【第6章】 第134話

【第6章】第134話 出立の道中

アレクシス王子が乗る馬車の中は、カオスだった。

アレクシス王子の従者アベル・スロット(二十六歳)。
そして護衛騎士エドルク・クロフォード(二十八歳)。

今回選ばれての護衛任務だが、

エドルクは、隣に座るルードヴィッヒを露骨に警戒していた。
それは、当然のこと(前章参照)ではあるが、
狭い馬車内の事なので空気は最悪である。

それに耐えきれずにヴィクトルが口を開いた。

「それにしても、今回アレクシス王子がこの人数だけで同行されるなんて珍しいですね。」

「ん?まあそうだと思うが、国王はニヤニヤして了承してくれたぞ?」

ヴィクトルは、知らない。
かつて、国王も同様に旅をした事を。

「エドルク、昨年の御前試合の立ち合いは見事でしたね」

数年に一度、王都では、中庭をコロッセオに見立てて
御前試合なる剣士のトーナメントが行われる。
街の冒険者も含めて、腕に覚えのある剣士は、このトーナメントに参加をして知名度を上げる。

昨年度の準優勝はこのエドルクだったのだ。

「準優勝だ。優勝じゃない!」
よほど、悔しかったのだろう。拳が震えている。

ルードヴィッヒがそこで聞いてしまった。

「準優勝とは、中々の成績と思いますよ。私は、それでこのエドルクさんを制しての優勝者は、どんな剣士だったのですか?」

「ハハハ、エマ・シュバルツという…母です。」

「大剣と魔法を組み合わせた見事な剣撃であった。あれに勝てるものはこの王都では難しいと思うぞ」

アレクシス王子が追い討ちをかける。

余計に萎縮したエドルクに馬車内の空気は氷点下だった。

「胃が痛い…」従者のアベルが思っても無理もない。



真琴たちの馬車では、緊張感とは無縁の時間が流れていた。

「あ、そうだこれをアリアから預かってきたよぉ」
と、リオがマジックボックスのカバンからシックな包装の箱を出してきた。

「何?」真琴が手渡された箱を開ける。

「まあ!」フィオナが歓喜の声を上げた。

「チョコレートね。アリアさん作の」

「先日、ちょっと仕事を協力して貰って、お礼にレシピをいくつか渡したの。これは、その中の一つね。レシピなんて言うほどのものではないけれど」

「でも、可愛い。3センチほどのこのサイズが個別にデザインバラバラに並べられているだけでワクワクしちゃう」

「うん。チョコレートの比率を変えて、素材を楽しめるようにしたらギフトにも行けるよって話したら喜んでくれたの」

「うん。プレゼントとか最適よね。早速!」

「あっ、僕も!」

「私も!」

「美味しい」っと全員の感嘆の声が上がった。

「私は、このほろ苦いのが好き。昔よく食べたのに似てる」

「私は、このミルキーなのが好き!ミルクティーとよく合いそう」

「全く、ではここでうちの料理長からの差し入れも出しましょう」

言って、鞄の中からクラリスは、クッキーを出した。飲み物も持参だ。

「すっかり、スィーツパーティーだね」

「旅の醍醐味ですもの」ご機嫌なフィオナに懐柔される。

「おーい!俺にも残しておいてくれよぉ」と、

レオンハルトの声も中に聞こえた。


ここで、一行の隊列を説明しておこう。

先頭を走るのはアレクシス王子の馬車。
その後方を真琴たちの馬車が続いていた。

さらに後方では、『緑水の調べ』の馬車と、マシューやグレアム率いる魔法庁調査隊が、それぞれ一定の距離を保ちながら進んでいる。

そのため、最初に異変へ気付いたのは、先頭を走るアレクシス王子たちだった。

馬車が止まった。

アベルは、まだダンジョンまで距離のあるこの場所で馬車が止まったことを不思議に思い、御者へ尋ねた。
「どうした?」

御者は、顔を青くして、先方を指差した。
馬も異変に戦慄いている。

まだここは、街道である。
その先にふらふらと動く影。

護衛騎士は、アレクシス王子に
「確認して来ます」といって、馬車の中にいるように制した。

ヴィクトルとルードヴィッヒも外に出る。

「…魔物か?」

すぐ後続の真琴たちの馬車も止まり、レオンハルトとリオが走って来た。

真琴たちは馬車から身を乗り出し、その様子を見守っていた。

「魔物にしては、動きが…」

遠目からも正常ではない動き。

「まるで、ゾンビみたい」と真琴は言った。

「僕がそばに行って見てこようか?」とリオが言う。

「そうだな。頼んで良いか?」と、ヴィクトルが答えた。

「了解!」飛ぶように軽い足取りで前方へと走った。

前方に走って行ったリオが手を軽く振る。

キンッ——。

澄んだ音が響いた瞬間、その影はドサリと倒れた。

その影は、煙のように霧散した。

慌てて、ヴィクトルとルードヴィッヒにレオンハルトも駆け寄った。

「いきなり倒したのか?」

「ごめん!瘴気が出てたし、もう爆発寸前だったから」

「生き物じゃなかったのか?」レオンハルトが聞いた。

「生き物だったものだよ。イノシシの心臓をあの不安定な魔石に置き換えたものだった」

リオが酷く嫌なものを見たといった風な表情をした。

「それって…」ヴィクトルとが息を呑む。

「そうだよ!まさしくキマイラだよね?最悪な進化だ」


ーーーーーーーーーー
ここまで読んでいただきありがとうございます。
少しでも続きが気になったら、スキやフォローで応援してもらえると嬉しいです!

前の話
次の話
【第6章】まとめページ
【第5章】まとめページ
【第4章】まとめページ
【第3章】まとめページ
【第2章】まとめページ
【第1章】まとめページ


いいなと思ったら応援しよう!