【第7章】 第159話

【第7章】 第159話 ドワーフ族の底力

リオは、王都のドワーフ族が営む道具店をお気に入りにしている。

自身がアイデアや仕組みをといて製作を頼む事もあるし、
マジックボックスなどはこの部類。

真琴のアイデアから量産を頼む事もある。
魔石ペンや無限付箋紙などはこの部類。

だが、本当の骨頂は、建築物だったりする。

王都もほぼ都市計画が進み、大きな建物依頼はほぼ無かった。

冒険者が発達して、武器や防具類の製作はそれはそれで楽しいのではあるが、たまに無性にデカいものを作りたい衝動も訪れる。

「暇だなぁ……」店頭で項垂れるドワーフ店長。

ここ数日は、リオ坊も新ダンジョンへ調査だとかで音沙汰がない。そろそろ戻ってくる頃合いだとは思うのだが

そんな頃合いに、外から慌てた声が飛び込んできた。

「火事だー」」「魔人の攻撃だー」「王都は攻撃されるのかー」などなど

慌てて、ドワーフ店長もその声に導かれるまま外に飛び出した。

一目で分かった。
王宮の方角の空が、真っ赤に燃え上がっていたのだ。



ドワーフ店長からは、少し視線がズレる。
王宮が火事ならば、もっと高台にまで火の手が登る。

あの方角は、リオ坊や真琴嬢ちゃんが住んでいる館の方じゃないか?

なりふり構わず、ドワーフ店長は走り出した。

同じように思った人もいたのか、走りながら

ダークエルフのアリアや極悪片目グリズリー店長も
シュバルツ邸に向かう。

冒険者ギルドもギルド長をはじめ、緑水の調べメンバーから彼らに世話になった冒険者たち、街の人々も勿論だ。

シュバルツ邸へ駆け付けた者たちは、すぐさま消火と救出に散っていく。

その頭上では、炎を背に高笑いする魔人の姿。

空の赤、高笑いした魔人の姿、冒険者の猛者がそれに怯むわけもなく攻撃に転じた。

エマさんも勿論黙っているわけがない。緑水の調べメンバーと合流し、件の敵である『ルクレツィア』へ向けて一斉に攻撃したのである。

ルクレツィアは、炎に包まれる館を背に、喉が裂けんばかりに笑った。

「アーッハッハッハッ!! 燃えろ、燃えろ! これぞ絶望! これぞ恐怖よ!」

両手を大きく広げ、悲鳴に包まれる王都を見下ろえる。

人間とは愚かなものだ。

家が燃えれば泣き叫び、魔人を見れば震え、命惜しさに逃げ惑う。

その様を眺めるのが、何より愉快だった。

……そのはずだった。

「撃てぇぇぇ!!」

「囲め!」

「逃がすな!!」

「お前が犯人かぁぁぁ!!」

四方八方から怒号が飛ぶ。

魔法が唸り、矢が空を裂き、斧や槍を構えた冒険者たちが、一斉にルクレツィアへと殺到した。

「……は?」

予想していた悲鳴ではない。

怒声だった。

しかも一人や二人ではない。

冒険者ギルドの精鋭、緑水の調べ、街の腕利きたち、さらには道具屋や商人まで武器を手に集まってくる。

「ちょっ……な、何なのよ、この人数!」

魔法が頬をかすめる。

「ひっ!」

反射的に身を捻る。

さらに矢が飛び、剣閃が空を裂いた。

「ち、違う違う違う! こんな話じゃなかったでしょ!?」

炎で混乱する人間を嘲笑い、悠々と去る。

その程度の余興のはずだった。

なのに――

「殺せぇぇぇ!!」

「シュバルツ邸の借りを返せ!」

「覚悟しろ、魔人!!」

「いぃぃぃやぁぁぁっ!」

ルクレツィアは悲鳴にも似た声を上げると、翼をばたつかせて一目散に逃げ出した。

先ほどまでの高笑いなど、どこへやら。

後ろからは容赦なく魔法と矢が降り注ぎ、そのたびに「ひぃっ!」「やめっ!」「痛っ!」と情けない声を漏らしながら、文字どおり這う這うの体で王都の空から逃げ去っていった。



