【第4章】 第85話
【第4章】第85話 無限付箋紙
黒曜城――
真琴が囚われている部屋。
真琴は、
せっせと黒曜城の見取り図更新に勤しんでいた。
意外と優秀な蜘蛛ちゃんズ。
超小さいのに、
体力だけはやたらある。
壁を這い、
隙間へ入り込み、
小さな脚で情報を集めてくる。
そんな中――
蜘蛛ちゃんズが、
お土産を持って帰ってきた。
「ん?」
器用に前脚へ挟んでいたのは、
色とりどりの無限付箋紙だった。
ピンク、
黄色、
青、
緑。
真琴は目を丸くする。
「えっ、届いたの!?」
蜘蛛ちゃんズから付箋紙を受け取り、
内容を読もうとした瞬間――
ふわり。
部屋の中で、
付箋紙が勝手に浮かび上がった。
「うわっ!?」
十数枚の付箋紙が、
空中で重なっていく。
ぐるり、
くるりと位置を変えながら、
一つの形を作り始めた。
芸術と呼べるほど、
大層なものではない。
だが――
完成したのは、
“サムズアップ”の手のマークだった。
「もう!」
思わず、
真琴の口元が緩む。
なんて、
心強いんだろう。
築いてきた絆が、
そこにある。
昔は、
自分はコミュ症なのだと思っていた。
人と関わるのが苦手で、
距離感もよくわからなかった。
だが――
今はどうだろう。
こんなにも、
心強い繋がりがある。
「……ありがと」
真琴は、
付箋紙を胸へ抱き寄せた。
⸻
「届きました!」
セラフィナが叫ぶ。
真琴へと繋がった、
細い軌跡。
切れそうなほど頼りない。
だが確かに、
繋がった。
「いけるのか?」
ヴィクトルが低く問う。
セラフィナは、
空間の揺らぎを見つめたまま頷く。
「この軌跡を広げます。
真琴側から“繋がった”事で、
道として固定できます」
「固定……」
クラリスが息を呑む。
今セラフィナがやっている事は、
単なる転移ではない。
異界と異界を縫い合わせ、
“通路”を作ろうとしているのだ。
失敗すれば、
空間の狭間へ落ちる。
二度と帰れない可能性すらある。
それでも――
「やるしかねぇんだろ」
レオンハルトが前へ出た。
その手は、
既に剣を握っている。
理解はできない。
空閑も、
異界も、
空間固定も。
だが、
行かなければならない事だけはわかった。
真琴が、
あそこにいる。
だったら、
迎えに行く。
それだけだ。
「ルナミナ。
城へ入った後の案内は頼めるか?」
リオが確認する。
「う、うん。
でも……」
ルナミナが珍しく言い淀んだ。
「黒曜城は、
普通のお城じゃないよ」
「場所が変わるの。
廊下も、
階段も、
部屋も……」
「お父様の意思で、
ぜんぶ変わる」
船内の空気が静まる。
生きた迷宮。
それが、
黒曜城だった。
「ますます最悪ね……」
クラリスが額を押さえる。
「だが、
真琴は既に中にいる」
ヴィクトルが言う。
「ならば、
我々も踏み込むしかない」
ヴィクトルとクラリスの両親が前に出た。
「レオンハルト、これを持っていきなさい」
グレアムの持っていた長剣を渡してきた。
「水晶竜に晒された魔剣だ。今君が持っている炎の剣よりも
相性が良いはずだ」
レオンハルトは、長剣を受け取った。
幻竜の力を受けた魔剣。
元々は、王家の秘剣だったそうだ。
功労と王家との繋がりを示す剣
これはすなわち、雷剣。
レオンハルトは、黙って頷いた。
そもそも持っていた炎の剣は、
もらった物ではない。
師匠と呼んだ男の遺品だ。
孤児で育ち、
何の後ろ盾も持たない剣士。
神殿の護衛騎士となっても、
立場は低かった。
馬鹿にされ、
蔑まれ、
軽く扱われる事も多かった。
フィオナと寄り添いながら、
ただ“生きる”事を続けてきた。
安い防具。
粗末な道具。
後ろ盾が無いというのは、
そういう事だ。
だが今――
腕を見込まれ、
託された長剣。
その意味と重みに、
レオンハルトは息を呑む。
初めて。
自分が、
一人の剣士として認められた気がした。
「繋がります」
セラフィナの周囲で、
空間が軋み始めた。
淡い光が、
船内へ幾重にも線を描く。
一本。
また一本。
細い軌跡が、
やがて“道”へ変わっていく。
その先に見えるのは――
夜。
陽の差さない、
異界の闇。
まるで空そのものを削り出したような、
黒曜石の城が浮かんでいた。
誰も、
言葉を発しない。
ただ、
圧倒されていた。
あれが、
黒曜城。
世界の深部。
そして――
真琴が囚われている場所。
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