【第4章】 第98話

【第4章】 第98話 誰が誰の保護者だ


クラリスは、真琴の手元から魔石ペンをそっと取り上げた。

「今はそれ、やめて。寝なさい」

真琴が小さく抗議しようとするより先に、クラリスは淡々と続ける。

「これは私が見ておくから。今のあなたが触ると、ろくでもない方向に進むでしょう?」

「ろくでもないって……」

真琴がむくれる。

その瞬間、魔石ペンが小さく反応した。

――ピコン。

「自動修正モードに入ります」

「え?」

クラリスと真琴が同時に固まる。

ペンの表面に、淡い光のラインが走り出す。

ピココココ……

内部構造が勝手に組み替わっていくような、異様な反応だった。

クラリスが目を細める。

「……何それ」

真琴は慌てて言い訳する。

「攻撃モードはまだやってないよ!」

「まだって何!?」

クラリスが即座に突っ込む。

次の瞬間、クラリスは真琴の額を軽く小突いた。

「ペンは攻撃しません!」

ぺち、と軽い音。

そのまま魔石ペンを完全に回収する。

「はい、終了」

真琴は抗議しかけたが、言葉にならなかった。

そのままクラリスに押されるように、ベッドへ倒される。

「普通にしてればいいのに……」

「普通ってなに……」

「寝ること」

即答だった。

真琴はしばらく不満そうにしていたが、布団の感触に包まれると、抵抗する気力が抜けていく。

「……ちょっとだけ」

「だめ」

「一分だけ」

「だめ」

即・却下。

そのやりとりのまま、真琴の目がゆっくりと閉じていく。

思った以上に、身体は限界だったらしい。

呼吸が整い、数分もしないうちに、静かな寝息が落ちた。

クラリスはそれを確認してから、そっとカーテンを引く。

部屋の光が少しだけ柔らかくなる。

「……ほんとに、厄介なもの作ってるわね」

小さく呟いて、クラリスは部屋を後にした。

扉が静かに閉まる。



ルナミナが廊下にいた。

リオが歩いてくる。

「ちょっといい?」

ルナミナが話したいとリオを呼んだ。

ルナミナが案内した部屋には、セラフィナもいた。

「ちょっとかけてくれる?」

話が長くなるからという事らしい。

「僕で相談になるかなぁ?」

リオが軽く言葉をつなぐ。

セラフィナは、何を今更というふうに眉を寄せた。

「黒曜城は、私たちが生まれてたからずっと
生活してきた城なのよ」

「私もね」ルナミナも言う。

「だからこそ、その異物感は速攻でわかるわ」

「つまり、城に入った時点で僕の存在が君たちの神経に触ったって言いたいのかな?」

リオが挑発するように言う。

ルナミナは首を振った。

「違う」

即答だった。

「嫌いとか、敵とか、そういう話じゃないの」

セラフィナも静かに続ける。

「黒曜城は、認識したし、震えてお父様にも完全に味方しなかったわ。城にとっては敵ではない。というか敵にしないってかんじだった」

「へえ」

「でも、完全に味方でもない」

リオの口元から笑みが消えた。

セラフィナは感情を交えず言う。

「少なくとも城は、あなたをそう認識している」

部屋の空気が少しだけ重くなる。

「黒曜城は生きているわ」

ルナミナがぽつりと言った。

「私たちはずっとここで育ったから分かるの」

「機嫌もあるし、癖もある」

「たまに拗ねるし」

「それはルナミナだけじゃない?」

「うるさい」

軽いやり取りのあと、再び空気が静まる。

ルナミナは真面目な顔になった。

「でもね、城が警戒する時は分かるの」

「侵入者とも違う」

「敵意とも違う」

「もっと変な感じ」

セラフィナが言葉を引き継ぐ。

「例えるなら、存在そのものが城の外側にあるもの」

「本来この世界の枠組みに収まっていない何か」

リオは黙った。

「だから気になったの」

ルナミナがまっすぐリオを見る。

「あなた、何者なの?」

