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【第2章】 第26話

【第2章】第26話 風は、軽すぎた


ボルボロを出発して数日。

果てしなく続く砂の大地に、真琴たちは確実に消耗していた。

王都育ちのヴィクトルやクラリスはもちろん、フィオナやレオンハルトですら、この環境には慣れていない。

焼けるような熱気。
足を取られる砂。
口を開けば入り込む砂塵。

体力だけが、じわじわと削られていく。



「ねえ、リオ」

「なんだ?」

「砂漠って、この先に海とか川とかあったりするの?」

真琴は、わずかな知識を頼りに問いかけた。

「——知らん」

「はあ!?」

思わず声が荒くなる。

「古代遺跡があった時代には砂漠など存在しなかった。今の地形は後から変化したものだ。だから現在の地理は当てにならん。以上だ」

雑すぎる説明に、真琴が何か言い返そうとした——その時。

「不勉強ですわ!!」

クラリスがびしりと指を突きつけた。

「ちょ、指差しダメだからね?」

「いいえ!ここは専門家に説明していただくべきですわ!」

くるりと振り向く。

「お兄様」

「……俺か」

ヴィクトルがわずかにため息をついた。

「魔獣研究の責任者として、説明してくださいますよね?」

「そんな肩書き初耳なんだけど?」

「……一応ある」

眉間に皺を寄せたまま、ヴィクトルは前方を見据えた。

「この砂漠は自然にできたものではない」

一拍。

「——魔獣が作っている」



「は?」

真琴が目を瞬かせた、その時。

——プシュウゥゥッ!!

砂が噴き上がる。

遠く、いくつも。

まるで呼吸するかのように。

「……クジラの潮吹きみたい」

フィオナが小さく呟く。

「まあ、似たようなものだな」

ヴィクトルは淡々と続ける。

「サンドワーム。砂漠に生息する大型魔獣だ」

真琴がリオを見る。

リオは簡潔に補足した。

「体長三十メートル級。砂中を移動し、土を分解して砂へ変換する。強酸を吐く厄介な相手だ」

「うわ、最悪……」

レオンハルトが顔をしかめる。

「基本は関わらずに進むのが定石ですわね」

クラリスが頷いた瞬間。

「——フラグ立てたな」

リオがぼそりと言う。

全員が無言で頷いた。

「え?え?」

クラリスだけが戸惑う。



その時だった。

「……囲まれてないか?」

レオンハルトの低い声。

真琴が慌てて地図板を確認する。

紫の反応が、円を描くように——迫っていた。

「大きいのが三体……それに小型が複数!」

砂の噴き上がりが、明らかに近い。

「リオ!」

真琴が叫ぶ。

「ここは転移で抜ける!今ならまだ数が絞れる!」

一瞬の判断。

全員が頷く。

「——了解」

リオが詠唱に入る。

その直後。

——ズォォォン!!

三体の巨大な影が砂を割って現れた。

だが。

その瞬間、真琴たちの姿は掻き消える。



次に現れたのは——古代遺跡の目前。

砂の中から突き出た石造の尖塔。

目的地は、すぐそこだった。

「はぁ……助かった……」

真琴が息を吐き、地図板へ視線を落とす。

その時。

——影が、動いた。

誰も声を出さない。

ただ、本能が警鐘を鳴らしていた。



ズズ……ッ

砂が——盛り上がる。

ゆっくりと。

巨大な“何か”が、姿を現す。

それは——

これまでの個体とは比較にならない。

五十メートル級。

まるで大蛇が鎌首をもたげるように、砂の主がそこにいた。

「…ま、まるで超高層タワーマンション!」
真琴が思わずそう叫んでしまったが
当然、リオを除いて“?“な言葉である。

だが、その一言が妙な空気を変えた。

「デカくたって、1匹になったんだラッキーと思おうや」
レオンハルトのポジティブは、こんな時に発揮される。

「そう、そうですわ。戦術だって立てやすいと思います!」
ボルボロの一戦以降クラリスも自分の魔法に自信を持ったようだ。

「強酸を浴びたって、頭と顔以外でしたら完璧治療請け負います!」フィオナも励ますつもりで叫んだ。

「まあ、即死以外はフィオナに頼るけど……それ前提なの怖いんだけど?」

真琴はフィオナにツッコミを入れつつため息をというか深呼吸した。そして

「さあーて、この馬鹿でかい芋ちゃん相手にどんな攻撃を効きそう?魔獣研究者さん?」

ヴィクトルが真琴の方に向いて言った。
「嫌味かそれは?相手の攻撃は先に言った通りだ。
そうだな。強酸を吐く時に大きな口を開ける。内側は、弱いと思うな。砂の中に潜られると厄介だ。ここは、フィオナの光鎖で拘束を頼む」

