【第6章】 第138話

【第6章】第138話 黒翼の包囲

真っ黒な空間が広がる。

上下左右と真っ直ぐと立っているつもりが、方向感覚を狂わせる。

「オルフェウス…」

「オルフェウス…」

「オルフェウス…」

リオは、叫ぶ。

オルフェウスは、分身であるリオと転生者の真琴に対する態度は180度違う。

真琴は、リオが居た時に一緒に来た事がない。だから…

上下左右の全方向からの空間圧縮!

「うう…」

「まだ、ふらふらと遊んでいるだね?私の分身よ」

「それは…違…う」

「まえ、良い。お前に期待などしておらぬ。」

言って、魔法陣がひとつ浮かんだ。

「視の魔法陣だ。レンズに付加出来る。高瀬真琴自身の付加にするなよ?あれは大事な構造変換の要なのだから」

空間の圧縮から解放されて、肩で息をするリオ
オルフェウスが浮かべた魔法陣に手をかざすと吸い込まれるように身体に入った。

(僕への付加は構わないか)身体に刻まれた魔法陣を確認して、この空間を後にした。

「ふう…あの分身もそろそろ限界かのう」
オルフェウスは、ヒトリ(ひとつが)呟きを落とした。

オルフェウスが居るこの空間も揺れる。
光の無い真っ黒なのに、黒のウェーブが届く。
構造のバグ、崩壊は進んでいる。

「高瀬真琴、遊んでいる暇は無いのだよ」



馬車の中、腕を組んで目を瞑っていたリオが『がはっ』っと息を吐いて上半身を飛び上がるように起きた。

「リオ?」真琴が落ち着かせようと腕を掴む。

「あ…真琴?わ、悪い。大丈夫だから。悪い夢見たみたい」

「顔色悪いわよ?」フィオナが向かい側から心配して声をかける。

「大丈夫。」窓の方に顔を向けて、レオンハルトに声をかけた。

「レオン、外の空気吸いたいから、隣いい?」

「ああ。話し相手も欲しかったから嬉しいよ」
後続も連なっているので、動いている馬車から器用にリオは、運転席に移動した。

「相変わらず身軽だな」レオンも感心する。

「馬はどう?怯えていないかい?」

「今の所はな。この先はわからんさ」

「なあ、リオ一つ聞いて良いか?」

「僕に答えられる事?」

「ああ、今回の問題の魔石があるじゃないか?
魔物から魔物への移植ならばわかるんだよ。
でもさ、さっき倒したイノシシもそうだが、魔石を心臓と交換って可能なのか?」

「それを言ったら、魔石に精霊のコアがって所も不思議がって欲しいんだけどさ」

「あっ、そうか。ありえん→ありえん→ありえんって移動なのか?」

「その通り!過程の部分を古代魔法式を利用しているってわけなんだけどさ。でも、そんな古代魔法あったかな?って所で魔法庁も動いてるんだよ」

「ほー、わかりやすく説明ありがとさん」

「どういたしまして。」

「それを踏まえて聞きたいんだけどさ」

「何?」

「さっきから空のカラス増えてね?」

レオンハルトに言われて、リオが空を向いた。

リオが見上げた空は、いつの間にか黒い点で埋め尽くされていた。

一羽、二羽ではない。

木々の上から、街道の先から、まるで誰かに呼び寄せられたように無数のカラスが集まり始めている。
「……うわっ! レオン、早く停めて!」

「エマさん達にも知らせてくる!」

「逃げた方がいいんじゃないのか?」

「空の生き物を舐めるな!数がここまで増えてるんだ。振り切るには王子の馬車は兎も角、この馬車も後ろの馬車も性能が劣る」

レオンハルトと、緑水の調べの馬車が停まったのを確認して、数メートル先にアレクシス王子の馬車も停まる。

ヴィクトルが走って、レオンハルトたちの所に来た。

「どうした?」

「あれだよ」リオが空を示す。

今にも襲ってきそうな勢いのカラスが空を染めていく。

馬車から真琴達も外に出てきた。

「うわぁ……ホラーだね」

カラスは、そばで見るとその大きさと迫力にたじろいでしまう存在だ。それが、街道の街路樹にも空も染めるほどに数が増えている。

緑水の調べののリーダーのエマさんも駆け寄ってきた。

「レオンくんの馬車も、私たち冒険者ギルドの馬車も頑丈には作ってある。でも、あの数の鳥を避けながら逃げ切れるほど速くは走れないわね」

「うん。僕たちもそう話してたよ」
リオとレオンハルトはお互い頷いた。

「では、ここで迎え撃つのか?」
ヴィクトルの後ろについたルードヴィッヒも聞きてきた。

「迎え撃つは、撃つけど、王子達には、先に行ってもらおうと思うのね」

エマは、アレクシス王子の従者アベルに言った。

「私だって迎え打てるぞ!」
アレクシス王子は、戦力外と思うのか?とエマに聞いた。

「さっきまでの作戦は、ここまでの数は想定してなかったから。退治の方向で行くしかないわ」

精霊使いのマナミや真琴達にも同意を求める。

「その上で、ここに全員が残る必要はないと私は思うわ」
と、エマさんは結論づけた。

「そうなると、剣よりは攻撃魔法使い系が残る方がいいわね」

ギャアアアアッ!

空を埋め尽くしたカラスが、一斉に鳴いた。

「悠長な時間は無いな」
ヴィクトルが呟く。

「レオンくんの馬車も、私たちの馬車も逃げ切れない。」

エマは即座に結論を出した。

「王子殿下の馬車だけ先へ! 私たちがここで時間を稼ぐ!」

「私だって戦えるぞ!」

アレクシス王子が一歩前へ出る。

「だからこそです。」

エマは真っ直ぐ王子を見据えた。

「あなたは、この国の未来です。ここで危険にさらすわけにはいきません。」

アベルも静かに頷く。

「殿下、ここはエマ殿の判断に従いましょう。」

アレクシス王子は悔しそうに拳を握り締めたが、やがて小さく頷いた。

「……皆、必ず追いついて来い。」

「もちろんです。」

エマが笑みを返す。

すぐさま王子の馬車へ乗り込む者が決まる。

王子、御者、アベル、護衛騎士エドルク。

そして、真琴、クラリス、フィオナ。

「真琴達まで?」

レオンハルトが驚く。

「回復役と補助役は王子殿下と一緒に。ここは攻撃役だけで十分よ。」

エマの指示に全員が頷いた。

ギャアアアアッ!

空を埋め尽くしたカラスが、一斉に羽ばたく。

「来る!」

リオが叫ぶ。

「出発!」

アベルの号令とともに王子の馬車が街道を駆け出した。

何羽かのカラスが後を追う。

「フィオナ!」

「任せて!」

光弾が夜空を駆け、一羽、また一羽と撃ち落としていく。

「攻撃魔法、覚えたの?」

真琴が驚く。

「ルードヴィッヒ師匠に、少しずつ教えてもらってるの。」

しかし――。

大半のカラスは王子の馬車を追わなかった。

無数の赤い瞳が、残された冒険者たちを静かに見下ろしていた。

ーーーーーーーーーー
ここまで読んでいただきありがとうございます。
少しでも続きが気になったら、スキやフォローで応援してもらえると嬉しいです!

前の話
次の話
【第6章】まとめページ
【第5章】まとめページ
【第4章】まとめページ
【第3章】まとめページ
【第2章】まとめページ
【第1章】まとめページ

いいなと思ったら応援しよう!