【外伝】 エマの愛とは?①
【外伝】エマの愛とは?①
エマ・スコットは、スコット男爵家の次女だった。
男爵家とは、名ばかりの貧乏貴族。
母は、常に貧乏を嘆くプライドばかりの女だったし、
父は、下手な領地経営で失敗し、平民落ちも時間の問題かと思われていた。
そんな中でも兄妹仲は良かった。
長女は母の代わりに弟や妹の面倒をよく見てくれた。
そんな姉がいたから、エマも兄もなんとかやってこられた。
やがて兄が国の奨学金を得てアカデミーへ進学する。
その頃には、家の借金はさらに膨らんでいた。
そして長女は――。
辺境に住む、親ほども歳の離れた貴族へ嫁がされることになった。
持参金目当ての結婚。
両親は歓喜した。
姉の人生と引き換えに得た金で、借金が返せると。
そしてエマは家出を決意した。
⸻
紆余曲折とは良く言ったもので、
スコット家も祖父母が生きていた頃は、まだ余裕のある貴族だった。
祖父は農地経営に明るく、領地は潤い、特産品は王都でよく売れた。
祖母は魔力こそ高くはなかったが、四元素魔法に秀でており、
エマたち兄妹の魔法の師匠でもあった。
兄が奨学金を得てアカデミーへ行くことができたのも、祖母の功績が大きい。
エマは土と木の魔法に秀で、十歳を過ぎる頃には、祖父の手伝いで畑の間を走り回っていた。
そんな順調な生活に影が落ちたのは、祖父の死に他ならない。
祖父の背中を見て育ったはずの父は農地に興味を示さず、
街の怪しい仕事にばかり手を出すようになった。
その結果、男爵家が傾いたのは必然だった。
エマがどれほど農地で頑張っても、肥料代すら投資に消えていく。
挙句には、祖母の持病の薬代すらケチり、倒れた時には手遅れだった。
だから、家出は今思い返しても必然だったと思う。
その後?
まあ、色々あった。
詳しく話すと長いので省略する(笑)
⸻
「エマー、オーソローから一番搾りエールが入荷したらしいぞ!」
若者の声が響く。
「踊るぶち馬亭に⁈ じゃ、今夜は外せないわね〜」
エマは笑いながら手を振る。
周囲の冒険者たちが一斉にどっと笑った。
王都冒険者ギルド。
その中でも名の知れたS級冒険者となったエマは、今日も変わらず酒の話で騒がれていた。
王都の夜は賑わいを増す。
ここ、踊るぶち馬亭は、安価で美味しい食事と酒で評判の店だ。
「さあ、うまい酒と美味しい食事と、緑水の調べ無事帰還にカンパ〜イ‼︎」
エマのコールに、店中が一斉に杯を掲げる。
その光景は、もはやいつもの風景だった。
「で、今回の依頼はどんな武勇伝だよ?」
店のあちこちから声が飛ぶ。
盾の大男、パーティーメンバーのアーノルドが足をダンッと鳴らす。
重い音が店に響き、空気が一段引き締まる。
「今回はな、森の奥の洞窟討伐だ」
「おー、最近ゴブリンの巣が出たとこじゃねぇか?」
野次が飛ぶ。
S級冒険者パーティーにしては地味だという笑い混じりの声もある。
アーノルドがもう一度足を鳴らすと、埃が舞い上がり、
魔法師のエンヤが「やめろってば!」と怒鳴った。
エマはエールを片手に、呆れたように笑っている。
「普通のゴブリンは切っては投げ〜って感じで終わったんだけどね」
「だがな」
アーノルドがニヤリと笑う。
「奥にいたんだよ、ゴブリンキングが」
「本当かよ!」
「ギルドに首、ちゃんと提出してるから見てこいっての!」
一気に店が沸いた。
おおーっと歓声が上がる。
こうしてまた一つ、S級冒険者パーティーの“武勇伝”が塗り替えられていく。
だがその熱狂の中で――
まだエマをよく知らない新入りの冒険者が、ぽつりと口を開いた。
「なぁ、エマさんってさ……」
一瞬、少しだけ空気が変わる。
「一番ヤバかった失敗談とか、あったりする?」
