【第6章】 第137話
【第6章】第137話 見えない侵食
伝書鳩が再びグレアムの元に飛んできた。
「ヴィクトルからかい?」
マシューの問いにグレアムは答えた。
「ああ、どうやらエマ達とも合流して、先を進むらしい」
「そう言えば、知ってかい?」
マシューがグレアムに聞いた。
「緑水の調べに新しく若手が2人も加入したらしいよ」
「何で、私よりもお前が情報持ってるんだよ!」
「ふふん、エマさんから聞いてないんだ?」
「揶揄うなよ!ちゃんと夫婦としてのコミュニケーションは取ってるからな!」
「顔赤くしちゃって、ウブだねぇ」
「お前こそだなぁー」と言った所でグレアムが口を止めた。
「どうした?」マシューが訝しむ。
「斥候を呼んでくれ」
あゝ、と言って隊列から斥候を呼ぶ。
「何でしょうか?」
「あれを見よ。」
グレアムが指差した先、
街道から離れた所で草むらが揺れた。
全てを言わずともわかるのだろう
「確認して参ります」
「キマイラだったら、爆発の恐れもあるから距離に気をつけてな」
かしこまりましたっと走って消えた。隠蔽の魔法も使えるらしい。
「ちゃんと魔法師育ててるのな」
斥候は、魔法庁の職員だ。
「当たり前だ。魔法庁だぞ。アカデミー上がりでおしまいじゃないんだ。」
時間を経て、煙が上がった。先ほどの斥候が戻ってくる。
「捕獲は無理でした。生体は、猿でした」
「ヴィクトル達の方は、スリープの魔法で魔石のみ回収してるとあった。だが、こちらでは保管方法が手詰まりだな。」
荷物にある保管瓶も数に限りがある。
「回収は、向こうに任せよう。我々は調査、探索、仮説の徹底だ」
マシューが改めて、隊列に号令をかける。
「全く、人使いが荒いよ。」
「筆頭技術顧問様の得意は探査だろう? 斥候と組ませれば右に出る者はいないのだから。」
グレアムは肩をすくめた。
「だからって先頭ばかり歩かされる身にもなれ。」
「国一番の探査魔法使いですからね。」
グレアムの魔法は、風魔法使い。それと空間把握である。
風魔法は、今ではヴィクトルの方が威力は上であるが、探査や調査系に関しては、国でも右に出るものはいない。
ついでに、マシューだが
彼は、魔法庁長官である。若手育成に力を注ぐ研究肌だが、
以外と炎の魔法使い手で実家が武闘派で知られる家門だったりする。だので、下手な剣士よりは強い。強いったら強いのだ。
「しかし…」
マシューが眉間に皺を寄せた。
「やはり、お前も思うか?」
「ああ、猿になったか?」
「ここ数日でこの進化だ。次は、人間が襲われよう」
マシューもグレアムもそう考えて
人間のキマイラ化を想像しただけでゾッとした。
マシューはふと思い出す。
半年前、王都を騒がせた黒魔法事件。
あれも人間を異形へ変える魔法だった。
「……そう言えば、あの件はヴィクトル達が解決したんだったな。グレアム、お前には詳しく話していなかったか。」
グレアムは静かに首を横へ振った。
「報告書には目を通した。だが、あれは黒魔法師が引き起こした事件だろう。」
「ああ。」
マシューは短く頷く。
「黒魔法で人を異形へ変え、理性を奪う。あの時は術者を止めれば終わった。」
だが――。
「今回は違う。」
グレアムの声は低かった。
「犯人が見えん。魔物だけではない。猿まで変異している。」
「世界そのものが侵されているように見える。」
マシューも腕を組み、小さく息を吐く。
「だからこそ、ヴィクトル達には先へ進んでもらう。」
「我々は後方から情報を集め、異変の全体像を掴む。」
「……役割分担だ。」
グレアムは再び前方へ視線を向けた。
「伝令を増やせ。小さな異変でも見逃すな。」
「猿が変わった。」
「ならば次は鳥か、獣か、それとも――。」
最後の言葉だけは口にしなかった。
二人とも、その続きを想像してしまったからだ。
人間。
隊列は静かに街道を進む。
だが、その場にいた誰もが、世界が少しずつ壊れ始めていることを肌で感じていた。
⸻
先方を移動する真琴達の隊列。
真琴が乗る馬車内で真琴は、リオの隣に座っている。
彼に小声で聞いた。
「リオは、精霊の姿が見えるの?」
シャドームーンは、別だけどと付け加えて。
「精霊だけじゃないよ。生き物の情報そのものが見えるように作られてる。」
見えるように作られたと言っている。彼の存在意義。
「私にも見えるように出来る?」
先ほど、エマさん達の隊列と合流の時に、精霊使いさんを紹介してもらった。彼女は常に五属性の精霊が友として同行しているらしい。だが、その姿は全く見えなかったからだ。
「見えるようになりたい?」
「この先で必要になると思うから」
「そっか」リオが『うん』と頷いて肩を真琴に預けて寝た。
いや、寝たように見せた。意識だけをオルフェウスに繋げているのだろう。改めて彼が分身なんだと真琴は意識した。
「あら?リオってばお疲れ?」
フィオナが聞いた。
「うん。ちょっと準備で私が結構無理言ってたから」と
真琴は答えた。嘘は言ってない。
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