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【短編小説】⑨ブラッドオレンジに染まるマンションの給水塔の前で


第9話 待つのをやめた日

朝の日差しがいつもより強く感じる教室で、
日向蓮《ひなた れん》は
机に突っ伏したまま、
呼吸を整えていた。


まぶしさより先に、
胸の奥の重さだけが
残っている。

昨夜から、同じ番号から
無言電話が何度も鳴った。
ただ沈黙だけが流れる。

用件があるわけでも、
悪意があるとも
限らないのに、

“何かを待たれているような
気配”だけが、
ずっとまとわりついて
離れない。

海斗が覗き込む。

海斗「蓮、寝てねぇだろ。
いつもの顔じゃねぇ」

蓮「平気だって。
ほっとけよ」

言った瞬間、
自分でも
“平気”じゃないことが
わかった。

海斗はそれ以上
追及しなかったが、
心配だけが残っていった。

放課後、
蓮は一人で帰り道の
コンビニに寄った。

なんとなく
雑誌棚の前に立ち、
手を伸ばす。

自分でも理由は分からない。
しかし、
そのページをめくった瞬間、心臓が跳ねた。

──見覚えのある顔。
──見覚えのある名前。

【あの人は今──】
失踪した父の“転落”を、
軽い口調で
面白おかしく書いた記事。

蓮は最後まで読まず、
本を閉じた。

怒ればいいのか、
笑えばいいのか、
涙を流せばいいのか。

どれもしっくり
こないまま店を出た。

気づけば、
足が勝手に
マンションの方へ
向かっていた。

給水塔が夕空に
長い影を落とし、
その影が蓮の足元に伸びる。

蓮「……なんで、ここなんだよ」

答えはどこにもない。
だが、この塔の下に立つと、胸の奥が少しだけ
静かになる。

海斗と凪が
息をしてきた場所の、
いちばん下。

風が吹き、
蓮の髪を揺らした。

昨日の風と同じなのに、
今日は少しだけあたたかい。

《地上にも、風は吹く。
 ……もう少しだけ、
この場所で立ってみるか。》


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