【第6章】 第135話

【第6章】第135話 接近する異変

【第6章】第135話 接近する異変

アレクシス王子の馬車の傍らで、ヴィクトルは伝書鳩を呼び寄せた。

真琴が魔法ログを書き換えて以来、この伝書鳩は遠距離でも確実に魔法通信を届けられるようになっている。

ヴィクトルは手短に異変を書き記すと、鳩へ託した。

「父さんたちも調査へ向かっているはずだからさ」

白い翼が羽ばたき、大空へ消えていく。

これで異変は、すぐに伝わるだろう。

――だが、ヴィクトルたちはまだ知らない。

冒険者パーティー『緑水の調べ』もまた、この街道へ向かっていることを。



マシューとグレアム率いる魔法庁調査隊一行。

調査隊というだけあって人数も多く、移動にも時間がかかった。

空から一羽の伝書鳩が弧を描き、グレアムの腕へ降り立つ。

「伝書鳩か? ヴィクトルか?」

マシューが声を掛ける。

以前、魔法庁内で起きた伝書鳩大量移動騒動を思い出していた。

「正解! 前方を進んでいるらしい。……『キマイラ出現、気をつけられたし』とある」

「キマイラ? 予想が当たりつつあるか?」

「あまり当たって欲しくはなかったよ。今回はイノシシがキマイラ化していたとある。生体実験に移行したって事だな」

「隊列なのがもどかしいよ」

マシューがしみじみと呟く。

しがらみのなかった学生時代なら、無鉄砲も笑って許された。

だが今は責任ある立場で隊列を率いている。

「最善を尽くす。それだけだよ」

「大人になったなぁ〜」

「お前が言うな!」

隊列のメンバーは、二人が一番大人気ない事を口には出さず、静かに見守った。



王都から延びる街道のインフラは、中世そのものだった。

土を均し、目立つ石をどかし、人々が踏み固めて道になる。

冒険者ギルドの馬車も丸い木製の車輪に鉄製の板バネ程度の構造で、車内にクッションを敷いていても長時間の移動は決して楽ではない。

それゆえ、どのパーティーも適度に休憩を挟みながら進む。

『緑水の調べ』も例外ではなかった。

最初に異変を感じたのは、精霊使いのマナミだった。

彼女は馬車から身を乗り出し、街道の外れを指差す。

「精霊がざわついてる。あっちの方向……」

しばらくすると、遠くで小さな爆発音が響いた。

「きゃっ!」

爆発音の直後、マナミが悲鳴を上げる。

「どうしたの?」

エマがすぐに問い返した。

「今……精霊の命が爆ぜた。酷い!」

街道の外れには、細い煙が立ち昇っている。

一度きりの事故にしては、あまりにも整い過ぎた痕跡だった。

エマは目を細める。

「不安定な魔石か、それとも……意図的な破壊ね」

「意図的……?」

マナミの声が震えた。

その瞬間だった。

――もう一度。

遠くで、同じ爆発音が響く。

「……え?」

マナミが顔を上げる。

今度の爆発は、先ほどよりもわずかに街道側へ近づいていた。

まるで、何かがこちらへ向かって移動しているかのように。

「……移動してる」

エマの声が低くなる。

「爆発が……こちらへ寄ってきてるわ」

馬車の空気が一気に冷えた。

「偶然じゃない……」

誰かが小さく呟く。

マナミは胸の前で両手を強く握り締めた。

「精霊が……逃げてる。怖がってる」

その言葉の直後――さらにもう一度。

今度は、はっきりと近い。

ドンッ!

土がわずかに震え、馬が落ち着きを失っていななく。

エマは即座に判断を下した。

「馬車を止めて! 進路変更の可能性あり!」

全員の視線がエマへ集まる。

「……これは調査案件じゃない。接触案件よ」

誰も冗談を口にしなかった。

ふざける余地は、もうどこにも残されていなかった。

その頃――。

異変を知らせる白い伝書鳩は、今なお王都へ向かって飛び続けている。

しかし、その翼よりも早く。

街道を這う異変は、確実に人々へ近づいていた。
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文章が重複していて、申し訳ありませんでした。

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