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【短編小説】⑭走り抜くこと〜誰よりも先に駆け抜ける〜

第14話 元日の掲示板

元日の朝、
町は吸い込まれるような青空に包まれていた。
梨央が初詣のために地元の神社へ向かうと、
入り口の掲示板の前に小さな人だかりができていた。

そこには、悠真が書き上げた
駅伝特集の壁新聞が張り出されていた。
タイトルは『呼吸の合わせ方』。

添えられた写真には、
必死な形相で襷を伸ばす悠真と、
それを受け取ろうとする梨央の、
飾らない「全力」が写し出されていた。

そして記事の後半には、
あの竹林の美しさと、
そこを走ることで
どれだけ勇気づけられたか、
感謝の言葉が綴られていた。

「これ、商店街のあのおじさんじゃないか。
いい顔して走ってるなぁ」
「この竹林の道、本当に綺麗だったものね」

足を止めた町の人たちが、
自分のことのように
笑いながら記事を眺めている。

不法占拠というトゲを抜いたのは、
糾弾する正義ではなく、
その場所を愛する人たちの温かい視線だった。

ふと見ると、人だかりの後ろに、
あの竹林の家の主である老人が立っていた。

老人は、掲示板の写真を
長い間じっと見つめていた。
梨央と目が合うと、
彼は少しだけ困ったように眉を下げ、
ゆっくりと会釈をした。


その顔に、かつての険しさはなかった。
彼はそのまま静かに、
バリケードのあった竹林の方へと歩いていった。

その背中は、
自分の「独り占め」を守るためではなく、
美しい景色を「分かち合う」ための勇気を、
ようやく手に入れたように見えた。

梨央は、掲示板の端に
「新聞部・悠真」と誇らしげに書かれた名前を見つけ、
胸の奥が熱くなるのを感じた。

自分たちの走りは、
ただの自己満足ではなかった。

あの日、あの道を走ったことで、
バラバラに生きていた町の人たちの心が、
ほんの一瞬だけ
同じ襷を握ったかのように繋がったのだ。

梨央(走って、よかった。本当によかった)

神社の境内で、
梨央は悠真を見つけた。
彼は自分の記事を
少し照れくさそうに眺めていた。

目が合うと、
二人は言葉を交わさなくても、
同じ「ありがとう」を
感じていることが分かった。

新しい一年の始まり。
掲示板の前で、

梨央は自分のバイタリティが
町の一部として
溶け込んでいくのを感じながら、
高く澄んだ空を仰いだ。

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【連載中】走り抜くこと

【完結済】短編小説『天空の鏡』

【完結】短編小説『ブラッドオレンジに染まる・・』

【完結】短編小説『沈む七色の海〜町に希望が灯る』

【完結】短編小説『海まで歩いて五分』全9話

【完結】短編小説『はざま』全9話

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