【第5章】 第110話
【第5章】第110話 聖女への礼
王都から少々離れた街道を馬車が猛スピードで走っていた。
「たくっ!しっつけーんだよ!」
御者は、レオンハルト。
そして、原因は第一王子直属の近衛騎士団が追っているから。
街道も王都を抜ければ、土、砂利を整地しただけ
相手は、一人一人走りに長けた馬を乗って迫ってくる。
馬車の車輪は木製。車のようなゴムのタイヤもショックを和らげるスプリングもない。
猛スピードで走る馬車の中は、舌を噛まないように捕まって耐えるだけ。
(何かこのピンチを越える方法は?)
真琴の頭の中は急ピッチで回転しだす。
「私に御者は出来ない?」
馬車の中でフィオナとアリアに尋ねる
「いきなり今の状況では危険すぎるわ」
とフィオナが言えば、
「まだ、私が手綱を握る方がマシよ」
アリアが答えた。
「じゃ変わって!蜘蛛ちゃんズ出番よ。追手を御者交換の時間稼いで」頭の上でスー隊長他敬礼して、外に出た。
街道が森の道に入り、両側が木々に変わった瞬間
蜘蛛ちゃんズが飛んだ。
全員が一瞬で強固な蜘蛛の巣幕を張る。
「レオンハルト!アリアと御者交換!」
「はあ?お前何を…」って
説明を聞くよりも早く、アリアに馬車内に放り込まれ
御者を交換された。アリアさん強い!
「蜘蛛ちゃんズ戻って!」
レオンハルトに短時間でやって欲しい事を説明する。
「走ってる馬車の上からだから難しいと思うけど、
相手を倒すんじゃないから威力はいらない。
馬が走行不能になるショックが欲しいだけよ」
「わかった!任せろ」
レオンハルトは、走る馬車の上に乗った。
「バランス感覚凄いわねぇ」
真琴は感心する。
「うん。レオンは、昔から誰よりも足腰強かったから」
フィオナがそう補足した。
レオンハルトが剣を構える。
グレアムから託された雷剣だ。
バチバチと雷鳴の性質を確認した。
魔法ログでステータスの確認。
レオンハルトが剣を構える。
グレアムから託された雷剣だ。
バチバチと雷鳴の性質を確認した。
魔法ログでステータスの確認。
――――――――――
【雷剣・ヴォルトエッジ】
属性:雷
状態:正常
出力制限:72%
蓄積魔力:58%
付与効果
・感電
・麻痺
・衝撃拡散
特記事項
『雷撃は対象を貫通後、周辺へ拡散』
『高出力時、周辺への被害増大』
――――――――――
(周辺へ拡散……か)
レオンハルトは後方を振り返った。
近衛騎士達が森の道を駆けてくる。
数は多い。
だが、真琴の言う通り倒す必要はない。
馬を止めればいい。
「なら――」
雷剣を横へ構える。
魔力を流し込む。
通常なら敵を斬るために収束させる雷。
だが今回は違う。
拡散。
衝撃。
それだけを利用する。
「おおっ!?」
馬車の屋根の上から見ていた真琴が声を上げた。
雷剣の周囲に集まった電光が刃へ集中せず、薄く広がっていく。
「器用ねぇ」
アリアが感心したように呟く。
「剣士って普通ああいう使い方しないんだけど」
「レオンだから」
フィオナは苦笑した。
昔からだ。
力押しよりも、どう使えば一番効果的かを考える。
それがレオンハルトだった。
「行くぞ!!」
雷剣が振り下ろされた。
轟音。
だが放たれたのは雷撃ではない。
地面の直前で炸裂した雷の衝撃波。
ドォン!!
街道の土と砂利が吹き飛ぶ。
追走していた先頭の馬が大きく前脚を浮かせた。
ヒヒィィィン!!
驚いた馬が急停止。
後続の騎士達が慌てて手綱を引く。
隊列が一気に乱れた。
「よしっ!」
真琴が拳を握る。
だが次の瞬間。
先頭集団の後ろから、一頭だけ隊列を離れて加速する影があった。
「げっ」
真琴の顔が引きつる。
「あれ隊長格じゃない?」
銀の鎧。
赤いマント。
そして尋常ではない速度。
近衛騎士達の中でも明らかに格が違う。
レオンハルトも気付いた。
「……チッ」
雷剣を握り直す。
どうやら足止めだけでは終わらせてくれないらしい。
「あら?彼は……」
フィオナが目を細めた。
「アリア、馬車を止めて」
急な指示だった。
だがアリアは迷わず手綱を引く。
馬車が停止すると同時に、フィオナは飛び降りた。
銀の鎧。
赤いマント。
迫ってきた騎士も馬を止める。
「貴方、近衛騎士団だったのですね?」
男は警戒するようにフィオナを見た。
だが次の瞬間、その顔が凍り付く。
「せ、聖女様!?」
「それは昔の話です」
フィオナは静かに首を振った。
「今は神殿を辞めていますので」
「いや……確かにそのような噂は……」
男は言葉を失う。
フィオナは一歩前へ出た。
「私たちはこの先へ向かわなければなりません」
真っ直ぐ男を見据える。
「それでも捕縛しますか?」
団長の拳が強く握られた。
王子の命令。
近衛騎士としての責務。
だが目の前にいるのは――
かつて何度も仲間の命を救った聖女。
「それは……」
団長が苦しげに呟く。
「命令が……」
「ならば」
フィオナの声は静かだった。
だが誰よりも強かった。
「私は命を賭けて抵抗しましょう」
「ちょっ、フィオナ!?」
真琴が慌てる。
しかしフィオナは片手を上げて制した。
そして改めて問いかける。
「行かせてくださいますね?」
沈黙。
風だけが森を抜けていく。
やがて団長は目を閉じた。
そして深く息を吐く。
「……行ってください」
その言葉に全員が目を見開いた。
「団長!?」
後続の騎士達から驚きの声が上がる。
だが団長は振り返らない。
「近衛騎士団は私が留めます」
フィオナは静かに微笑んだ。
そして。
正式な聖女の礼を捧げる。
団長もまた騎士の礼を返した。
それ以上の言葉はなかった。
馬車が再び走り出す。
土煙を上げながら遠ざかる背中を、団長は黙って見送った。
しばらくして部下の一人が近づく。
「団長……よろしいのですか?」
団長は去っていく馬車を見つめたまま答えた。
「私は命令に背いたのかもしれん」
部下が息を呑む。
だが団長は続けた。
「だが、あの方は我らが敬意を払うべき人だ」
静かな声だった。
だからこそ重い。
「魔獣制圧の折、どれほどの仲間が救われたと思う」
誰も答えない。
「逃げる貴族を守り、命を懸けて戦う我らの隣で、あの方は最後まで祈り続けてくださった」
団長は拳を握った。
「どのような王子の命令であろうと、騎士道を捨てるつもりはない」
そして小さく呟く。
「聖女への礼を欠くことなど、私には出来ん」
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