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【短編小説】⑥走り抜くこと〜誰よりも先に駆け抜ける〜

第6話 「取材ってことにして」


誰もいない新聞部の部室には、
紙とインクの匂いだけが残っていた。
僕は昔から、ひとつに没頭すると周りが消える。

シャッターを切って、
言葉を持たないものの気配を勝手に読む。
分かってる。そんな正解なんてない。

でも「読むつもり」で見ると、
世界は急に面白くなる。


軒先の地味な花、踏切の枕木のくたびれ、
河原に散った形の違う石。
僕はそれを、スマホのメモに言葉で留める。

変人扱いされても直す気はなかった。
好きなものは好きだから。

ふと、花菜を思い出す。
明るくて早口で、誰にでも優しかった子。
中学の県大会で入賞するほど強かったのに、
足の病気で競技をやめ、転校して海外へ行った。

告白すらしていないのに、勝手に失恋になった。

「……なんで今さら」

千景先輩がいない隙に、
昨日の陸上の記事を読み返す。
タイトルが決まらない。

文字数の枠だけが僕を追い詰める。
【梨央】・【留年ピンチ】・【謹慎】
――彼女の“止まった理由”が、やけに気になってしまう。

そのとき、スマホが鳴った。
メッセージじゃない。電話だ。
出るか迷って、出た。

『名刺みたいなの渡されてさ。暇だから電話しちゃった』
声の主は梨央だった。

僕は反射で笑ってしまう。
鉄仮面は、電話じゃ役に立たない。

梨央『なに? おかしいの? 教えてよ!』
悠真「秘密」
梨央『ケチ。じゃあ罰としてさ土曜、付き合って。
都心まで行こ。気分転換したい』

悠真「じゃあ……取材ってことで、ロングインタビューでもする?」
梨央『よくわかんないけど、いいよ』

通話が切れても、胸の奥が妙に騒がしい。
僕はベッドの上で一回転、二回転。
時計の針が早く進めばいいのに!
と思ったのは生まれて初めてだった。

気づけば夜中の三時。
僕はまだ、眠れていなかった。

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【連載中】走り抜くこと

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