【第6章】 第151話

【第6章】第151話 ゴーレム兵士


黒狼を先頭に、真琴たちは部屋を後にした。

精霊王妃が眠る部屋を出る直前、真琴は一度だけ振り返る。

ガラスの棺の周囲では、無数の精霊たちが静かに舞っていた。

誰一人として騒ぐことはない。

長い時を経て、ようやく母のもとへ帰ってきた子どもたちのようだった。

「必ず戻ってきます。」

その言葉を残し、真琴は歩き出した。

黒狼は迷うことなく、今まで見たことのない通路へと足を向ける。

「え?」

真琴が立ち止まる。

「T字路を左に行くんじゃないの?」

「違う。」

黒狼は首を横へ振った。

「人間たちが向かった左の通路は、奴が造り変えた兵所だ。」

「兵所?」

ヴィクトルが眉をひそめる。

「ゴーレム兵士を保管する場所だ。あの先には、古代遺跡最大の兵器たるゴーレム巨人も眠っている。」

誰も言葉を失った。

もしグレアムたちがそのまま進んでいたら──。

真琴は小さく拳を握る。

今は、エマさん達を信じるのみだ。

「急ぎましょう。」

黒狼は頷く。

「安心しろ。人間たちはまだ生きている。」

その一言に、全員が安堵の息を漏らした。

歩きながらリオが黒狼へ問いかける。

「お前が言っていた、『装置を直した人間』とは何者なんだ?」

黒狼は少し考えるように沈黙した。

「突然、この遺跡へ現れた人間だ。」

「名は?」

「名乗らなかった。」

黒狼は低く続ける。

「だが、自らを錬成術の賢人と呼んでいた。」

その言葉にヴィクトルが足を止める。

「錬成術の……賢人?」

研究者である彼の表情から血の気が引いていく。

そんな称号を、自ら口にする者など聞いたことがない。

黒狼は気付く様子もなく話を続けた。

「奴は最初、この遺跡に眠るゴーレムへ強い興味を示した。」

「ゴーレム?」

「ああ。」

黒狼は静かに頷く。

「魔石に魔素を注ぐだけで命令どおりに動く兵士だ。」

「まさか……。」

ヴィクトルは嫌な予感を覚えた。

「奴は、それを見て歓喜していた。」



エマ達緑水の調べと魔法庁調査隊率いるグレアム。彼らはT字路から真っ直ぐに左側を進んでいた。

突き当たりは、さほど遠くなかった。

数十メートルはあろうかと思われる天井の高さ
その高さに合わせて、鉄の扉で閉じられていた。

大楯のアーノルドと魔法庁調査隊から力自慢の男性がその鉄の扉に手をかける。勿論、扉の先に敵が潜んでいた場合を想定して、斥候以下緊張の面持ちでその扉が開くのを待っていた。