その問いに、笑い声が少しだけ静まった。
「意地悪な男ね」問いをしてきた男に苦笑いを向けた。
「そうね……一番って言うなら」
エマは少しだけグラスを揺らした。
「B級昇格がかかってた、あの依頼かな」
⸻
あれは、まだ『緑水の調べ』になる前の話。
がむしゃらに冒険者ギルドの依頼をこなし、
独り立ち目指して、めーいっぱいだった気がする。
認められたいなんて、見栄っ張りやん!って今にして考えればわかる事。
C級冒険者として、まだパーティーは組んでなくて
依頼があれば組んでって感じで頑張った。
私自身が他人を信じきれなかったのがパーティーを組めなかった理由があるのかな。
大剣をメイン武器に魔法も使えるバイターだから
他の冒険者パーティーからも重宝がられていた。
森や辺境で魔物出現の話が増えてきた頃
ちらほらと大暴走(スタンビート)な噂が囁かれ始めていた。
ダンジョンや遺跡で長い事一定のモンスターが出現する時期を経て、そこから大暴走(スタンビート)が起こる。
私は、まだその恐ろしさは理解していなかった。
ギルドの掲示板には、すでに赤札が貼られていた。
【森奥域・魔物群生確認依頼(暫定)】
討伐ではない。
ただの“確認”。故にC級以上で個人も可。
冒険者ギルドの依頼は、大狼軍の確認だった。
討伐ではない。確認できれば、ギルドに戻って来て、高位パーティーに依頼し直す。が、冒険者ギルドの意向だったのだ。
この頃に大盾のアーノルドと魔法師のエンヤとは、顔見知りでこの依頼を共に受けた。個人で固定の依頼料だったから。
森の奥域、ここまで静かだった。
最近の魔物域を考えれば異常なほどに。
「おかしくない?いなさ過ぎるよ」
「おそらく、危険には近寄らずって空気が蔓延してるのでしょう」
エンヤも同様に感じていたのか同意してくれた。
アーノルドは、盾をしっかりと持ち直した。
ここからは、敵の本拠地。どこから来てもおかしくはない。
「改めて、依頼は確認!だからね」
エマが言うとみんな頷いた。
⸻
敵は、待ち構えていた。が正しい。
人間は、魔物に対して弱い。
弱いから武器を持つ。
――グルルル…
唸り声を上げ、数の暴力は人間を震え上がらせる。
「あちゃー敵さん気がついてるし、襲う気満々だし?」
エマのどこか楽観した声
「相手は、大狼じゃないな。フェンリルにまでは進化してないか?」
だがそれは、C級冒険者にはまだ荷の重い討伐になった。
戦いに慣れた狼は、群れの使い方が上手い。
「左!」
エンヤの叫び。
エマは反射的に飛ぶ。
直後、
ガキン!
鋭い牙が大剣に食い込んだ。
「速っ!」
普通の狼じゃない。
群れの連携が完成している。
一匹が正面。
二匹が側面。
さらに後方で待機。
完全に狩りの陣形だった。
「エマ!戻れ!」
アーノルドの声。
だがエマは前へ出た。
若かった。
自分ならやれると思った。
いや――
自分しかやれないと思っていた。
土魔法を発動。
地面が盛り上がる。
狼の足を取る。
続けて木魔法。
根が飛び出し一匹を拘束した。
「やれる!」
そう思った瞬間だった。
森の奥から、
さらに唸り声が響いた。
グルルルルル……
一本。
二本。
三本。
赤い眼が闇の中に灯る。
そして、
十。
二十。
三十。
エマの顔から血の気が引いた。
「……嘘でしょ」
確認依頼。
だからこそ気付いた。
ギルドが恐れていたもの。
群れの発生ではない。
群れ同士の合流だ。
大狼軍(スタンビート)。
その前兆。
「撤退だ!」
アーノルドが叫ぶ。
だが遅かった。
狼たちは、
最初から彼らを逃がす気などなかった。
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