【ちょっと昔の世界一周】 #42 《黒海の片隅で...》
朝の散歩を終え、宿に戻るとシオリさんが勢いよく話しかけてきた。
「ねぇねぇ!聞いてよ!黒海に行くツアーがあるみたいなんだけど、これよくない!!」
とチラシを見せてくる。
内容は、サフランボルから黒海に面した街まで、日帰りで往復の車を出してくれるというもの。
途中、観光スポットらしき場所に寄るが現地では自由時間ということなので、正直なところ車代といったところだろう。
旅はしているものの、ツアーというものとは縁がなかった。
一度だけ、バンコク最終日に時間潰しも兼ねて利用したぐらい。
それと、気のあった仲間とベンメリアに行ったが、決まりきった予定ではなく、行き当たりばったり…
それ以外は基本的に一人で観光するスタイルだった。
(スタイルもなにも単純に私のコミュニケーション・言語力の問題だが…)
しかし、今は違う。
偶然の再会をしたシオリさん、さらに巻き込まれるように!?行動を共にしてくれているヤン君。
『こういう旅もいいかもしれない…』
そんな考えで、ヤン君にも話をすると乗り気になってくれた。
話もまとまったし、申し込もうかと思っているとさすがシオリさん。
すでに申し込みを始めていた。
ツアーの出発時間にはまだまだ余裕がある。
部屋の準備もできていないので、今度は三人で朝食でも食べに行こうかと話をしていると、宿の奥から二人の青年が出てきた。
見た目は日本人。
しかし、見た目で人は判断してはいけない。
シオリさんはというと、ヤン君の件があるので今回は少し慎重になっている。
とはいえ、ここは日本人によく知られた宿。
日本人の確率は高いであろう。
向こうもこちらを見て、どうしようといった雰囲気。
こういう時はさりげない一言である。
「ども〜」
〝どうも〟とも〝○○○(外国語の雰囲気)〟とも受け取れる、曖昧な声かけをすると
「あっ、どうも…」
この返事は日本人だ!
そうとわかれば、会話は簡単である。
二人は大学の同級生で、夏休みを利用して旅行中でのタケシ君とナオト君。
以前にタイに一緒に行って、今回は二度目の海外二人旅中とのこと。
一昨日、サフランボルについて今夜のバスで移動をするらしい。
私たちも自己紹介をしていると、なんと二人も黒海ツアー(ツアーなのか…)に申し込んでいるとのこと。
時間もあるし、みんなで朝食を食べに外に出てみる。
二人とも街歩きをしていたこともあって、食べ物屋や買い物情報をいろいろ教えてくれる。
そんな二人だが二人旅ということもあり、自分たちの会話だけでも人と関われるので、そこまで英語を使うことはなかったらしい。
というわけで英語力はというと…
なのでヤン君とはあまり話せていなく、私が拙い通訳をすることに…
それでも漢字という共通言語があるおかげで、話が弾み楽しく過ごすことができた。
宿へ戻ると私たちが泊まる部屋の準備ができたとのことで、正式にチェックインを済ます。
それぞれのベットに荷物を置き、手荷物を持ちいざ出発!
のつもりだったが、タケシ君たちから声がかかる。
「海に入れるみたいなんで、水着あってもいいみたいですよ〜」
海か〜…せっかくならと思ったが、これまでの旅で街歩きの楽しさも知れた。
多分一人では行かなかったであろう街。
ならそこを見るのもいいかと思い、そのままの準備で行くことに決める。
その横ではシオリさんが大急ぎでバックパックから水着を探している。
ドタバタしてるシオリさんに声をかけ、宿の外で待つことにした。
黒海に面した街までの車は、宿から少し歩いた場所で乗ることになっていたので準備を終えたシオリさんを含め、五人で歩いていく。
予定通りの時間に車が来ている。
『こういうところはアジアと違う!』
そんなことを考えながら、運転手に声をかけると私たちの姿を見て数を確認し始める。
ヤン君が会話し私とシオリさんで聞き取った結果、もう二人申し込んでいるので、その二人が来たら出発するとのこと。
私たちだけじゃなかったんだ!?と思いつつ、車の周りで待っているとこちらに向かってくる二人組の女性たちがいた。
運転手が声をかけると、彼女たちが参加者だった。
全員が揃ったところで挨拶をする。
二人ともアジア系なのだが、日本人とは少し雰囲気が違う。
こういう時はヤン君の出番である(笑)
そこで驚きの事実が判明する。
なんと二人ともヤン君と同じく台湾人!
