【第2章】 第42話

【第2章】第42話 最適化された選択


シュバルツ邸・真琴の部屋。

夜も更け——



「落ち着きましょう」

クラリスが、夜食を運んできた。

「うーん、コック長さん……この時間にこのクオリティは反則でしょ」

真琴が素直に感心する。

全員、無言で頷いた。



「……食べながら聞いてくれ」

ヴィクトルが、静かに口を開く。

「皇后陛下は、セルディンに……何をされていると見る?」



「洗脳……に近いかな」

真琴はサンドイッチに手を伸ばしながら答える。

一口かじって——

首を振った。

「……いや、違うな」

一拍。

「“最適化”って感じ」



「最適化……?」

クラリスが、眉を寄せる。



「うん」

真琴は頷く。

「意思を消してるわけじゃない」

一拍。

「最初から“その選択しかしない状態”にしてる」



部屋が、静かになる。



「……それって」

レオンハルトが、言葉を探す。

「自分で選んでるように見えるけど——」



「選んでない」

真琴が、即答した。



「選べる状態じゃないから」



「……」

クラリスが、手を止める。

「最適化って……そんな意味で使うものでは……」



「本来はね」

真琴は、わずかに苦笑した。

「でもこれは——人にやってる」



「……」

フィオナが、静かに息を呑む。



「良いも悪いもないんだよ」

真琴の声は、淡々としていた。

「“それが最適”って決められたら」

一拍。

「そこに合わせるだけだから」



誰も、すぐには言葉を返せなかった。



「……こんなの」

フィオナが、震える声で言う。

「信仰でも何でもありません」

一拍。

「ただの……」

言葉が、続かない。



「悪魔の所業、か」

ヴィクトルが、静かに引き取る。



「……ええ」

フィオナは、小さく頷いた。

その指先が、わずかに震えている。



「でもさ」

リオが、軽く肩をすくめる。

「支配ですらないんだよ、それ」



「……どういう意味だ?」

レオンハルトが、眉をひそめる。



「簡単な話」

リオは、少しだけ笑った。

「反抗する理由がないんだ」



沈黙。



「嫌だとも思わない」

「疑いもしない」

一拍。

「だから——壊れない」



「……」

クラリスが、息を呑む。



リオは、映像の中のセルディンを見たまま言った。

「よく出来てるよ」

その声は、感心しているようにも——
どこか、冷めているようにも聞こえた。



「……最適、ってわけね」

真琴が、小さく呟く。



「にゃー」

不意に、声が割り込んだ。

映像が、ふっと消える。



「あらあら、リオ。目薬」

真琴が、シャドームーンの涙目を見て言う。

「何で僕に?」

「猫用なんて用意できるの、リオくらいでしょ?」

「真琴、私に寄越して」

フィオナが引き受け、そっと目に手を当てる。

柔らかな光が、包み込んだ。

「治療魔法で効く?」

「大丈夫だと思います」



「……リオってば冷たい」

「何で僕が?理不尽だろ」

頬を膨らませるリオに、空気がわずかに緩む。



「まあ、猫は任せるとして」

ヴィクトルが、視線を戻す。

「それで——その『最適化』をどうする?」



「どうもしない」

真琴は、あっさりと言った。



「……は?」

レオンハルトが、間の抜けた声を出す。



「いや、正確には」

真琴は、指を一本立てた。

「いきなり触らない」



「触らない?」

クラリスが、首を傾げる。



「うん」

真琴は頷く。

「これ、“壊れる仕様”だから」

一拍。

「触ったら終わり」



「……」

全員が、黙る。



「じゃあ何するんだよ」

レオンハルトが、苛立ったように言う。



「観る」

即答だった。



「観る?」



「どこまでが“その状態”なのか」

真琴は、消えた映像の空間を指す。

「境界を探す」



「境界……」

ヴィクトルが、小さく繰り返す。



「全部が最適化されてるなら——手出し不可」

一拍。

「でも」

少しだけ、口元が上がる。

「どっかに“ズレ”があるはず」



「……ズレ?」

フィオナが、息を呑む。



「うん」

真琴は頷く。

「完全な最適なんて、ありえないから」



静寂。



リオが、わずかに笑った。

「……なるほどね」



「まずは観測」

真琴は、指をもう一本立てる。

「次に——」

少しだけ間を置く。

「触れる場所を探す」



三本目の指を立てかけて——止めた。

「その先は」

小さく息を吐く。

「まだ分かんない」



コーヒーを一口。



「でも」

真琴は、わずかに笑った。

「私はその道の専門家ですから」

一拍。

「間違った最適化は——デバッグしてみせますよ」


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