「避難する先は、あるのかい?」

冒険者ギルド長のエンヤはエマに聞いた。

「グレアムが、使われてない王宮の離宮を借りたからって連絡きたの」

「じゃまずは、避難した荷物はそっちに片付けだなぁ」
シュバルツ邸から救出された書類から本、家具やメイドたちと
まだショックも治らないだろうに、次の行動にと動き出している。

「怪我人や怪我がなくても心は疲れてるんだ。少しは休んでろ〜」っと街の人々の掛け声にシュバルツ邸の人々も笑いの声が漏れ、瓦礫とかしたシュバルツ邸がそれこそ、灰と炭くらいしか残らない姿となったのである。



「…空いている離宮って、前皇后コレット様の皇后宮じゃないか?」

現在の皇后は、別におり、その方の皇后宮は別にある。
だから、離宮の名前も前皇后宮ではなく「白薔薇離宮」と呼ばれる。

「そりゃあ、使ってなかったって言われればその通りだし、現皇后も持て余していた離宮だからな。」

前皇后コレット様と現在の皇后の仲は悪くはなかった。
いや、本妻と側室という間柄を思えば、仲が良すぎたくらいだ。

だが、その仲も今は誰も噂しない。

前皇后が毒殺によりこの世を身罷れ、その事件は未だアンタッチャブルな事件とされているからだ。

そして、さらにそんな事件のせいもあり、この白薔薇離宮は別名が『白銀の幽霊屋敷』とも呼ばれる。
手入れの行き届いていた薔薇園も昔の話。
白薔薇離宮と呼ばれていた名残の城壁と彫刻が白銀と呼ばれる。

白銀の幽霊屋敷――。
王都でその名を聞けば、子どもでも顔をしかめる場所である。

幽霊屋敷騒動…王様が案に解決しろって事だろうな。

だから、エマさんに

「グレアム貴方、王様に嫌われてるんじゃないの?」とまで心配される始末だ。

重苦しい空気が流れる中、不意にドワーフ店長が腕を組み、大きく息を吸った。

「……湿気た顔してんじゃねぇ。」

その低く太い声に、その場の視線が集まる。

「家なんざ、燃えりゃまた建てりゃいい。」

そう言うと、瓦礫となったシュバルツ邸をぐるりと見渡し、口元を豪快に吊り上げた。

「これだけの屋敷だ。腕が鳴るじゃねぇか。」

目には、職人だけが持つ熱が宿っている。

「リオ坊も真琴嬢ちゃんも、今までどれだけ俺たちドワーフ族に面白ぇ仕事を持ってきてくれたと思ってる。」

魔石ペン。

無限付箋紙。

マジックボックス。

どれも王都の暮らしを変えた発明だった。

「今度は俺たちの番だ。」

ドワーフ店長は胸を力強く叩く。
ドワーフ店長は、瓦礫となったシュバルツ邸を見渡し、ニヤリと笑った。

「シュバルツ邸の再建は、この俺たちドワーフ族に任せろ!」

「「「おうっ!!」」」

「今度は火にももっと強くしてやる!」

「地下倉庫も広げようぜ!」

「隠し工房も欲しいな!」

好き勝手な声が飛び交う。

ドワーフ店長は腕を組み、大きく頷いた。

「もちろん、リオ坊や真琴嬢ちゃんには内緒だ。」

「「へっ?」」

「完成した時にゃ、腰を抜かすくらい驚かせてやる。」

職人たちの顔に、いたずらを思いついた子どものような笑みが浮かぶ。

「仕掛けは、そこかしこにだ。」

「おっ、それいいな!」

「使い勝手も遊び心も、全部盛りだ!」

「ドワーフ族の底力ってやつを見せてやろうじゃねぇか!」

焼け落ちた屋敷を前にしているというのに、いつしかその場には図面を描き始める者、寸法を測り始める者まで現れた。

悲しみを乗り越える一番の方法を、彼ら職人は知っている。

――もっと、とびきりのものを作ることだった。

ーーーーーーーーーー
ここまで読んでいただきありがとうございます。
少しでも続きが気になったら、スキやフォローで応援してもらえると嬉しいです!

前の話
次の話
→【第7章】まとめページ(制作中)
【第6章】まとめページ
【第5章】まとめページ
【第4章】まとめページ
【第3章】まとめページ
【第2章】まとめページ
【第1章】まとめページ

いいなと思ったら応援しよう!