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【短編小説】⑬走り抜くこと〜誰よりも先に駆け抜ける〜

第13話 書き留めた一行

大晦日を迎え、
町中が正月を迎えようと慌ただしく動く中、
梨央と悠真、そして千景は、
あの中継地点のベンチに座っていた。

千景は、数日前に自分が書き込んだ
SNSの投稿を全て削除した。

代わりに悠真が綴ったのは、
不法占拠を糾弾する言葉ではなく、
あの日あの竹林を抜けたときに感じた「光」の記憶だった。

「竹の葉が風に揺れる音が、
応援歌みたいに聞こえた。
あの道があったから、私たちは襷を繋げた。
場所を守ってくれてありがとう」

サークルのメンバーたちが書いたメッセージと一緒に、
その手紙を家主のポストへ投函してから二日が経つ。
返事はない。

だが、梨央たちは不思議と穏やかな気持ちでいた。
自分たちのエゴを押し付けるのではなく、
ただ大切に思う気持ちを届けられたからだ。

除夜の鐘が響き始める頃、
悠真から梨央に一枚の写真が届いた。
夜の散歩に出た悠真が撮ったのは、
あの要塞のように閉ざされていた竹林の家だった。

「梨央、見て。バリケードが少しだけ、
脇に退けられてる」

写真の中、威圧的だった
「立ち入り禁止」の看板は倒れ、
代わりに小さな門松が置かれていた。

家主が、自分たちの言葉を受け取ってくれた。それは完全な解決ではないかもしれない。けれど、冷え切っていた対立の空気が、除夜の鐘とともに溶けていくような予感がした。

梨央は自室のノートを開き、
新しいページに一行だけ書き込んだ。

『美しいものを守るには、
その美しさを愛する人を増やすこと。』

これまでの梨央なら、きっと
「正しいか、正しくないか」で
白黒つけていただろう。

でも今は、
走ることを通じて知ったバイタリティが、
他人を許し、共に歩むための優しさに変わっていた。

遠くで百八つ目の鐘が鳴り響く。
梨央は窓を開け、
冷たくも清々しい風を吸い込んだ。

新しい年は、あの竹林の道を、
みんなの笑顔で
走り抜けることができるかもしれない。

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【連載中】走り抜くこと

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