【ちょっと昔の世界一周】 #40 《楽しい刺激》
イスタンブール発の夜行バスは、闇夜を切り裂き順調に進んでいく。
車内の電気は少し前に消え、乗客のほとんどは眠り始める。
到着予定時間は翌朝、しかも早朝。
そこからのことも考え、私も眠りにつくことにした。
目を閉じようと思ったが、ふと、窓の外の世界に目を奪われた。
バスが走っているのは明かりの少ない道路。
そのおかげで綺麗な星空が広がっている。
よくよく考えると夜中の移動は珍しい。
最初にラオスに向かった時の夜行バス。
その後はフェリー、寝台列車を利用したがそれ以外は基本的に日中の移動。
夜の街歩きとはまた違った夜空を眺めながら改めて眠りにつこうとすると、肩に隣の人の頭が乗ってきた。
偶然の再会を果たしたその女性と共に、私はトルコ北部にある街【サフランボル】に向かっていた。
*****
イスタンブールでの滞在は、これまでの私の旅の中でも一番と言ってもいいほど楽しい日々であった
バザールやモスクで過ごす時間、街歩きの中で始まる雑談も刺激的で面白い。
旅を始め、アジアで知ることができた自由な過ごし方。
それがヨーロッパ(イタリア)ではなかなかできない、というよりは違った。
そんな旅人としての自由な時間の使い方が、トルコでは再びできている気がした。
バザールを目的もなく歩き回り、絶対に買わないであろう貴金属や骨董品の店の客引きに声をかけられる。
相手も相手でこいつ(私)は絶対に買わないということを分かった上で、こちらに声をかけているであろう。
〝これ買うかい?〟 〝どうしようかな?やっぱりいらない〟
という会話をすることもなくただ話す。
知り合いでもなければ、販売する者・購入する者ではない関係。
でも、こんな関係でも繋がっていく会話。
旅を感じられる楽しい時間
道端で声をかけられ、最終的に食事を一緒に食べつつ絨毯を買わされそうになったりという怪しい出会いもあった。

