【第6章】 第133話
【第6章】第133話 緑水の調べ
新ダンジョン
踏破されていないダンジョンは、冒険者にとって宝の山だ。
もちろん、ダンジョン内にある宝箱だけではない。鉱石や薬草などの採取素材、魔物を倒した際に得られる魔石。さらには攻略のために作成された各階層の詳細な地図までもが高値で取引される。
そのため、一口に冒険者と言っても役割は多岐に渡る。近年では、それぞれの専門職もさらに細分化されていた。
『緑水の調べ』
王都冒険者ギルドに所属するトップパーティー。
リーダーは、大剣と土・木属性魔法を操る魔法剣士エマ。
大盾を扱うアーノルド、魔法師エンヤ、そしてエルフの弓使いヒース。
さらに、SSS級へ昇格した彼らは若手育成にも力を入れており、新たに双子の冒険者が同行することになった。
一人は、精霊使いのマナミ。
五属性の精霊と契約し、それぞれの力を借りて精霊魔法を放つ。
もう一人は、測量師兼土属性魔法使いのナオト。
斥候として先頭を進みながら、魔法で地図を作成するという珍しい技能を持つ冒険者だった。
「どうなの? 若手は」
エマは今回から同行する双子へ目を向けながら、エンヤへ尋ねた。
リーダーではあるものの、エマは長らく『緑水の調べ』を離れていたため、パーティー運営はエンヤへ任せていたのである。
「上々よ。素直だし、知識をどんどん吸収しようとする姿勢も好ましいわ。」
「ふむふむ。問題なし?」
「問題がなければ、二人だけでパーティーを組ませていたわ。」
「というと?」
「双子だから息が合いすぎるのよ。気付けば二人だけで突っ走っちゃうの。まだC級だし、今回は同行して経験を積みなさいって、ギルド長として連れて来たの。」
「ギルド長が目をかけてる二人かぁ。期待しちゃうね。」
「もう。でも、マナミの方はヒースに傾倒してるから、その辺は大丈夫かしら。」
見ると、マナミはヒースの隣で嬉しそうに話をしている。
精霊たちも彼の側にいると落ち着くらしい。
その様子を見たエマは、今度はナオトを呼んだ。
「ナオト、ちょっと。」
「は、はい! リーダー!」
緊張のあまり身体が硬くなる。
「斥候も担当していると聞いたけれど、武器は何を使うの? 剣士? それとも魔法主体かしら?」
「僕はダガーと……これです。」
そう言って取り出したのは、子どもの玩具にも見えるヨーヨーだった。
「玩具……? ヨーヨーってやつよね?」
「はい。」
ナオトは紐を軽く操りながら答える。
「これ自体の威力は大したことありません。でも、ダンジョンなら十メートルほど先にある落とし穴や隠しスイッチを安全に確認できるんです。」
「へぇ……そんな使い方があるのね。」
感心したようにヨーヨーを見るエマ。
「それは頼もしいわ。」
その一言を聞いた瞬間、ナオトの目から涙が溢れ出した。
「ちょ、ちょっと!」
「いえ……斥候って役目は喜ばれるんです。でも、こうして具体的な仕事を説明すると『そんなの役に立つのか』って笑われることが多くて……。」
「だって、斥候をしながら地図まで作ってくれるんでしょう? こっちからしたら感謝しかないわ。」
その言葉に、ナオトはさらに涙を流してしまう。
騒ぎを聞き付けたマナミが慌てて駆け寄って来た。
「すみません! ナオトったら、『緑水の調べ』にずっと憧れていたので、まさか同行させてもらえるなんて思っていなくて……ずっと興奮しっぱなしなんです。」
「いいの、いいの。ちゃんと仕事を分担して進められるなら、それで十分よ。」
「ありがとうございます!」
「それより、マナミさんだったわね。あなたがお姉さん?」
「はい。私が姉で、ナオトが弟です。二人とも十六歳です。」
「十六歳でC級冒険者なんて、大したものじゃない。」
「辺境の外れの村に住んでいたんですが、この間のスタンピードで両親を亡くして……生活のためにも冒険者になったんです。」
「そう……。頑張ってきたのね。」
エマは優しく微笑んだ。
「『緑水の調べ』へようこそ。歓迎するわ。」
「ありがとうございます!」
「でも、一つ話しておかなきゃいけないことがあるわ。今回の依頼内容は聞いている?」
「はい。ギルド長から、新ダンジョンの調査と探索だと聞いています。」
「そう。その新ダンジョンの入口付近で、奇妙な魔石が見つかっているの。」
「奇妙な魔石ですか?」
「魔物の魔石へ、無理やり精霊のコアが組み込まれたものらしいの。人工的に加工された痕跡があって、とても不安定。最終的には爆発するそうよ。」
マナミの表情が引き締まる。
「あなたは精霊使いと聞いたわ。もしダンジョン内で精霊たちが暴走するようなことがあれば、大丈夫?」
「その話は噂でも聞いていました。ギルド長からも説明を受けています。」
マナミは静かに頷いた。
「だからこそ、私たちは参加をお願いしたんです。私に力を貸してくれている精霊たちと同じ存在が苦しんでいるなら、見過ごすことはできません。」
その瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。
「そう。」
エマは真っ直ぐにその目を見返す。
「でも、辛くなったり、パーティーに危険が及ぶと判断したら、その時は私が止める。いいわね?」
「はい。よろしくお願いします。」
マナミは頭を下げると、ナオトの手を引いて馬車へ戻っていった。
新ダンジョンまでは、まだ道のりがある。
その間、アーノルドは黙々と馬の手綱や荷車の点検を行い、出発の準備を整えていた。
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