その時、エマさんの耳に通信機からの連絡が入った。
真琴からだ。

「左側突き当たりの扉は開けては行けません。その先にいるのはゴーレム兵士です!」

エマが通信を聞き終えた、その瞬間だった。

重厚な鉄扉が、鈍い地響きとともに最後まで開き切る。

暗闇だったはずの巨大空間に、次々と赤い光が灯った。

一つ。

二つ。

十。

百──。

壁際に整列していた人影の瞳が、一斉に紅く輝く。

「……嘘でしょう。」

エマが息を呑む。

グレアムは剣を抜き放ち、低く叫んだ。

「総員、戦闘態勢!」

直後、無数のゴーレム兵士が一歩、また一歩と前へ踏み出した。

古代遺跡最強の兵器庫が、ついに目を覚ました。



「グレアム、こいつらとまともにやり合う必要は無いわ。扉を閉めて閉じ込めましょう。この先の事は、真琴さん達が情報を掴んだようだから!」

エマの声にグレアムは、頷いた。

「全員聞こえたか?後退し、扉を閉める。扉を閉めたら土魔法で補強するから動けぇぇっ!」

先に向かった人員も皆、一斉に扉へと走ってくる。

ゴーレムの動きはゆっくりだ。防御とその頑丈な体から繰り出す攻撃は、重量系のそれだが、その分素早さはない。

そして、まだ動き出したばかりだったのが功を奏した。

全員が扉まで逃げられたからだ。

「よーし!土属性の魔法使い前へ!」

一斉に扉固定へと魔法を発動する。

扉のみならず、その周りもどんどん固められていく。

中からの轟音もいつしか静かになった。

「これを再び開けるなんて勘弁よね〜」

静かになった鉄の扉は、二重三重の土の塊に蓋をされた。

「とりあえず、真琴さん達に合流したいところだが、まずはアンカーの所まで戻る形か」

「ええ。向こうは、向こうで別行動中だからね」

「アンカーで交代で休みましょう。」

「まあ、あまり気を抜ける状況ではないがな」

土属性の魔法使い達の活躍で難が過ぎたが、お陰でみんな土埃で顔が真っ黒だ。

ほっとした気持ちで、そこかしこで笑みが飛ぶ。

今は束の間の静けさにみんな安心の心を寄せていた。

厚い土壁の向こうは静まり返っている。

それが本当の静寂なのか。

それとも、嵐の前の静けさなのか。

まだ誰にも分からなかった。


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黒狼を先頭に、真琴たちは部屋を後にした。

精霊王妃が眠る部屋を出る直前、真琴は一度だけ振り返る。

ガラスの棺の周囲では、無数の精霊たちが静かに舞っていた。

誰一人として騒ぐことはない。

長い時を経て、ようやく母のもとへ帰ってきた子どもたちのようだった。

「必ず戻ってきます。」

その言葉を残し、真琴は歩き出した。

黒狼は迷うことなく、今まで見たことのない通路へと足を向ける。

「え?」

真琴が立ち止まる。

「T字路を左に行くんじゃないの?」

「違う。」

黒狼は首を横へ振った。

「人間たちが向かった左の通路は、奴が造り変えた兵所だ。」

「兵所?」

ヴィクトルが眉をひそめる。

「ゴーレム兵士を保管する場所だ。あの先には、古代遺跡最大の兵器たるゴーレム巨人も眠っている。」

誰も言葉を失った。

もしグレアムたちがそのまま進んでいたら──。

真琴は小さく拳を握る。

今は、エマさん達を信じるのみだ。

「急ぎましょう。」

黒狼は頷く。

「安心しろ。人間たちはまだ生きている。」

その一言に、全員が安堵の息を漏らした。

歩きながらリオが黒狼へ問いかける。

「お前が言っていた、『装置を直した人間』とは何者なんだ?」

黒狼は少し考えるように沈黙した。

「突然、この遺跡へ現れた人間だ。」

「名は?」

「名乗らなかった。」

黒狼は低く続ける。

「だが、自らを錬成術の賢人と呼んでいた。」

その言葉にヴィクトルが足を止める。

「錬成術の……賢人?」

研究者である彼の表情から血の気が引いていく。

そんな称号を、自ら口にする者など聞いたことがない。

黒狼は気付く様子もなく話を続けた。

「奴は最初、この遺跡に眠るゴーレムへ強い興味を示した。」

「ゴーレム?」

「ああ。」

黒狼は静かに頷く。

「魔石に魔素を注ぐだけで命令どおりに動く兵士だ。」

「まさか……。」

ヴィクトルは嫌な予感を覚えた。

「奴は、それを見て歓喜していた。」



エマ達緑水の調べと魔法庁調査隊率いるグレアム。彼らはT字路から真っ直ぐに左側を進んでいた。

突き当たりは、さほど遠くなかった。

数十メートルはあろうかと思われる天井の高さ
その高さに合わせて、鉄の扉で閉じられていた。

大楯のアーノルドと魔法庁調査隊から力自慢の男性がその鉄の扉に手をかける。勿論、扉の先に敵が潜んでいた場合を想定して、斥候以下緊張の面持ちでその扉が開くのを待っていた。

その時、エマさんの耳に通信機からの連絡が入った。
真琴からだ。

「左側突き当たりの扉は開けては行けません。その先にいるのはゴーレム兵士です!」

エマが通信を聞き終えた、その瞬間だった。

重厚な鉄扉が、鈍い地響きとともに最後まで開き切る。

暗闇だったはずの巨大空間に、次々と赤い光が灯った。

一つ。

二つ。

十。

百──。

壁際に整列していた人影の瞳が、一斉に紅く輝く。

「……嘘でしょう。」

エマが息を呑む。

グレアムは剣を抜き放ち、低く叫んだ。

「総員、戦闘態勢!」

直後、無数のゴーレム兵士が一歩、また一歩と前へ踏み出した。

古代遺跡最強の兵器庫が、ついに目を覚ました。



「グレアム、こいつらとまともにやり合う必要は無いわ。扉を閉めて閉じ込めましょう。この先の事は、真琴さん達が情報を掴んだようだから!」

エマの声にグレアムは、頷いた。

「全員聞こえたか?後退し、扉を閉める。扉を閉めたら土魔法で補強するから動けぇぇっ!」

先に向かった人員も皆、一斉に扉へと走ってくる。

ゴーレムの動きはゆっくりだ。防御とその頑丈な体から繰り出す攻撃は、重量系のそれだが、その分素早さはない。

そして、まだ動き出したばかりだったのが功を奏した。

全員が扉まで逃げられたからだ。

「よーし!土属性の魔法使い前へ!」

一斉に扉固定へと魔法を発動する。

扉のみならず、その周りもどんどん固められていく。

中からの轟音もいつしか静かになった。

「これを再び開けるなんて勘弁よね〜」

静かになった鉄の扉は、二重三重の土の塊に蓋をされた。

「とりあえず、真琴さん達に合流したいところだが、まずはアンカーの所まで戻る形か」

「ええ。向こうは、向こうで別行動中だからね」

「アンカーで交代で休みましょう。」

「まあ、あまり気を抜ける状況ではないがな」

土属性の魔法使い達の活躍で難が過ぎたが、お陰でみんな土埃で顔が真っ黒だ。

ほっとした気持ちで、そこかしこで笑みが飛ぶ。

今は束の間の静けさにみんな安心の心を寄せていた。

厚い土壁の向こうは静まり返っている。

それが本当の静寂なのか。

それとも、嵐の前の静けさなのか。

まだ誰にも分からなかった。


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