教皇は従っていたのではない。
ただ、機を窺っていただけだったのだ。
そして今。
セルディンは神殿の奥深くにある地下牢へと繋がれていた。
重い鉄鎖が鳴る。
冷たい石床に膝をついたまま、セルディンは頭を垂れた。
盤面は、すでにひっくり返っていた。
◆◆◆
同じ頃。
神殿最上階。
大聖堂へと続く広間には、張り詰めた静寂が満ちていた。
左右に整列するのは異端審問会。
白銀の甲冑に身を包んだ騎士達は、一切の隙を見せない。
彼らは教皇直属の剣。
教皇の命令のみを遂行する教会最強の武力集団だった。
その中央を、一人の青年が歩く。
第一王子アレクシス。
そして、その先で待つ老人へと足を止めた。
「ご協力、感謝いたします」
アレクシスが右手を差し出す。
教皇は小さく笑った。
「礼を言うのはこちらですな」
しわだらけの手が伸びる。
二人の手が固く結ばれた。
その瞬間。
セルディンが長年築き上げた権力網は完全に崩壊した。
「これで教会は本来の役目を果たせます」
「王国もまた、余計な膿を切り離せる」
言葉は穏やかだった。
だが、その内容は容赦がない。
互いに利用し、互いに利益を得る。
それが今回の取引だった。
異端審問会を背後に従えた教皇と、王国の次代を担う第一王子。
二人が手を結んだ今。
王都の盤面は、大きく塗り替えられようとしていた。
◆◆◆
「次は、皇后宮の膿だ」
執務机に肘をつき、指を組む。
第一王子アレクシスお気に入りの姿勢である。
ちなみに今いるのは、クラリスの執務室ではない。
第一王子専用の執務室だ。
理由は簡単である。
クラリスの執務室に放置すると、彼は仕事をしながら妙に幸せそうな顔をするのだ。
彼女の机。
彼女の椅子。
彼女が使ったマグカップ。
そんなものに囲まれて満足げな空気を醸し出す第一王子を見て、側近達は頭を抱えた。
結果、
『頼むから別室を使ってください』
という側近達の切実な要望が採用され、現在に至る。
なお、クラリス本人からは、
『気持ち悪いのでやめてください』
と一刀両断されていた。
アレクシスとしては少々傷ついた。
だが、やめる気はない。
⸻
シュバルツ邸の一室。
正確には邸宅というより城だが、その話は今は置いておこう。
その一室、グレアムの執務室のドアが開いた。
開いたと言うよりは、頑丈故にエマの蹴りに
耐えたと言った方が正しい。
前置きはよしとして、
「状況は、一刻を争うと言うのに悠長な父親はここ?」
執務室には、ヴィクトルとグレアムがいた。
ヴィクトルは、今クラリスの事で責めていたと言い訳を
グレアムは、王家の動向と戻って説明をしていたと
「それで?クラリスを1人で城に行かせたの?仕事だからなんて言い訳してんじゃないわよ?さっき、フィオナが来て神殿では、異端審問会がセルディンなる男を拘束したって連絡が来たわよ?これが第一王子の策略ならば、次に狙う場所はどこかくらい想像つくわよね?」
グレアムは、書類を片付けて、ヴィクトルは、慌てて部屋を出た。
部屋を出た所でリオが待っていた。
「優秀なる情報屋必要ではありませんか?」
「タイミングがいいな」
ヴィクトルは、リオに言った。
「真琴とエマさんと庭でお茶してる所にフィオナが来たんでね。
それを言うなら、確かにタイミングが良かったね」
「真琴は?」
クラリスの危機に真琴が動かないわけがないと言いたいのか
「フィオナ捕まえて事情聴取してる」
「事情聴取?」
「お菓子付き。あっちも面白そうなんだけどね」
ヴィクトルは、苦虫を噛み締めた。
今ここに、暴走を止める役目はいない。
「まあいい、お前には、役に立ってもらうぞ」
ヴィクトルは、歩き出しながらリオを誘った。
「勿論!超面白そうじゃん!」
ここで置いてかれてしまったグレアム。
エマに尻を叩かれて、城に向かった。
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