【第4章】 第94話

【第4章】第94話 それは目を開く


それは、干渉圧というよりも――空気砲と呼ぶべきものだった。

城そのものが一瞬息を吸い込み、次の瞬間、嵐のような圧が一点に収束して放たれる。
逃げ場のない衝撃が、真琴たち一行へと叩きつけられた。

突然の事態に、蜘蛛ちゃんズも完全に対応不能。
それでも壊れなかったのは、奇跡に近かった。

全員が壁へと叩きつけられ、息が詰まる。

「痛つーーー!」

すぐに立ち上がれないほどの衝撃。

だが、致命傷ではない。
それぞれが短く状態を確認し、深刻な負傷がないことだけは把握できた。

レオンハルトが先に立ち上がる。続いてリオも体を起こす。
二人がそれぞれ手を伸ばし、真琴とルナミナを引き上げた。

「今のは多分お父様。城の機能を変えたのね」

ルナミナが息を整えながら言う。

「詳しいことは、セラフィナお姉様の方が分かるわ」



「経験があるの?」
真琴がルナミナに聞いた。

「私やセラフィナお姉様、ルクレツィアお姉様は
昔から歪みあってたの。抑えられない衝動は、
お父様の『血』かもしれないわ。
特に、ルクレツィアお姉様の執着と孤圧は、
私たちの命を脅かすほどだったから…」

「姉妹喧嘩が行き過ぎると、発動してた?」

「まあ、そういう事。だからセラフィナお姉様は、
静寂に整える事に特化したのよ」

話が終える頃に真琴達の息は整った。
デュラガーの動きも今は止まっている。

「静かだな」
レオンハルトが言った。

「嵐の前の静かさじゃなければいいがな」
リオも辺りの気配に気を配りながら言った。

「今のうちに合流しましょ」
ルナミナが後少しだからと指差した。



合流は、呆気なかった。
再会を喜ぶ仲間達。

だが、ここで冷静だったのは
セラフィナとリオだった。

「『会えた』じゃない。一網打尽の布石だろう」
リオのその言葉に
ヴィクトルも感じていたのだろう。
黙って組んだ腕に力を込めて頷いている。

「ルナミナほどじゃないけど、私も城の見取り図は
用意してきたわ」
言って、背中から紙の束を出す。

「ガサガサうるさかったのは、
蜘蛛のせいじゃなかったのね?」

ルナミナが呆れて言った。

「でも、…汗臭い」
リオの指摘に、女性陣の無言の圧が取り巻いた。

「今のは、流石に聞き捨てなりませんね」
特にフィオナの怒りは久々説教モードだ。

「ご、ごめんなさい💦デリカシー無さすぎました〜」



フィオナの説教が始まりかけた、その時だった。

ゴォン――

誰かが巨大な鐘を鳴らしたような振動が城全体を貫く。

全員の言葉が止まった。

床が震えたのではない。

空気が震えたのだ。

「……っ!」

セラフィナが顔を上げる。

次の瞬間。

ドクン。

城が脈打った。

まるで生き物の心臓。

黒曜城全体が一度だけ収縮し、
世界そのものが押し潰されるような重圧が降りる。

「これは……」

ヴィクトルが歯を食いしばる。

先程の衝撃とは違う。

吹き飛ばされる圧ではない。

存在そのものを押し潰そうとする圧力。

「お父様……本気で起きたわね」

ルナミナの声からも余裕が消えていた。



ここは黒曜城。

誰もが畏怖する巨大な城塞。

天を突く尖塔。

壁面を埋める異形の装飾。

侵入者を睨み続ける無数のガーゴイル。

それらは城を飾るものではない。

今なら分かる。

あれらは全て――生きていた。

ドクン。

再び城が脈打つ。

まるで長い眠りから目覚める巨獣のように。

それが今、目覚めようとしている。

身震いするように城が軋み、
咆哮にも似た振動が空間を満たした。

「なんか、城自体が巨大ロボット化しそう」

真琴が半ば本気で呟く。

誰も笑わなかった。

笑える空気ではなかったからだ。

だが、その場にいた誰もが理解していた。

まだ直接攻撃されたわけではない。

それでも。

この黒曜城こそが、干渉圧の本拠地なのだと。

その理解は恐怖となった。

誰も口にはしない。

だが、握り締めた拳も、
僅かに震える肩も、
隠しきれてはいなかった。

ドクン。

また一つ。

城が脈打つ。

「……近いわ」

セラフィナが小さく呟いた。

その声には、普段の余裕が無かった。

ドクン。

三度目の鼓動。

今度は誰も言葉を発しない。

全員が同じものを感じていた。

何かが来る。

何かが起きる。

そんな曖昧な予感ではない。

確信だった。

黒曜城の最奥。

そこに在る何かが。

今まさに、目を開こうとしていた。


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