「お父様とも違う」

「真琴とも違う」

「でも、どこか似てる」

「なのに決定的に違う」

セラフィナが小さく目を細めた。

「だから確認したかったのよ」

「あなたが何を望んでいるのかを」

「敵になるつもりがないなら、それで構わない」

「けれど――」

ルナミナが続ける。

「けれど?いやそれは僕の方こそ言うセリフだね。
真琴は、僕がこの世界に呼んだ人間だ。
関わるのまでは許してきたけど、利用するのは許さないよ?」

部屋の空気が一段下がった気がした。

「私たちは……こっちの世界に住を移す。
真琴はその足がかりよ。
これからの魔族側との交渉にも、私やルナミナが役に立つと思う」

セラフィナが静かに言う。

「真琴は……真琴は私たちの罪を知っても拒絶しない。
魔人と知っても受け入れる度量がある。
あるから、いたいの。ここにみんなと」

ルナミナがもじもじしながら言った。

「それと僕がどう関係するのかな?」

リオが腕を組み、圧をかける。

「だって、真琴の保護者でしょ?」

「はあああ?それ、真琴に聞いてみろよ。話はそれからだ」

リオは机を叩いて立ち上がった。

「勝手に決めるな」

短く言い残して部屋を出る。

扉が閉まる。

しばらく沈黙。

「……怒った?」

ルナミナが恐る恐る言う。

「怒ったわね」

セラフィナも珍しく困惑していた。

「でも何故?」

「保護者だったからじゃない?」

「保護者だったから怒る理由が分からない」

「私も分からない」

二人は顔を見合わせた。



それから、真琴の部屋へと移動した。

事情を聞き終えた真琴が数秒固まる。

「……」

「……」

「……誰が誰の保護者じゃあああああ!!」

ベッドの上から飛び起きた。

「リオ呼べ!」

「今すぐ呼べ!」

ルナミナとセラフィナが慌てる。

「えっ」

「何で!?」



数分後。

再び呼び出されたリオは、見るからに不機嫌だった。

「今度は何?」

完全に面倒臭そうである。

そして二人から事情説明を受けた。

数秒の沈黙。

「……」

「……」

真琴とリオが同時に顔をしかめた。

「なんでそこで保護者になるんだよ!」

「意味が分からん!」

「だから言っただろ」

「いや本当に意味が分からん!」

完全に意見が一致していた。

ルナミナとセラフィナが揃って後ずさる。

「いや、私たちは……」

「断定したわけじゃなくて……」

「そういうポジションかなって……」

「だからなんでだよ!」

二人は顔を見合わせた。

どうやら本気で怒る理由が分からないらしい。

言えば言うほど、真琴のボルテージは上がっていく。

「保護者って何なの!」

真琴が叫ぶ。

「誰がだ!」

リオが即座に返す。

「どっちが面倒見てると思ってるの!」

「知らん!」

「そこは知っとけ!」

もはや感情の収拾がつかない。



騒ぎを聞きつけたクラリスが部屋を覗き込む。

「……何やってるの?」

事情を聞いたクラリスは数秒黙った。

そして廊下へ顔を向ける。

「フィオナ」

「はい?」

呼ばれたフィオナが顔を出す。

クラリスは短く告げた。

「怪獣聖女召喚。全員回収」

こういう時のクラリスは、兄とそっくりだった。

「えっ」

「今すぐ」

「えっ?」

セラフィナとルナミナが固まる。

真琴はまだ叫んでいた。

「だから保護者じゃないって言ってんだろー!」

リオは頭を抱えている。

クラリスは静かに額を押さえた。

「寝かせた意味がない……」


ーーーーーーーーーー
ここまで読んでいただきありがとうございます。
少しでも続きが気になったら、スキやフォローで応援してもらえると嬉しいです!

前の話
次の話
【第4章】まとめページ
【第3章】まとめページ
【第2章】まとめページ
【第1章】まとめページ

いいなと思ったら応援しよう!