そうかと思えば、遠距離恋愛に悩む青年の相談をなぜか一緒に考えたりもした。

※彼らについて詳しくはこちら↓
始めは散歩中に声をかけられたのがきっかけで、食事以外でも何度も訪ねたケバブ屋もできた。

なんとも面白い街である。
こんなにも充実した滞在になった一番の理由は、やはり宿のおかげだろう。
〝Tree of Life〟
イスタンブールに行ったらツリーに行け!
ラオスで出会ったタカダさん以外からも、ツリーの噂は聞いていた。
もちろん、いい話だけではない。
それでも、ツリーに行ってみようという私の勘は間違いなかったようだ。
歴戦の猛者であるタカさんだけではない。
ツリーを訪れる旅人はいろんな意味で個性が溢れている。
(私もそう思われていたのかもしれない…)
楽しくもあり、刺激を感じる宿生活。
そんなツリーには世界一周経験者もチラホラ。
それも、私のように世界一周航空券ではなく。好きなように行きたい場所に行っていたら結果として世界一周していたという人も…
歴史的にも東西の文化の交差する国トルコということもあり、アジア・ヨーロッパ間を進んでいく旅人の情報交換の場としても人が集まる。
貿易路としてのシルクロードから始まり、旅人のバイブルともいえる【深夜特急】のルート。
さらにあの有名なテレビの企画でも旅をしたこともあり、このルートを通る旅人は数知れず…
そこに私のような中長期の旅人や休みを利用してくる人もいる。
ここで聞いたことはあったが、初めて出会ったのは〝チャリダー〟の人。
チャリ(自転車)で旅をするからチャリダー。
そういう旅の仕方も知ってはいたが、場合によっては野宿もしていくその旅のスタイルは、憧れもありつつ私は無理だと考えていた。
そんなチャリダーの人たちの話はやはり興味深い。
そんな中、最も衝撃的だったのは【山本弘】さんの話。
※ブログも書かれ、本も出ているので名前を出させていただきます
彼は【グルジア】からトルコを訪れていた。
※現在は〝ジョージア〟ですが当時の表記通り〝グルジア〟で書きます
私がツリーに着いたのは2008年8月19日。
彼は1週間ほど前にトルコに入国し、イスタンブールに来て数日、ほぼ同じ時期にツリーに来ていた。
そして彼がいたグルジアは、2008年8月8日。
北京オリンピックの開幕日にロシアとの戦争が始まった。
首都トビリシに滞在していた彼は、大使館からの避難勧告を受けトルコへと来ていた。
ブログにも書くとは言っていたが、実際に話をしているからこそ聞ける内容を含め、その場にいたメンバーは実際の〝戦争〟を少し感じれた気がした。
そんな貴重な体験を聞く機会もあれば、別の意味で貴重な経験をすることもできた。
ツリーには大学の夏休みを利用し、トルコ周遊旅行をしていた青年がいた。
彼はイスタンブールからトルコ内の観光スポットを見て周り、再びツリーに戻ってきていた。
昼過ぎのこと、リビングに来た彼が突然
「今日、母さんが来るんですよ〜」
と言い出した。
聞けば大学生活も一人暮らし、夏休みもこうして旅行に来ている息子に会いたくなって、母親が自分も旅行がてら息子に会いにくるらしい。
なかなかすごい話である。
そこにいたメンバーも
『母ちゃんやるなぁ〜』
という感想だったのだろう。
せっかくだからご挨拶でも…
という意味の分からない責任感を持ったメンバーとして、彼の他に私を含め三人の部外者!?が到着を待つことになった。
雑談をしながら待っているとチャイムが鳴る。
彼は下を確認し、鍵を開け玄関まで迎えにいく。
キャリーケースを持った彼とお母さんがリビングへとやってくる。
「こんにちは〜、お世話になってます〜」
とてもノリのいいお母さんである。
息子と久しぶりに会った、しかも海外にいることもありハイテンションでみんなに挨拶してくれる。
部外者メンバーの一人が、キャリーケースを見て声をかける。
「あの、お母さん、、、もしかしてここに泊まるんですか?」
男女別とはいえ、ここはドミトリー。
一言で言ってなかなかの汚れ。
さらにたまにお湯が出なくなるシャワーしかない宿である。
(決して悪い意味ではないのだが…)
このお母さんならもしかして、、、
と思いつつ、一応確認してみる。
「いえ、私がいるとこの子も気を使うだろうし別のホテルを予約してます。この近くなんで、ひとまず空港からまっすぐ来ちゃいました〜。お土産もあるし!」
理解ある親である。
心配しつつも出しゃばり過ぎず、さらに自分も楽しむ気満々である。
ひとまず出迎えたし親子の時間でも、と部外者集団は席を外そうとすると
「あっ、日本からのお土産、皆さんもどうですか!」
お土産、、、
当然、皆興味津々である。
せっかくだからお言葉に甘え、もう少し居ることにする。
キャリーケースをゴソゴソとし始め、はいっ!と出てきた物を見てその場にいたメンバーは驚いた。
その手には、日本では当たり前のコンビニで売られているおにぎりが二つ。
「皆さん、海外にいると〝パリパリ〟の海苔のおにぎりなかなか食べれないでしょ!あと、お茶も持ってきたから!」
その場にいた一同、感激した。
もし三泊四日のような旅行ならここまでの感動はなかったであろう。
海外では〝日本の〟コンビニおにぎりなど、見ることのできないお宝のようなものである。
しかも〝パリパリ〟の海苔…
「お母さん、最高です!」
誰からともなく拍手が沸き起こる。
その他も息子へのお土産を渡し、一段落すると二つのおにぎりを四人の男で分け合うという、滅多にできない経験をしパリパリを堪能した私たち。
お母さんと荷物を持って送っていく彼を見届け、部外者集団はそれぞれの生活に戻っていった。
*****
数日の滞在だったが毎日、いや、ほとんどの時間が刺激的だったイスタンブール。

ここから私はパムッカレという街に向かう予定だった。
だが、先にトルコを周遊した大学生の彼と話している時に【サフランボル】という街はいいと教えてくれた。
他にも数人、訪れた人たちがいたが皆いい街ということを言っていた。
こういう話を聞くと、私の気持ちはすぐ揺れ動く。
『せっかくなら行ってみるか!』
そんな思いつきで目的地変更。
調べてみると、サフランボルからパムッカレまでのバスも出ている。
私の勘だが、トルコは楽しい刺激に満ちている気がする。
イスタンブールに戻ってきたらもう一度ツリーにきます!
そんな気持ちで挨拶を交わす。
「いないメンバーもいると思うけど、タカさんは絶対いるから安心してね〜」
そんなことねぇよ!とタカさんが言った気もするが、絶対いるだろうな〜と思い宿を後にし、バスターミナルへと向かう。
『久しぶりの夜行バス、しかも一人だから気を引き締めていこう!』
楽しい時間もあるが、油断はできない。
気合いを入れてバスを待っていたが、ふとターミナルのドアの方に目をやる。
タイミングよくドアが開く。
その時入ってきた人と目が合う。
「あっ…」
お互いに覚えていたようで、自然と声をかけた。
目の前にいる女性は、ギリシャからの寝台列車に乗った際にホームで出会った日本人だった…