「そうね。砂の中を動き回るから外殻は硬いと思っていいかしら」真琴は、思案を練る。

「考えるの早くしろよ!」
レオンハルトが叫んだ。

「ヴィクトル、まずは一回口開けたところでエアースラッシュ叩き込んでみて?」

「わかった。フィオナ光鎖の拘束を頼む」

フィオナが頷いて言った。
「大きさから言って、拘束も10秒がいい所ですからね」

ヴィクトルが頷いて、レオンハルトに言った。
「陽動頼む。一緒に動くから口が俺の方向くように出来るか?」

レオンハルトが剣を構えながら
「出来るかじゃないだろうやるんだよー」

「リオ、なんだ真琴?」
「私たちは、この様子見から次の魔法を考えるの。最適な攻撃威力をね。私は新魔法なんてできないけど、威力の魔改造なら得意なんだからね!」

クラリスが水魔法で後援隊のバリアをしていてくれる。だが水の無い砂漠では、利用する水分もたかが知れている。消耗が激しい。

「ここは、本当に不利な場所。短期決戦で行くわよ」

サンドワームの口が大きく開いた。口の奥で吐き出す強酸を準備しているのだろう。紫耀く光が収縮する。
レオンハルトがザッ!っと足を止め、ヴィクトルが魔法を繰り出した。
「エアースラッシュ‼︎」

「ヴィクトル!」レオンハルトが魔法を放ったヴィクトルと共にその場を跳ねた。二人がいた地点にバシャっと強酸がかかる。

「フィオナの光鎖での拘束とレオン達の魔法タイミングはバッチリだったけど、やはり威力が足りないわね」

リオも言った。
「そうだな。まさに威力不足だ。本来ならば口の中に爆薬でも投げ込みたい所だよ」

真琴も頷いて
「まあ、無いものは無い。ここにあるのは砂ばかり…砂ねえ」

真琴は、片手を顎に置き、考えた。
私が出来るのは、既存の魔法を魔改造。
今回は、クラリスの水魔法は不利。
となるとレオンハルトの炎?いや、熱砂に慣れているサンドワームには効果薄いよね。
となると、ヴィクトルの風魔法か。
エアースラッシュは、威力不足。でも、飛ばすのは出来るね。
竜巻も確か出せたよね。
そう思って、リオにこちょこちょと耳打ちをする。

「うむ、まあ出来なくはないか。威力を増すために竜巻スピード…真空で竜巻展ふむ。やってみる価値はある」

二人は頷いてヴィクトルを呼んだ。
——時間は、もうない。
ヴィクトルは駆け寄ってきた。息が上がっている。

レオンハルトは、こちらの様子を見ながら、サンドワームの陽動を行っている。



「聞いてくれる?」

ヴィクトルは荒い呼吸のまま頷いた。

「簡潔に言え。長くは持たん」

真琴は一度だけ深く頷く。

「エアースラッシュ、威力が足りないんじゃない。——“軽い”のよ」

「……何?」

ヴィクトルの眉が寄る。

「風だけだから、貫通力が弱い。中に入っても“削る”だけで終わってる」

リオが横から補足する。

「要するに、質量不足だな」

ヴィクトルの視線がわずかに動く。

「……続けろ」



真琴は足元の砂を指差した。

「ここ、砂だらけでしょ?」

「見れば分かる」

「これ、全部弾にする」

一瞬、沈黙。

「……は?」



「風で巻き上げて——圧縮して——撃ち出す」

「竜巻を“砲身”にするの」

リオが小さく笑う。

「さらに回転を極限まで上げれば、内部は減圧状態——擬似的な真空に近づく」

「吸い込みながら、加速する」



ヴィクトルの目が、変わる。

「……理論上は可能だな」

だがすぐに吐き捨てる。

「だが制御が——」

「出来るでしょ?」

真琴が遮る。

「あなた、研究者でしょ?」



一瞬の沈黙。

そして。

「……チッ」

小さく舌打ち。

だが——口元が、わずかに歪む。

「無茶を言う」

「いつもでしょ?」



遠くで。

「おい!長いぞ!!」

レオンハルトの声。

ワームが再び口を開く。

紫の光が膨れ上がる。



「フィオナ!」

「はい!」

「次、拘束は“外側じゃない”——口の中狙える?」

「……やってみます!」



ヴィクトルが前に出る。

手を掲げる。

「一発だ」

「外したら終わる」



風が——集まる。

だが、今までと違う。

広がらない。

収束する。

圧縮される。



砂が巻き上がる。

一粒ではない。

数千、数万。

「……重いな」

ヴィクトルの腕が軋む。

「当たり前でしょ、それ全部弾なんだから」



「来るぞ!!」

レオンハルトが跳ぶ。

ワームが口を開いた。



「今!!」

フィオナの光鎖が走る。

一直線。

そのまま——口内へ。

一瞬、動きが止まる。



「——遅い」

ヴィクトルが呟く。

風を——さらに圧縮。

竜巻が三つ、同時に立ち上がる。

細く。

鋭く。



「真空……竜巻」

空気が悲鳴を上げる。

吸い込まれる。

砂が、加速する。



レオンハルトが、思わず笑った。

「……エゲツなぁー」

だがその目は逸らさない。

むしろ——

楽しんでいるようですらあった。



「撃て」



三本の竜巻が——収束する。
一点へ、叩き込まれる。
口内へ。



——ドォォォォォン!!!

内部で炸裂。

砂が、爆ぜる。

削るのではない。
——叩き潰す。
貫く。



巨体が跳ね上がる。

内側から破裂。

紫の光が弾ける。



ヴィクトルは、その場に膝をついた。

「……っ、は……」

腕が震えている。

「……二度は無理だな」



リオが小さく笑う。

「一度で十分だろう」



真琴は、崩れ落ちる巨体を見ながら呟いた。

「……ねえリオ」

「なんだ?」

「今のってさ」

一拍。

「風魔法、だよね?」

リオは、ただ笑った。


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