マギーとセリアと名乗った二人と共に車に乗り込む。
心なしかヤン君が先ほどまでよりもウキウキしている。
それもそうだろう。
気がつけば日本人四人の中に入っていたタイミングで、同じ台湾人の二人が一緒になったのだ。
さらに、女性が増えたことでシオリさんも楽しそう。
やはり、男性陣の中に女性一人も気を使っていたのだろう。
そんなこんなで、道中は日本語、台湾語、英語が入り混じり楽しい時間を過ごせた。
マギーとセリア
話を聞くと二人は従姉妹。
マギーは結婚を控えていて、独身生活の最後の楽しみとしてセリアと旅行に来たそうだ。
台湾出身とはいえヤン君と違い、西洋的な名前だなぁ。と思っていたが、会話の途中で二人が教えてくれた。
台湾では【イングリッシュネーム】というものがあるようだ。
本来の名前は漢字を使ったものなのだが、発音が難しいこと、さらに将来的に英語圏での生活を見越して、本名の他にイングリッシュネームというものを持つことが一般的のようだ。
ヤン君はというと【ヤン】という名前が発音されやすいこともあり、そのまま使っているそうだ。
日本人一同がイングリッシュネームを初めて知り感心している中、車は着々と目的地へと進んでいた。
*****
楽しい時間というものはあっという間である。
私たちを乗せた車は黒海沿岸の街へと着いた。
運転手と集合時間と場所を確認し、後は自由行動。
とはいえなんとなく流れで全員で歩き出す。

タケシ君とナオト君、そしてシオリさんはすぐに海に向かっていく。
台湾人チームはというと、砂浜でゆっくりしたい女性陣に久しぶりに母国語で話せるヤン君が話をしている。
そんな中、私はというと当初の目的通り街歩き。
とはいえ、せっかく海沿いの街に来たので、海が見える範囲を歩き回る。
フッと、イタリア最後の街であるバーリのことを思い出す。
考えてみると、あっという間にトルコまでやってきた。
全ての原因はアテネでの一騒動。
しかし、あの出来事のせい(おかげ?)でこのタイミングでトルコに入り、こうして仲間と共に海を見に来ている。
そう考えると最終的にはいい結果になったのかなぁ…という考えになってくる。
(もちろんあの時の怒りは忘れていないが…)

海を眺めてボーッとしていると時間が過ぎていく。
せっかくなら街の方も見に行こうと思い、歩き出す。
しばらく歩いていると
「Hey Nobu !! Come here !!」
と声をかけられる。
声のする方を見るとヤン君たち台湾チームがカフェで一杯ひっかけている。
「帰りまでまだ時間あるし、飲んでこうよ!」
そう言われて断る理由もない。
席につき飲み物を待っていると、マギーがテレビを指差す。
「Japan final game just strating !!」
なんと、オリンピックの陸上男子のリレーの決勝戦が始まるところ。
しかも、日本代表選手もその舞台に立っている。
無駄にネット屋に顔を出していたアジアとは違い、最近はあまり利用していなかったこともあり最新ニュースにあまり縁がなかったが、オリンピックの決勝にいることの凄さは瞬時に理解できた。
食い入るように画面を見ていると、タイミングよくシオリさんたちも近くにやってきたので、一緒に見始める。
お店の人、さらに他のお客さんも私たちが日本人(台湾人も含めアジア)ということもあり、応援を始めてくれる。
そして、スタートの号砲が、、、
時間にしてわずか30秒ほどだった。
しかしその間のその場の一体感、そして結果が出た時の歓喜の瞬間…
日本としては初めて、4×100mリレーでのメダルを手に入れた瞬間、トルコの小さな街の片隅で、お店をあげての祝勝会が繰り広げられていた…

